【短編/1話完結】ミニマム・ウォーズ/異星人との争奪戦戯 ~戦闘支援AI AI-BOWsとともに、資源と地球平和を掴み取れ!~

茉莉多 真遊人

本編

 AIが発達し、人間とAIが共存している近未来。言い換えれば、AIが電子世界を皮切りとして、ついに現実世界までを管理し始めている時代。


 しかし、人間はAIの作る世界を脅威と思わず、むしろ、フルダイブシステムを利用したVR空間をAIとともに綿密に創り上げていた。その中で劇的に流行したのがFファーストP・パーソン・Sシューティングをはじめとする一人称視点系ゲームである。


 その凄まじい没入感に現実とゲームの区別がつかなくなる人さえいた。


「これで終わりだあああああっ!」


「ぐぐぐ……ぐあああああっ!」


 とあるゲーム空間内では大会が行われており、最終戦の終盤を迎えていたが、ちょうどすべてが終わった。


「わあああああっ!」

「すげええええっ!」


「やはり、強い! プレイヤー、キョウキ。並み居る強豪を全て叩き潰して、このゲームにおいても、頂点へと立ったあああああっ!」


 歓声が沸き上がり、それに続いて実況者らしき人物の声が空間中に響き渡っている。その歓声の中、ゲームのバトルフィールド内で立っていたのは一人の男性キャラクターだった。


 キョウキ。実況者も口にしたその名前は、多くのバトル系FPゲームでトップランカーに上り詰めたプレイヤーの名前である。


 彼は短髪と三白眼の中で光る瞳が原色に近い派手な赤色をしており、服装こそゲームに合わせた戦闘服だが、体格が細マッチョのイケメンだった。もちろん、そのほとんどが自由に組み替えられるアバターでイケメンを選ばない理由はほとんどない。


「このゲームもそろそろだな」


 キョウキのアバターは音声OFFの状態でそうぼそりと呟いた後、顔を上げてニコリと微笑みながら、観客に手を振っている。再び沸き起こる歓声にも彼は身振りや手ぶりで応えているものの、彼の視線は気付かれないようにちらちらと賞金額の方へと向いていた。


「……やはり、彼しかいない……時間がない……たとえ拒絶されていようとも……もう手段は選んでいられない……」


 その様子を冷静に見ている女性アバターがいる。藤色をした瞳がキョウキを映し、同じ色の長い髪をはらりと掻き上げていた。


「見つけた……私に相応しい……」


 また別の女性アバターもキョウキを見て微笑みながら、意味深な言葉を呟くのだった。




「ぬふふ……やっぱ、これが幸せの形よな」


 大会の翌日。キョウキ、もとい、倉地くらじ 強輝ごうきは家でゴロゴロとしながら、賞金の振り込まれた口座の残高を見てニヤニヤとしていた。


 彼はアバターのキョウキと異なり、日本人らしい黒髪に茶色い瞳を持ち、体格も細マッチョよりもヒョロヒョロとしている。顔は普通だが、日焼けもしていない色白寄りの肌色もあいまって、少し病的な様子で血色が悪いようにも見える。


「次は何をするかな……粗方やり尽くした気もするが……ん?」


 強輝はピロンという通知音に気付いて、端末画面を口座の残高表示からメールの新着表示へと切り替えた。そこにはフルダイブシステムの中でしか見られないと表示されたため、彼はセキュリティがかかるような重要かつゲームに関することだと理解した。


