第3話 憎い奴に【”セイギ”】の鉄槌を

 財務省本庁舎のとある会議室……そこで財務省の役人たち3人が血を噴き出して倒れていた。どれもこれも胴体に腕の太さほどの風穴があく致命傷。

 どれだけ優秀な救急医療スタッフですら内臓が露出している惨状を一目見ただけで「これは助からないな」と判断する程の致命傷だ。

 床は既に紅い液体で染まっており、歩くたびにピチャリ、ピチャリと水滴の音が聞こえる。




 役人たちを集めて会議をしていたところ「男」が部屋に突入してきた……それこそ「コンクリートの外壁」をぶち破って「突入」してきた。

 部屋には7名ほどいたが「男」は3名を殺害。残りは「男」が殺害行為を行っている間に逃げだしていた。

 逃げ遅れて残された財務省役人に向けて「男」は渾身の憎悪をぶつけていた。




「男」は一昔前のアメリカンヒーローを思わせるタイツのような密着性の高い服を着て紅いマントを羽織り、顔は「口は隠すが目は隠さない」ガスマスクのようなもので覆われていた。


「男」は生き残った「滅ぼすべき相手」のえりをつかんでにらみつける。その視線は「自分の目の前で父親を殺し、母親を犯した上で殺害した仇」のような憎悪に満ちたものだった。


「オレは人を殺すのは好きではない、むしろ大嫌いだ。だから減税をして薬価を見直すのなら見逃してやってもいい」




 財務省の役人は目の前で「男」が同僚を殺したのを見て季節はまだ春だというのに歯をガチガチと鳴らし、瞳は恐怖で焦点が定まらず、腕もケイレンを起こしたかのようにガタガタと震えていた。


「む、無理だ! わ、私一人では意思決定することは出来ないんだ! 政府に頼んで与野党で調整する必要があるし国会で審議する必要だってある! だから……」


 そこまで話を聞くと「男」は手刀で重役の肩を斬った。スーツの布地ごと肩が骨ごと切断され、ボトリ。と床に落下した。

 直後、噴水から水が噴き出るかのように傷口からおびただしい量の血液が噴き出すと同時に、彼の絶叫が会議室に響き渡った。




「言い逃れするな! 国民を顧みず! 自分の事しか考えず! 増税に次ぐ増税で国力を削いだのは誰だ!? お前らだ!

 製薬会社を無視して薬の値段を下げ続け苦しめる奴は誰だ!? お前らだ!

 貴様のやったことは万死に値する犯罪行為だ! それをオレが正してやってるんだ!」


「男」は断罪する。目の前の男を、財務省の役人を、万死に値する重罪を犯した罪人を。




「テメェはオレ達国民を苦しめておいてキャバクラ行ってドンペリ開けてフグ食ってたりしてんだろ!? 国民の税金でそんな贅沢が許されると思ってるのか!?

 そんな奴は生きてはいけないんだよ! 人間でいられる資格がない! だからオレが力なき民のために貴様ら悪を裁くんだ! 正義の怒りを受けて見よ!」


 そう言って彼は相手の顔面に右の拳を叩き込んだ。隕石が地表に衝突して出来るクレーターのように、顔面が潰れた。

 身体を支える力も無くなったのか、血だまりと化した床に「ビチャッ」という音を立てて倒れ込み、動くことは無かった。


「また一つこの国に巣食うダニが潰れた」


「男」は満足して去っていった。




 昼の10時頃、通報を聞いて駆け付けた警察官が事件現場を調べていた。現場は文字通り血の海で、胸に腕が通る程のどでかい「風穴」が開いた死体が転がっていた。

 事件現場のホワイトボードには血の紅色で「罰」とだけ書かれていた。


「超人「佐竹さたけ ひかる」の仕業だな。まったく「佐野さの 有栖ありす」だけでも手一杯だってのに……」




 主に政治家や役人を狙って殺して回る「佐竹さたけ ひかる」に、女性を搾取する男を狩る「佐野さの 有栖ありす」この2人の超人に警察も自衛隊も何も出来なかった。

 特に自衛隊の小隊が佐竹さたけの手で丸ごと壊滅させられる事があって以来、交戦すればいたずらに犠牲が増えるだけだと避けるようになった。


 頼みの綱は『白き夜明け』作戦のみ。いつ始まる事やら……。

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