因習村

ふましー

因習村

因習村


A「どうも(グループ名)のAです」


B「おら!おら!」(ハンマーを振り回している)


B「さあ、はやく逃げて」

B「もう捕まっちゃダメだよ」


A「何してるん急に」


B「ファミレスの配膳をしてくれる猫ロボット、かわいいですよね」

A「え?ああそうやけど」


B「解放してきました」

A「あかんあかんあかん」

B「猫が好きなので」

A「何してんねんお前」

B「自由を与えたくて」

A「あれ別に囚われて強制労働させられてるわけじゃないから」

B「猫の猫による猫のためのファミレス」

A「猫のエイブラハム・リンカーンや」

A「猫の奴隷解放宣言してる」


B「すまん、でも本当の正義は時と場所を選んで発揮するものじゃないと信じてるから」

A「近所の人に正義感の強い立派な方だったと評価されてるタイプの凶悪犯や」


B「代わりに今日はお前の夢を聞こう」


A「え?いいんですか?」


A「僕東京でサラリーマンしてるんですけど」

A「セカンドライフとして田舎に住んでみたいなって思うんですよ」

A「いつか綺麗な奥さんと結婚してね、海とか自然のあるところでのんびり暮らしてみたいなって」


B「なるほどな」

B「それ、今日からは俺の夢にもさせてくれ」

A「根はいいやつなんよなあ」


B(船の警笛の音)

B(御茶)「あ、島が見えてきたよ。見て、あそこが私の故郷」

A「お、島なんや。いいですね澄んだ空、白い砂浜、青い海」


B(御茶)「御茶も久々に帰るなあ〜」

A「変な名前」

A「御茶?A御茶?」


A「やば、生まれどこやねん」

A「ここやわ」


B(御茶)「Aくんもきっと気に入ると思うよ!島の人たちも親切な人たちばかりだからね」

A「いいですね。田舎ならではの温かいご近所付き合いとかね。憧れです」


B(御茶)「あ、着いたみたい」


AB(船から降りる)


A「へ〜ここが御茶の地元かあ〜」


B(笛が鳴る)

B(太鼓が鳴る)

B(クラッカーがなる)


B(横断幕を張る)

B「よ・う・こ・そ」


B(花火が一つ上がる)


B(島民たち)「いらっしゃいませ!!」


A「めっちゃ歓迎されてるやん!」

A「なんやこれ」


B(御茶)「みんなAくんが来てくれるのを楽しみにしてくれてたんだよ!」

A「いや、ありがたいですね本当」


B(島民1)「ようこそ!御茶さんの旦那さんですよねお待ちしてました」

A「ああ、ありがとうございます」


B(島民2)「みんな舞い上がっちゃって、ご迷惑だったらすみませんね」

A「いやいやそんな!歓迎してもらえてとても嬉しいです」


B(島民3)「饅頭さんが来てくれるのも久しぶりじゃからのう島を気に入ってくれるといいが」

A「ああ、ありがとうございます……?」


B(御茶)「あ、島では外から来た人を饅頭さんって呼ぶの。可愛らしいでしょ」

A「あ、そうなんや。じゃあ、饅頭のAです。よろしくおねがいします」


B(村長)「どうも、この村の村長です」

A「あ、村長さん。これからよろしくおねがいします」

B(村長)「いやいやこちらこそ君が来てくれたおかげで島も安泰だよ」

A「いやいやそんな」


B(御茶)「じゃあまずは私の実家を案内するね。こっちだよ」


A「あ、ありがとう」

A「本当に綺麗な島だなあ」

A「今日は天気にも恵まれたし、なんか空気も東京より美味しい気がして」


B(山茶)「もう食いとうない……食いとうない……」


A「なんか、ガリガリのおばあさん」

B(御茶)「ああ、気にしないで。つばきさんって方で、変わってるけど悪い人じゃないから」


B(山茶)「この島のものなど口にしとうない……」

B(山茶)「食べることは罪深い……」


A「大丈夫かな?ご飯食べた方がいいと思うけど」

A「モデルさんのSNSを見過ぎない方がいいですよ〜」


A「ごめん、いこっか」

A「いやそれにしてもこんな長閑で心安らぐ場所に住めるなんて、夢みたいだよ」


B(御茶)「ふふ、そうでしょ?Aくんなら気に入ると思ったんだ」

A「ああ、こういう綺麗な海辺をずーっと歩いたりするの夢だったんだよなあ」


B(御茶)「よかった。あ、でもあんまり海とか森に勝手に近づきすぎちゃダメだよ」


A「あ、そうだよね。危ないもんね」


B(御茶)「うん、怒られちゃうからね」

B(御茶)「ウオジョク・ションハ様に」


A「え」


B(御茶)「あ、ここが私の家だよ!」

B(御茶)(チャイムを鳴らす)


