第5話 正義は無いのか?
「へ……? も、もう終わり?」
自衛隊員が余りにもあっけなさ過ぎる終わりに声を漏らす。
首のねじれ具合、具体的に言えば首の向きが180度回ってるのを見るに、誰もが致命傷で死んだと思ってしまう光景だったが……。
突如
ボギボギボギィ!!
という骨が折れるような音と共に頭の向きが正しい方向に戻った後、何事もなかったかのように立ち上がった。
「……ふぅ」
普段厳しい訓練を積んでいる自衛隊員ですら、口をあんぐりと開けて呆然としてしまう光景だ。
どう考えたって死んだとしか思えないのに、生きているだと?
「いやぁビックリしたよ。こんな事出来るなんてお前ただの人間じゃないな? オレと同じ超人かい?」
「まぁな。それにしてもお前、自分がどれだけ酷い事をやったか分かってるのか? 財務省の役人を殺して満足か?」
「相手は悪い事をしたんだぞ!? 財務省は増税で民を苦しめ! 薬価を下げさせ製薬会社を苦しめたんだぞ!? 悪を滅ぼして何が悪いんだ!?」
「その理論だと『お前も殺人鬼という悪だから』殺してもいい。って事になるんだが?」
「いやいやいや、オレは正義だぞ? オレは国民のために正しい事をしたんだぞ? 悪い奴なわけが無いだろうが」
「……100人以上人を殺しておいて言うセリフがそれか? もういい。観念しろ!」
だが相手が殴られた箇所に左手を当てると、ほんの2秒かそこらで元に戻った。
ボギボギィ!
という音と共に、
何者も、それこそ超人ですら関節だけは鍛えて強度を上げることは出来ない。それゆえ
「こ、コイツ……!」
逆に言えば、その「再生できる力」が無くなれば超人と言えど傷は治せなくなる。つまりは超人同士の戦いは「相手が傷を再生できなくなるまで殴り続ける」タフなレースとなる。
ちなみにその「再生力」は休憩や睡眠、特に睡眠をとる事で回復するらしい。
「ハァーッ……ハァーッ……」
戦闘開始から5分。
その一方、
軍隊式格闘術というのは「いかに効率よく無駄のない動きで敵を殺すか?」を追求するものだ。
それを身に付けた
プロボクシングは最大12ラウンドなのに対し、アマチュアボクシングは3ラウンドというのも理由があるのだ。
(ヤベェ……)
「させるか!」
そこで自衛隊員が奮起する。携行していた小銃とは別の銃を構え、撃つ。網が飛び出し
撃ったのはネットランチャー。不審者撃退用の護身具で網を発射し相手を捕らえるものだ。
「クソッ!」
「や、辞めろ! オレが死んだら国民はどうなる!? 誰が財務省の横暴を止められると思ってるんだ!?」
「財務省の役人よりもお前の方が桁違いに悪だろ。何人殺したと思ってるんだ?」
「この世に、正義は無いのか!?」
「少なくとも力なき民の命を奪っているお前は正義ではない。悪の手先ならぬ【”セイギ”】の手先って奴だ」
念のため瞳を開けてみると、瞳孔は開いていた。完全に死んだのだろう。
「……終わりました」
「お疲れ様。撤収しよう」
初めて人を殺した
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