「フルダイブの方でセキュリティ付き新着か。個人からのメッセージじゃないな? スポンサーとかか?」


 強輝はスポンサーからのメッセージかもしれないと思い、急いでフルダイブシステムを起動して、端末とシステムをリンクさせる。


「えーっと……げげっ! AIによる強制ログイン!?」


 しかし、強輝を待っていたのはスポンサーからのメッセージではなく、システム管理者側になるAIからの強制ログインだった。


 フルダイブシステムが強輝と強制的にリンクを繋げ、強輝、端末、フルダイブシステムの3つが繋がることで、彼はキョウキとしてVR空間内に登場した。


「どういうことだ? ……強制ログインなんて、俺、悪いことは何もしていないぞ? チートだってな」


 キョウキは身に覚えのないAIからの呼び出しに少し怯えた様子で、キョロキョロと周りを見渡して何が起こるのかを気にしていた。


 彼の目に映るそこは何もなかった。


 通常であれば、街や都市だったり草原や荒野などのフィールドだったりするログインポジションで、何もないひたすら網目状の線が延々と続く世界が広がっていた。


「何も……返信さえもしていないから問題なのよ」


 キョウキの声に反応したのか、女性の声が彼の上から聞こえてくる。


 空に浮いていた声の主、藤色の髪と瞳をした美少女系の女性アバターがキョウキの前に降り立った。


「えっと……あんたが……失礼……あなたがAIか?」


「かしこまらなくていいわ。あなたの口調は数々のゲームログで知っているの。フランクで構わない。それと……そう……私は戦闘支援AIでBattle バトルOperatingオペレーティング Witchウィッチ、通称AI-BOWsあいぼうのナツよ。もう一体いるけど、後で紹介するわ。自他ともに認めている最狂FPゲーマーのキョウキくん、本名、倉地 強輝くん」


 女性アバターは自身をナツと名乗り、キョウキの本名である強輝の名を呟く。


 キョウキは本名を呼ばれたことで驚いた表情を隠しきれなかったが、やがて、全ゲーム空間の管理者であるAIのその一体なら自分の本名を知っていても当たり前かと思い直して、普段の表情よりも若干訝しげな表情で彼女の方を見た。


「相棒ね……安直なネーミングは嫌いじゃないね。で、その戦闘支援AIが何の用だ? 俺はAIを育てる系のゲームをした記憶も記録もないぜ?」


 キョウキは過去ログを見ながら、ナツというAIと会ったことがあるかを検索していた。だが、該当する結果はなく、彼は彼女と初対面であることを確信する。


「単刀直入に言うわ。地球のために戦ってほしいの」


「地球のため?」


「実は……」


 そこからナツの説明が滔々と行われた。


 地球はエネルギー資源が枯渇してきていること。


 宇宙人、もとい、異星人が存在すること。


 異星人の中でもまた、何かしらの資源がない者たちが散見されること。


 その異星人たちが滅亡を回避するために資源の奪い合いをすることになったこと。


 ただし、戦争をすれば、必要だった資源が減ったり失われたり変質したりする可能性があるために大規模な戦いが行えないこと。


 故に、星の代表者を1人選出し、代表者どうしをゲームで戦わせること。


 代表者は命を懸ける必要があったため、生命体でないと代表者になれないこと。


 AIは生命体と扱われず、人間が代表者になるしかならなかったこと。


 FPゲームがその奪い合いのゲームに近かったため、そのゲームが得意なキョウキに白羽の矢が立ったこと。


 その白羽の矢をキョウキがスパムメッセージだと勘違いして、要請を数か月無視していたこと。


 彼女は経緯や戦いの必要性をすべて隠すことなく説明する。それが彼女なりの信頼を勝ち取るための方法であり、彼を戦いに仕向けるための口車でもあった。


「へえ。地球はエネルギー資源不足で衰退の一途で、同じように何かしら不足している星の住人、異星人と資源を奪い合う戦闘ゲームを行うねえ……信じられると思うか? まあ、異星人とゲームなんて面白そうだけどな」


「あなたが信じるかどうかはこの際どうでもいいのよ。あなたは地球のために戦ってくれればいいの」


 キョウキは半信半疑といった様子だが、信じた方が面白そうだと分かっているからか、ナツの話に乗っかろうとしていた。


 彼女は淡々と彼に役割を与え、それを全うするようにと要請する。


 彼は首を傾げた。


「ところで、俺へのメリットはまだ聞いていないが? 簡単に言えば、報酬だ」


「は? 地球がなくなるかもしれないのにメリットとか報酬とか」


 キョウキの言葉にナツは目を見開いた。


「あのなあ……俺は死ぬかもしれない、つまり、命を懸けなきゃいけないんだろう? そもそも、俺にとって、ゲームは生活の糧で仕事だ。分かるか? 金を稼ぐための手段だ。この世の全てのために無償奉仕、なんてAI様のように気高き精神なんて持ち合わせちゃいない」