B(緑茶)「はーい午後野です〜」

A「旧姓午後野!?」


A「午後野御茶!!?」


B(緑茶)「あらいらっしゃい。待ってたわよ」

A「あ、お母さん初めまして。僕御茶さんと結婚させていただきましたAと申します」

B(緑茶)「あらご丁寧にありがとね〜」

B(緑茶)「ってあなた嫌だわよく見ると本当に素敵な」

B(緑茶)(顔を近づける)


A「いやいやいや」

B(緑茶)「本当に素敵な……頭の形をしてるわね」

A「独特の褒め言葉」

A「そんなん言われたことないですけどね」

B(緑茶)「さあ入って入って饅頭さん」

A「バカにしてないですよね?」

A「そんなに誉めどころなかったですか?」


B(緑茶)「お父さん、饅頭さん来てくれましたわよ」

A「あ、どうも御茶さんと結婚させていただきました……饅頭のAです」


B(麦茶)「お、君が饅頭のA君か。娘が世話になっているよ」

A「あ、お父さん優しそうな人でよかった」


B(緑茶)「さあ料理持ってきたわよ〜」

B(麦茶)「お、今日はご馳走だなあ」

A「うわあありがとうございます」


B(緑茶)「じゃあその前に自己紹介だけするわね」

B(緑茶)「私が、御茶の母の、緑茶です」

A「緑茶!?」


B(麦茶)「私が父の、麦茶です」

A「麦茶!?」


B(緑茶)「あとで紹介するけど、ウチ方のお祖父ちゃんが、さんぴん茶です」

A「沖縄の方ですか?」


B(緑茶)「そしておばあちゃんが、飲茶です」

A「中国の方で……」

A(宙をキョロキョロする)

A「お茶じゃない!」

A「危なかった!騙されなかったぞ」

A「飲茶はお茶を飲みながらする食事のことや」


B(緑茶)「そして庭のペットがリョク」


A「……」

A「お茶犬の本名や」

A「あの緑の犬のキャラクター」

A「え?誰が覚えてるんですか?」


B(緑茶)「あ、あともうしばらく帰ってきてないんだけど、御茶の妹がいてね」

A「あ、そうなんですか」

B(緑茶)「そうなの。でも仕事が忙しいからって全然帰ってこなくって」

A「それは寂しいですね」

B(緑茶)「そうね。また会う機会があったら挨拶してあげてね」

B(緑茶)「二番茶」

A「ひどい!」


A「御茶の妹に二番茶って名前つけてる!」

A「一番茶の後に摘まれる、一般的に味が落ちる茶葉の名前つけてる!」

A「そら帰ってこんわ!」

A「進んで疎遠になれ!」

A「結婚した上で改名して別人になれ!」

A「誰もが自分の人生の主人公になれ!」


A(数拍黙る)


A「紅茶わい!」

A「紅茶はおらんのかい!」


A「なんで午後野って苗字でお茶の名前の家族に紅茶がおらんねん!」

A「こっちはずっとそれ待っとってん」

A「二番茶より先につけるべき名前やろ!」


A「ほんでそのせいで俺の子どもに変な期待が生まれるやろ!」

A「絶対つけへんからな!」

A「俺の子どもの名前はサンジにしたるからな」

A「おやつたくさん食べる良い子に育てたるからな!」


A「あとごめん別に紅茶もつけるべき名前ではない!」

A「下手したら二番茶よりイジられる!」


A(肩で呼吸をする)


B(緑茶)「まあ妹の分もと思ってどんどん食べちゃって」

A「はいありがとうございます。すみませんうるさくしてほんまに」


B(緑茶)「若い男の人に食べてもらうの久しぶりだから嬉しいわ」

B(緑茶)「これから揚げと、ハンバーグと、ホルモン焼きと、ミートパイと、もつ煮込み」

A「ワンパクやな!」

A「肉ばっかやんけ」

A「野球部の中学生やと思ってんのか」


B(緑茶)「これ挟んで」

B(緑茶)「ケバブと」

A「よう作ったな!」

A「火当てて?回して?」

A「すごい家やなほんま」


B(緑茶)「まだまだいくらでもあるからたくさん食べてちょうだいね」

A「いやでもありがとうございます」


A「あ、から揚げめっちゃ美味しいです」

A「これ鳥じゃないでしょ。なんのお肉なんですか?」


B(緑茶)(一瞬だけ黙る)


