第4話 白き夜明け作戦

 3月下旬。ついに警察や自衛隊が待ち望んでいたその日がやって来た。


「全会一致を持って、本法案は可決されました」

「よしっ!」


 テレビ番組を映しているディスプレイから流れる国会中継を見て警察幹部並びに自衛隊幹部は思わず席から立ち上がり手を叩く。

 ちょうど選挙で候補者に当確が出た応援者陣営と同じような雰囲気だった。




「長かったな」

「ええ、本当に。この法が通るまでどれだけ多くの警官や自衛隊員が殉職した事か……羽下はした君、来てくれ」


 自衛隊幹部に呼ばれてやってきた青年……「スニーキングスーツ」と言った方が一番近い恰好をした、黒髪の青年。

 彼こそが『白き夜明け』作戦の中核だった。




「いよいよ実戦ですか」

「そうだ、今夜実行する。隊員たちも全力でバックアップする。頼んだぞ」

「お任せください」


『白き夜明け』作戦。それは「超人をもって超人を制す、自衛隊直轄ちょっかつで動く超人、羽下はした まもるの育成計画」だった。




 日が沈んでしばらく経ち、そろそろ「深夜」と呼べる時間帯になった頃、羽下はしたと共に自衛隊員を輸送しているトラックの中で、彼は最終確認を取っていた。

 特にナイフの取り出し方は慎重に、だ。


「ナイフですか? 確か超人には効かないはずでは?」

「人工ダイヤモンドを削って作ったんだ。鋭さだけを追求してるから耐久性は度外視してる。使い捨てだな。採算も度外視してるがそれも気にするな。まぁ、お守りみたいなもんだ」


 作戦室でそう説明したエンジニアから計9本もらったうちの1本を見つめる。

 素手でも負けないとは思っていたが、人類史上初となるであろう超人同士の戦い。自分にとっては初の「殺し」の仕事だ。

 やはり緊張は隠せない。




「……怖いか?」


 仲間の自衛隊員が声をかけてきた。


「人を殺すことになるのは初めてですからね」

「俺も敵を殺したことは無いが、ためらうなよ。特に相手は超人だからな」

「……わかってます」




 トラックは佐竹さたけ ひかるが住むワンルームアパートにやって来た。

 部屋には明かりがついてない。寝ているのか、あるいは外を出歩いているのか。


「サーモカメラは?」

「やってます。熱反応は……アリです!」

「よし。行こう」


 羽下はしたは隊員に続く。アパートの管理人と協力してあらかじめ作っておいたカギを刺し、静かに回してドアを開ける。


 キー……


 かすかにドアの開く音を出したが、まだ気づかれてはいないようだ。羽下はしたを含めた隊員たちが突入する。


 部屋のベッドの周りを囲み、明かりをつける。


「コイツが佐竹さたけか!?」


 スウェットの上下に裸足という姿で、男がベッドで寝ていた。間違いない、こいつこそ佐竹さたけ ひかるだ。




「うう~……何だテメェら。こんな夜中に何の用だよ?」

「今日可決され施行された『超人対策法』に基づき、裁判所から出た死刑という求刑を施行する。罪を償ってもらうぞ」

「ハァ? 何だその超人対策ほ……」

 相手がそう言っている間にまもるは相手の首をひねる。


ゴキリ! 


 という整体師の施術音を派手にしたような鈍い音と共に、首が180度回転した。

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