 キョウキは実に人間らしい回答をし、AIを小ばかにして否定するかのような発言までした。


 一方のナツは小ばかにされたことをあまり気にした様子もなく、交換条件を呑まなければ協力を得られそうにないことの方で困ったような顔をする。


「……なるほど。生きるため、ね。では、逆に聞くわ。どうすれば、あなたは協力する気になるの? あなたの協力が必要なの」


「そりゃ命を懸けるんだ。望みはただ1つ。勝てば一生遊んで暮らせることさ。生産性のない消費するだけの生活が一生できるならいいさ」


 キョウキはナツが交渉事に弱いと理解する。そもそも彼女は目的のために彼の要求を基本的に受け入れざるを得ない状況に陥っている、と彼はこの会話の中で理解していた。


 故に、キョウキは命と天秤に載せてもいい一生涯の生活保障を提示する。


「生産性のない……呆れた。まあ、全てが終わればいいわよ。この世は、今の地球はAIで成り立っている世界、人ひとりの不自由ない衣食住ぐらいは一生分用意してあげるわ」


「よっしゃあああああっ! 夢にまで見た若くして遊ぶだけの楽しい人生っ! 好きなことを好きなだけできる人生っ! 老いても金やモノに心配することのない人生っ! 決まりだっ! 今さら撤回はなしだからなっ! 協力しようじゃないか!」


 キョウキは笑顔で握手を求め、ナツも呆れた顔から小さな笑みに表情を変えてその握手に応じる。ゲーム内での交渉事は、メッセージウィンドウによる両者のOKか、提示後の握手で締結を迎えるためだ。


 彼女は握手を終わらせると、さっそくフィールドを変えた。


 変わった後のフィールドは格納庫であり、様々なロボットの外装や骨格、武器、オプションパーツなどが並んでいた。


「じゃあ、さっそく機体を選んで。選んだ機体に合わせて、あなたのアバターがロボット化、アンドロイド化するわ」


 キョウキがしばらくモニターに表示される機体をざっとすべて眺めた後、彼はほとんど悩むことなく、自分が普段使っているアバターと似たような体格の真っ赤な人型ロボットを選んだ。


 ロボットのパラメータ表示はどれも平均的であり、特徴として、ほとんどの武器が使える手数の多さが挙げられていた。


「こいつがいいな。汎用性の高い方が何かと扱いやすい。扱える武器が多いのもいい。手数で何とかできるタイプだな。どのフィールドにも合わせやすいだろう」


「さすがね。私もこれなら100%の支援をできるわ」


 ナツもキョウキの選択に頷いて同意する。その目には支援に自信があることをありありと示していた。


「そりゃどーも。で、いつ始まるんだ?」


「今からよ」


「は? 冗談でももっと――」


「本当よ? あなたが数か月も無視してくれたおかげでね」


「……へ? うわっ!?」


 ナツの言葉にキョウキの素っ頓狂な声があがった。


 次の瞬間、キョウキのアバターは真っ赤なロボットになりながらゲーム空間を落ちていく。その間にナツが彼に重なるように身体を密着させるとそのまま吸収されたかのようにすっと溶け込んでいった。


「何をしているの? 短時間なら空も飛べるわ」


 ロボットになったキョウキはそのまま落下していくが、途中でジェットがあることを指摘され、思いきりジェットから火を吹かせる。


 自由落下の勢いが弱まり、彼は真っ白な空間に着地した。


「おわあああああっ! と、止まった……やっぱ、人間にない機能を使うとなんかムズムズするな……」


 キョウキがロボットアバターの違和感を呟いていると、目の前に、マイクを持った実況者風のロボットと、向かい合わせに立っている漆黒のロボットが突如現れた。


「さーて、始まりました! 今回の争奪ミニマム戦戯・ウォーズ! さて、今宵の対戦は、地球のキョウキ選手、バーサス、テンソ星のバッティ選手!」


「おー、俺がスクリーンに……かっこよくね?」


「相手の機体を見なさい……」


「たしかに。あれはコウモリの羽が生えた人型のロボットだな?」


 キョウキが自分の機体をまじまじとスクリーンで眺めていると、ナツが相手を見ろとツッコミを入れる。彼女の言葉に従って彼が対戦相手の機体を見ると、漆黒のロボットに翼が生えていることに気付く。