B(麦茶)「はははご馳走はいいなあ久々だよ」

B(緑茶)「そうねえいつもって訳にもいかないからね」

A「はは、そうですよね」

B(麦茶)「にしてもこんなにご馳走があったなんて、どこからいただいたんだ?」


A(ここらへんから徐々にAの表情と態度が暗くなる)


B(緑茶)「ほら、去年の饅頭さんの」

B(麦茶)「あーあのときのか!結構前じゃないか」


A「お土産ー、みたいな感じですかね?」


B(緑茶)「こういうのは大事な時に取っておかないとね」

B(麦茶)「おいおいそんなにケチケチしなくっても、ってそのおかげで彼にご馳走を振る舞えてるんだからいいことか!」

B(緑茶)「そうよ!せっかく来てくれたんだもの!こういうときのために普段は節約しないとね」

B(御茶)「もう、お父さんお母さん、そんな仰々しくされるとAさんも食べにくいじゃない」

B(麦茶)「ああ、悪い悪い。貧乏性が出てしまった。ささ!どんどん食べてくれよ」

B(麦茶)「せっかくの饅頭さんなんだから」

B(緑茶)「そうよ、今日はお腹いっぱい食べてね饅頭さん」


A「はは」

A「そうですね。本当こんな歓迎してもらえて」

A「本当ありがたいです。めっちゃ嬉しいです」


B(緑茶)「そう?そう言ってもらえると嬉しいわ」

A「こんな手の込んだ料理初めてなんで、すごく、こう」

A「あ、すみません、お手洗いお借りしてもいいですか?」

B(緑茶)「ええ、わかるかしら?この部屋出て右の突き当たりになってるんだけど」

A「あ、大丈夫です。1人で行けますんで」


A(ぺこぺこしながら向かう)


B(麦茶)「いやあ御茶も立派な饅頭さんを捕まえたもんだ」

B(緑茶)「本当親として鼻が高いわ」

B(御茶)「えーやめてよお父さんお母さん」


B(笑い声が聞こえてくる)


A(トイレに入ってめっちゃ吐く)


A(しばらく息を切らす)


A「あかん!絶対部外者を神様に捧げて、自分らでも食ってるタイプの島に来てもた!!」

A「最悪や!」


A「めっちゃ歓迎してくれる思ったら」

A「なんか部外者に変な呼び名あるし」

A「わざわざ村長が俺が来て島が安泰になるとか言ってるし」

A「島の闇に耐えきれなかった老人おったし」

A「絶対一回で聞き取れんタイプの神様おったし!」


A(息を数回切らす)


A「なんかご馳走としか説明されん謎の肉出してくるし!」


A(息を数回切らす)


A「あかん、とりあえず逃げな殺されてまう」

A「トイレの窓は、空くな!よし!」


A(走る)


A(走っている間Bは首を前に出した石像をやる)


A「くそ!絶対良いお嫁さんもらったと思ったのに!」

A「めっちゃ島の生活楽しみやったのに!」

A「嫌やあ!全部俺の勘違いであってくれえ!」

A「素敵な島を疑ってすみませんと謝らせてくれ!」


B(双子1)「くすくす、お兄さん走ってどこ行くの」

B(双子2)「くすくす、滑って転んじゃ危ないよ」


A「お、おい」


B(双子1)「悲劇の少女を奉りあげ〜」

B(双子2)「大きく膨らむ罪と贄〜」


A「あかん!鞠つきながら不気味な童歌歌ってる双子の少女おる!」


A「くそ!逃げないと!」


A(走る)


B(島民4)「あらあら今日来られた方じゃない」

A「あ、すみません饅頭の」

B(島民4)「ああ、いいのよ饅頭なんて変なあだ名私嫌いなの」

B(島民4)「それよりずいぶん走ってどうしたの?」

A「あ、ちょっと良い景色だったのでランニングに」

B(島民4)「そう!それはよかったわ。お腹も減るでしょ?ちょうどおにぎり作ったの。持ってお行きなさい」

A「あ、はい。ありがとうございます」


A(走りながらおにぎりを食べる)