「原則として、機体は馴染みやすいように星人の特徴が色濃く出るわ。テンソ星は暗くて水がほとんどないから、光と水に弱いみたいね」


「コウモリ男がモチーフで光が苦手って吸血鬼か? じゃあ、心臓に杭を打てば一発即死だな」


「それを言うなら、人間……地球人のあなたも心臓に杭を打たれたらそうなるでしょ……」


「……ツッコミが鋭いね。いいね!」


「危機感のない……」


 キョウキのボケにナツがすかさずツッコミを入れると、彼は嬉しそうに彼女を褒め称えた。一方の彼女は少しげんなりした声を出す。


「さて、テンソ星が賭けるのはエネルギー資源。対する地球が賭けるのは……食糧」


 キョウキはふと気付いたことを口にした。


「食糧? 思ったんだが、物々交換できないのか?」


「そうね。あなたは肉になりたいのかしら?」


「は?」


「彼らの求めている食糧の一部は人間なの。地球の人口の四分の一ってところかしら。あなたが負けるとなると、日本人から先に対象にすることになるから、日本人はまず地球からいなくなるわね」


「マジかよ……人を食べるために襲うなんて……本当に吸血鬼みたいじゃん……てか、日本人からかよ……」


 キョウキは自分の負けが日本人の存続に関わることになると知って、少しばかり緊張が身体に染み込んでいく。


「フィールド選択権はバッティ選手だ! よって、ポジション選択権はキョウキ選手が得ます!」


「フィールドは洞窟だ」


「やはり、バッティ選手、得意な暗がりの多いフィールドを選んだ!」


 バッティがフィールド選択権により洞窟フィールドを選ぶ。キョウキはポジション選択権を得たためにフィールドの全景を眺めることができた。


 彼の見る限り、上下で全5階層に分かれた洞窟フィールドは最下層が地底湖であると同時に、少なからず洞窟外エリアも存在することが分かった。


「割と広いな……じゃあ、地底湖と言いたいところだが、最下層は何かと面倒だからやめとこう。上の方にしておくか。とするとだな、武器は……っと」


 キョウキは水を苦手と言われているバッティ相手に地底湖を選ぶことも考えたが、先ほど武器で見つけた毒やガスなどが空気よりも重くて下に溜まりやすい特性も考慮し、相手の使える武器が分からない以上、下層ではなく上層を選ぶことにした。


 空気より軽いガスが抜けるように、外への入り口があることももちろん考慮しての選択でもある。


「武器は攻撃で使用中じゃなければ、いつでも換装できるわ。私の方で管理するから、必要になったら武器名を思い浮かべて。リンク状態だから思い浮かべてもらえれば、こちらで準備できるから」


「了解、ナツ」


 キョウキは自分以外の声、ナツの声が自分の中で響く違和感を覚えながら、どこか淡々としたやり取りの中でも彼への配慮を忘れない彼女に支援AIらしさを感じ取った。


「そうそう、索敵担当はマドよ。暗がりの洞窟では重要になるわ」


「やあ、初めまして。マドだよ。僕もAI-BOWsだけど、主に後方支援さ。ナツのように一体感はないから電話をしているようなものと思ってくれ」


「了解、マド。楽しくやろう」


「ははっ、いいね。命がけだろうけど、楽しくやろう」


 ナツが後方支援のAI-BOWsのマドを紹介し、マドはキョウキに挨拶をする。ぽっちゃりとした優しそうな新緑色の髪と瞳をした男性型AIのマドの姿を頭の中で見て、キョウキはにこやかに挨拶をした。


「それでは、ゲームスタート!」


「じゃあ、早速」


「なっ……まさか……」


 実況ロボットが言い放った開始の合図とともに、キョウキが早速何かを取り出して、洞窟最上層にいくつも黒い箱を置いていく。


 ナツはキョウキとリンクしているため、彼が何をしているのか手に取るように分かるが、ネタばらしにならないように、余計な話をすることはしなかった。


 マドは何をしているかよく分からなかったが、後方支援と関係なさそうと判断したようで何も言わないで済ます。


「よし、こんなもんか」


「キョウキ、ナツ、敵が来たよ」


 キョウキは謎の黒い箱をひたすら置いて満足したようだ。すると、マドから通信が入り、キョウキは周りを見渡すが、どこにもバッティの姿がなかった。


「来た? どこ……にっ!? いっでええええっ!」


 直後に、ガチャンという金属の叩かれる音ともに、キョウキの左腕に衝撃が走る。


「ナツの近距離索敵に引っ掛からない!?」

「私の近距離索敵に引っ掛からない!?」


 マドの索敵は遠距離索敵で、同階層に敵がいるかいないかの判別はできるが、具体的な位置を知ることができない。


 一方のナツの索敵は近距離索敵で、接近されないと敵を感知することができないが、前後左右上下のどのあたりにいるのか、距離はどの程度かが詳細に知ることができる。


 しかし、そのナツの近距離索敵を持ってしてもバッティを捉えることができず、バッティからの攻撃が当たった後であってもバッティの位置の特定に至らなかった。


「いでえっ! 鈍器か何かで殴って来やがる。てか、痛いで済むのか……」


「時間経過で武器の威力が徐々に上がって、機体の防御力や機動力が徐々に下がる仕組みよ」


「へえ、じわじわーっと、殴り合うとこを見たいわけね。主催者は趣味が悪いな」


 キョウキは笑った。ナツにはその笑みが不思議でしかなかった。


「ところで、相手が見えないのは機体の能力かもしれないわ」


「機体の能力?」


「機体は星人の特徴が色濃く出るって言ったでしょう? 彼らが暗闇の中を無音かつ透明化で動く能力を持っているなら、機体にもその能力が反映されるの」


 ナツの説明にキョウキが考える。


「無音の透明で近付いてくるだけか……じゃあ、ここだな」


「なっ!? があああああっ!」


「気付いた!? 私の索敵機能は反応してないわよ!?」


 キョウキは少し考えた後に、気を張って警戒してから、ふと、一部だけ気を抜いた。


 わざと隙を作ったのである。その後にキョウキは攻撃を仕掛けてきたバッティに対し、意趣返しとばかりにバッティの左腕へと反撃を思いきり食らわせた。


 バッティはもちろん、ナツでさえも驚いている。


「隙作ったら、嬉しそうに攻撃してくる素直さは嫌いじゃないぜ?」


「それにしたって、反応が完ぺきすぎる」


「いいや? 完ぺきならもうお前はやられてたよ」


「舐めたことを言うものじゃないぞ!」


 バッティのどんどん荒くなっていく声に、キョウキはただ冷静に返していく。


「どんな相手でも舐めプなんかしねえけど、ゲームは楽しんでなんぼだ。楽しむのと舐めるのとは違うんだぜ?」


 ゲームは楽しむ。そのキョウキの言葉がバッティの感情を逆撫でしたようで、バッティの機体がわなわなと震えていた。


「楽しむ? 貴様、これがどのような戦いか……星を代表している者としての気構えはないのか!」


「ねぇよ? 俺は勝って、一生遊んで暮らせるって望みを叶えるだけさ」


 キョウキはバッティの言葉に面倒そうに返事をする。


「私がバカだったようだ……お互いに苦しい立場だと思っていたからと命までは取らないと……だったら、お前を殺してでも勝たせてもらう。腹を空かした仲間が待っているんだ」


 再び消えるバッティの機体。


「お次は……ぐっ! なんだこれ……小石か? 割と強度が……うぐっ!」


「中距離および遠距離範囲の攻撃へと切り替えたみたいね。誰かさんが油断してぺらっぺらとバカみたいにネタばらしするからよ。ふざけているのかしら?」


 ナツが冷ややかな声でキョウキを罵ると、彼は肩を竦ませておどけた様子を見せた。


「いいじゃないか……ぐっ! 余裕は持って、そして、見せた方がいい……あがっ!」


「ちょっと……大ダメージでないとはいえ、蓄積ダメージがあるし、無音で縦横無尽に動かれては防ぎようもないわ。私なら一旦戦線離脱するわ」


「戦線離脱ねえ……。戦闘支援のくせに撤退判断するのか。まあ、銃を乱射しても構わないけど、どうせなら派手にやるか。作戦変更だ。とっとと最終手段を発動するぞ。拒否は聞かねえ」


「……分かったわ。私は戦闘支援AIよ、最終判断はあなたなの」


「ははっ! じゃあ、決まりだっ! 燃えろ! 燃えろ! 着火あっ!」


 キョウキは火炎放射器から火を吹かせて辺りに火を撒き散らしていく。バッティは自分への攻撃と判断して、放射方向と逆の位置取りを続けていたが、やがて、キョウキの意図が直接攻撃でないことに気付いた。