A「なんや、優しい人もおるやんけ」

A「そうや、これは俺の勘違いなんや」

A「おにぎり美味しかったしな」

A(包み紙をじっと見る)

A「この紙なんか書いて……」

A「早く、逃げろ……?」


A(紙を放り投げる)

A(走る)


A「あかん!隠れて島の危険性を伝えてくれる住民おった!」

A「くそがよ!」


A(走る)


A「ここは……交番、駐在所ってやつか」

A「今は誰もおらんみたいやな」

A「助けを求められたらよかってんけど」

A(言いながらなんとはなしに物色する)


A(走る)


A「あかん!くっそ分厚い札束あった」

A「この島で起こったことは全て本部には内緒のやつや!」


A(石像の前で立ち止まる)


A「あとさっきから等間隔に首を差し出してる石像が置いてある!」

A「どういう意味!?」


A「はい!確定!もうやばいですこの島!」

A「人を!を殺してます!」


A「見てないけど!島の歴史館に不気味な巻物があります!」

A「見てないけど!村長の家に不気味な置物が飾られてます!」

A「見てないけど!区役所に村民の心得とかいう不気味なしきたりが張り出されてます!」

A「見てないけど!しきたりその1は島民は団結して島の平穏を守るべし」

A「もしくは島の恵みに感謝し、日々努めること忘れる勿れです!」


A(手を膝について息を切らす)


B(記者)「お、この島の住民かい?僕は記者をやっている者でね」

B(記者)「この島には独自の文化や風土があると聞いてやってきたんだが、話を聞かせてもらえるかい?」


A「お前は!今晩!島の秘密を知りすぎて!失踪という形で!消される!」


(走る)


A「くそ、勢いのまま走ってきてしまったけど」


A(ゆっくり立ち止まる)


A「島の中で逃げたって意味ないんちゃうか……」


B(御茶)(後ろから)


B(御茶)「あら、ランニングは終わった?」

A「な、なんで俺より先に向こうから歩いて来れるんや」

B(御茶)「ここは私の故郷だもん。あなたよりこの島のことはよく知ってるの」


B(御茶)「そんなことより、やっぱり、逃げたってことはそういうことよね」

B(御茶)「あなたはこの島の人間に殺される、そう思ってる」


A「ああ」


B(御茶)「この島の違和感に、あなたはいち早く気づいて、逃げ出そうとした」

B(御茶)「この島には独自の文化がある、それは公に言えない内容でもある」

B(御茶)「察しの通りよ」


B(御茶)「でも、これだけは信じてほしい」

B(御茶)「私は、あなたの味方」


A「御茶……」


B(御茶)「殺されたくないんでしょ。わかってる。私のいうことをよく聞いて」

B(御茶)「この島の住民はみんな饅頭であるあなたが逃亡しないか目を光らせてる」

B(御茶)「今こうしていることも、きっと誰かが誰かに伝えている」

B(御茶)「そして逃亡の意思が認められれば、あなたは察しの通り殺されてしまう」


B(御茶)「だから、言うとおりにしてほしいの。そうすれば殺されることはないわ」

A「わ、わかった。信じるよ」

B(御茶)「ありがとう。ちょうどいいわ、日が落ちて暗くなってきた」

B(御茶)「この暗さに乗じて、森の方に行きましょう」


A「森?大丈夫なんか?」


B(御茶)「住民たちは私の家から遠く離れたあなたをもう怪しんでる」

B(御茶)「正直いつ逃亡したとして処分に来られてもおかしくない状況なの」

B(御茶)「だからまずその人たちから姿を隠さないと」


A「そ、そうだな。悪い」

B(御茶)「こっちよ」


B(御茶)(森を歩く)


A「くそ、葉っぱが擦れる」

B(御茶)「我慢して、もうすぐよ」


B(御茶)「ほら、もうすぐ開けた場所に出るから」

A「あ、ああ急ごう」


AB(飛び込むように出て、辺りを見渡す)


B(神主)「掛けまくも畏き」


B(神主)(シャンという錫杖の音)


B(神主)「ウオジョク・ションハの大神」


B(神主)(シャンという錫杖の音)


B(神主)「この度は大神のご厚情あり、奉納の準備整いますれば」


B(神主)(シャンという錫杖の音)


B(神主)「お納めいただきたく、かしこみかしこみも申す」


B(神主)(太鼓の音が徐々に大きくなっていく)


B(神主)(火が2列につく)


B(神主)「饅頭を、こちらへ」


B(御茶)「御意に」


A「騙したなあ!!」


B(御茶)(Aの腕を後ろ手に縛る)


B(御茶)「騙してないわ。あなたが逃亡すれば島民に殺されてしまう」

B(御茶)「だからそうならないように、安全に饅頭としての務めを果たせるよう、神前まで案内したじゃないの」


B(御茶)「大丈夫。もう島民に殺されてしまう心配はないわ」

B(御茶)「生まれ育った島の人たちより、あなたの望みを聞いてあげたかったの」

B(御茶)「あなたの役に立てて私、幸せよ」


A(一拍)


A「たぶん、善意で言ってますこの人!!」

A「倫理観のない人には、情愛もあっちゃダメなんですね!!」


A(後ろ手に跪かされる)


B(神主)「ウオジョク・ションハ様に、饅頭を献上いたします」


A「え、あ、ちょっとすみません」

A「今具体的に何がどう起ころうとしてるんですか」


B(神主)「ウオジョク・ションハ様は豊穣の神です」

B(神主)「我らの島の森や海、その生命を産み出してくださり」

B(神主)「それを糧に我々は生活を送ることができるのです」


B(神主)「しかし、ウオジョク・ションハ様もお力あってこそ多くを産み落とせるというもの」

B(神主)「過去はただ饅頭を備えていた儀式も」

B(神主)「若き人の頭を捧げ、より英気を養っていただくよう形を変えたのです」


A(一拍置く)


「饅頭の逆みたいなことですか?」


A(一拍置く)


A「その、昔は人の頭を供えてましたが、時代もあって生贄をやめて代わりに饅頭を供えた、みたいな」

A「なんかそういう伝承聞きますけど」

A「ね?」


A(Aは媚びるように笑う)

B(神主)(大きく笑うポーズ)


B(神主)「いや頭のほうが嬉しいでしょ、栄養もあるし」

A「あかん道徳と家庭科の授業が実装されてない!」


A「くそ!身動きが取れん!」

B(神主)「それでは饅頭の頭を切り落とし、奉納の儀とさせていただきます」


B(神主)(剣を振りかぶる)


A「ちくしょう!こうなったらこれしかないようやな!」

B(神主)「何をするつもりですか」

A「おう見したるわこら見とけよボケ!」


A(仰向けになって体をくねり始める)


A「ご注文の料理を持ってきましたニャー」


A(体をくねる)


A「ご注文ありがとうニャン、お食事楽しんでください。失礼するニャ」


A(体をくねる)


A「お客様、早めに料理とってニャン」


A(体をくねる)


B(神主)「なんだこいつ」


A(体をくねる)


A「耳を触らないでニャン!」


B(神主)「ウオジョク・ションハ様の御前で気色の悪いことをするな!」


A(両手の拘束が解け、立ち上がる)


B(神主)「は、拘束は」


A「助かったよB。本当の正義ってのは」


B(Bが銃をしまいながら現れる)


B「時と場所を選ばないからな」


B「よし!逃げるぞ!A!」


B(神主)「待て!饅頭を逃すな!追え!」


A「Bどうやって逃げるつもりや」

B「港に小型船を停泊させてある。夜に出したくはないけど、四の五の言ってられへんわな」

A「流石やな」

B「ああ、俺は人間であれば相方だろうが見殺しにするけど、猫であればロボも、詐欺臭いセミナー開いてそうな顔の男も助ける!」

A「頭がおかしくて助かるぜ!!」


B「よし、この船や。急げ」


B(先にBが乗る)


A「おう!」


A(Aが乗ろうとする)


B(御茶)「待って!」


A(振り返る)