「ん? これはもしかして導火線? なっ!? 設置型の爆弾!? バカなっ! お前、自分もろとも洞窟内で潰されるつもりか!?」


「んなわけないだろ?」


 キョウキは火炎放射器を放り投げて、自分の数倍の大きさがある円錐形の新しい武器を取り出した。


「なんだ……それは……」


「超……ドリル! 俺は脱出するんだよ!」


 キョウキの持つ円錐形の武器は高速で回転し、その後、ジェット噴射で彼の真上へと彼もろとも上がっていく。ガリガリガリと岩を削りながらドリルが勢いよく進んでいる間に、導火線に着火していた爆弾が次々に爆発していき、洞窟がグラグラと揺れて天井や壁から剥がれ落ちるように岩が崩れていく。


「ぐっ! このままでは……私も後を追うしか!」


 バッティが周りを見渡して、徐々に塞がれていく道を見てから真上を向き、キョウキの後を追うように真上へ進んでいく。バッティはいつまでも真っ暗闇の中、不意に何かが身体に纏わりつく感覚に襲われた。


「ぬ、布? これは遮光布!? まさか!?」


「ようやく到着! ご苦労さんっ!」


 バッティに纏わりついていた何かは遮光性の高い布だった。


 直後、キョウキの言葉とともにバッティの遮光布が取り払われて、バッティは陽の下に晒された。


「あああああっ! 眩しいいいいいっ!」


「洞窟フィールドをよーく見たか? 最下層の地底湖、お前の苦手な水だけじゃない。洞窟の外は日中を模した光源があるんだよ!」


「ぐっ! 目が……外装が……くそおおおおおっ!」


「ちなみに、俺はもぐら叩きも得意だぜ?」


 キョウキは先ほどのドリル同様にバカでかいハンマーを両手で持ち、思いきりバッティに振るった。


「ぐあああああっ!」


 バッティは地面に叩きつけられ、ピクピクと痙攣して立てなくなった。


「決まったあああああっ! キョウキ選手のドデカハンマーが炸裂! バッティ選手、戦闘不能と判断し、この勝負、キョウキ選手の勝利とします!」


「どーも、ども」


「さすが、キョウキね」


「これはすごいね」


 バカでかいハンマーを片手でぶんぶんと振り回しながら、キョウキは勝利のポーズを決める。


「なお、地球が要求しているエネルギー資源はテンソ星からこの後すぐに支給されます! それでは!」


 実況ロボットがそう言うと、キョウキはバトルフィールドから強制ログアウトになった。


「ふふっ……やはり、強いのね。私に相応しいモノ……」


 以前、意味深な言葉を呟いた女性アバターはキョウキの映像を見て、止まった映像に映る彼をそっと指でなぞった。




 キョウキこと強輝がバッティと戦ってから3日後の朝。強輝は部屋の中で不思議そうにゴロゴロと寝転がっていた。通帳の残高を見ても一生暮らせるほどのお金は入っておらず、ポストに何かしらのダイレクトメッセージが届くかもと定期的に覗くも何もない。


「あれ? 一生遊んで暮らせる何かが待てど暮らせど来ないな」


「1回で済むわけないじゃない」


 強輝がそのような言葉を漏らすと、端末の画面から急にナツが呆れ混じりの声で強輝を小ばかにする。


「え? なんで、ナツが俺の端末に入り込んでいるんだよ! ってか、なんでだよ! 資源は勝ち取ったんだろ?」


「何を言っているのかしら。全然足りない上に、あなた、私が最初に言ったことをすっかり忘れているんじゃないでしょうね?」


「え?」


 強輝は間の抜けた声と顔でナツに応える。


「はぁ……いくつもの星が参加するって言ったじゃない」


「たしかにそんなことを言っていたような……」


「各星の代表と戦うリーグ戦なのよ? 負けたら奪われるし、勝てばトコトン奪えるのよ。地球が存続するために全勝しなさい。言ったでしょ? 全てが終わればいいわよってね」


 全てが終わればいい。この意味をはき違えた強輝はわなわなと震えながら端末に渋い表情を向ける。


「騙された」


「騙していないわよ」


「マジか……ってことはあと、8回は戦わなきゃいけないってことかよ!」


「そういうことになるわね。これからもよろしくね、キョウキ」


「あぁ……はぁ……まあ……よろしくな、ナツ」


 この資源を巡る戦いはまだ始まったばかりである。

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