B(御茶)「ごめんなさい!私、あなたの気持ち何もわかってあげられてなかった!」


B「おいA!耳を貸すな!」


B(御茶)「島民に殺されたくないんじゃない。饅頭として捧げられることが、いえきっと、この島の風習そのものが嫌だった」


B(御茶)「私、それに気づいてあげられなかった!気づいてたら私、私」


B「A!早く乗れ!」

A「ちょっと待ってくれ!」


B(御茶)「私、わかってた」

B(御茶)「島のために外の人を生贄にするなんて、間違ってるって」

B(御茶)「こんな風習、誰かが変えないといけないって」


B(御茶)「それに、島民に殺されようと、饅頭になろうと」

B(御茶)「あなたと結婚した私は、あなたと暮らすことができない」


B(御茶)「そんなの、間違ってる」


A「御茶……」


B「絆されるなA!お前はさっきこいつに騙されたばかりやろ!」


B(御茶)「さっきはわかってなかったの!私、本当のことが言いたい!」


B(御茶)「私本当は、この島の風習を、止めるつもりなの」

B(御茶)「もう部外者を捧げたりしない、島に来た人たちが、島の人たちと傷つけ合わずに幸せに暮らせる」


B(御茶)「でもそれは、島の人たちから見たら、どう思われるかわからない」

B(御茶)「もしかしたら、私が殺されてしまうかもしれない」


B(御茶)「だから、1人で変えるしかなかった」

B(御茶)「でも、もしあなたが、饅頭としてじゃなく、Aとして」

B(御茶)「私の夫として、ただ自然にこの島で暮らせる」

B(御茶)「そんな生活を夢見てくれるなら」


B「おい!A!」


B(御茶)「私と、この島から、誰も犠牲にならなくていい未来を」

B(御茶)「共に歩んでくれませんか?」


B「ふざけたこと言うなや!さっきまで人を生贄にしようとしてた奴が今更」

A「B!」


A「わかってる。わかってるんや」

A「彼女のいうことは信用できひん」

A「さっき騙されたばっかりや」


A「でも、もし、彼女が誰も味方のない中、間違ったことを変えようとしていて」

A「俺がそれを手伝えるなら」

A「彼女を1人にはできひん」


B「A……」


A「だってよ、B」

A「俺は、彼女の夫なんや」


B(Bは俯く)


B「ちっそうかよ」

B「お前が猫じゃなく、彼女の夫やっていうなら俺が口出しすることもないわ」


A「ああ、ありがとよ」


A「達者で暮らせよ。念願のセカンドライフ、応援してるぜ」


B(船が去る)


B(御茶)「綺麗な海だね」


A「ああ、そうだな」


B(御茶)「本当は、こうして綺麗な海を見れるだけで」

B(御茶)「綺麗な空があって、豊かな森があって」


B(御茶)「それだけで、この島は満ち足りたはずなのに」


A「ああ、そうだよ」


B(御茶)「徒に、何も知らない人を騙して、傷つけて」

B(御茶)「そうしないと神様が何もしてくれないからって」


B(御茶)「そんなはずないのにね」


A「そうだよ」


B(御茶)「見て、あそこ」


B(御茶)(指を刺す)


B(御茶)「岸壁で窪んでるところがあるでしょ」

B(御茶)「ここが、私の隠れ家」


B(御茶)「ひとりぼっちの革命基地」


A「はは、随分と質素な基地じゃないか」


B(御茶)「うん、でもこれからはAくんも手伝ってくれるから、案内したくて」

B(御茶)「ありがとう、嬉しいよ」


A「ここの窪みか。陰になってて確かに見つかりにくい」


B(御茶)(手を岸壁に当てる)


B(機械音)「掌紋、認証しました」


B(岩の壁が開く)


A「えっ」


B(御茶)「この地下が私の基地」

B(御茶)「着いてきて」


B(御茶)「Aくんはわかると思うの」

B(御茶)「この村は何も知らない人を犠牲にして饅頭を求めてる」

B(御茶)「でもそれってすごく恐ろしいことだって、私わかったの」


B(御茶)「饅頭が怖い、饅頭怖い」

A「え、ああ。饅頭怖いよ」


B(御茶)「だからね」


B(自動扉が開く)

B(こぽこぽという音)


B(御茶)「これは」

B(御茶)「これはね。私のクローン」


B(御茶)「何も知らない人を傷つけないと、神様を満足させられないなんて、間違ってる」

B(御茶)「この技術が使えるようになれば、人を傷つけなくっても、安定して、ウオジョク・ションハ様に饅頭を捧げることができる」


A(後退りをして腰を抜かす)


B(御茶)「そうすれば、この美しい島でみんな幸せに暮らせるの」

B(御茶)「そうでしょ?Aくんこれで大丈夫」


B(御茶)「それともまだ、饅頭怖い?」


A(震えながら搾り出すように)


A「今度はいっぱいの、御茶が怖い」


B(すっとマイクの前に立つ)


B「念願のセカンドライフ、いかがでしたか?」

A「正直……ちょっと楽しかったわ」


AB「どうもありがとうございました」










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