炎天猫
肥後妙子
第1話 猫が寒がりと言っても限度がある
子供の頃、猫は遠い存在でした。祖母も祖母から見て息子の嫁である私の母も、猫が昔は嫌いだったからです。だいぶたってから私が捨て猫を拾ってきて飼う事になったら、家族全員が猫好きになりました。
祖母はもう何年も前に亡くなりましたが、猫の可愛さを知ってから亡くなったのは良かったことなのではないのかなと思います。今でも我が家には猫がいます。
ですが、私の幼少期はとにかく我が家は猫とは縁遠い家だったのです。
そんな頃に祖母に言われたことの思い出です。
猫はもの凄い寒がりで、一年に一回、真夏の一番暑くなった日の更に一番暑い時間帯でないと外に出ない、と私は祖母に教えられました。
今になるとそんな訳あるかい!と思ってしまいますが、多分幼稚園に通っていたくらいの年齢だったので、そうなのか……とその時は信じました。当時家の近所には野良猫があまりいなかったこともあり、周りの子にも言ったことがあるような気がしますが、話題として地味だったのか、ふーん、といった感じの反応が返ってくるだけで終わりでした。特に揉め事の素などにはならなかったのです。
成長してからも、祖母が亡くなった後も時々その時の事を思い出しますが、たいして深く考えませんでした。まあ、子供を面白がらせようとして大げさな事を言ったんだろうなあくらいの結論を長らく出していました。
でも……あれ?あの時、祖母は結構真剣な表情をしていなかったっけ?声のトーンも真面目じゃなかったっけ?と最近気が付いたのです。まあ、何十年も昔の記憶なのですが、どうも真面目に知識として孫に猫の極端すぎる寒がりエピソードを教えていた気がするのです。
祖母は大正時代の生まれの人でした。戦前まで、日本は割と江戸時代の余波が残っていたという意見を言う人は、結構多いです。生活に身近なところでは女性は戦争が始まるまで、昭和になってからも日本髪を結う人が多かったとか、等々。
そういった時代に生きていた人だと、猫又伝説系の怪談などが現在よりも現実的に感じられたのかもしれません。猫とは現実離れをした生き物だ、と信じることができた時代だったのかもしれません。
でも、祖母の子供の頃でも猫は普通に目にする身近に存在する生き物だったと思うし、この猫超寒がり説はどこからやってきたのかと、今となったら謎です。
寒い時季だと祖母の猫が超寒がりという教えを思い出します。最近の夏は暑くて暑くてしょうもないですが、寒い時期に思い出すとまあ、そう考える気持ちも分かるような気がしなくもないです。
昔の夏、異常気象になる前の普通に暑かった炎天下をのっしのっしと歩く大きな猫を想像したりします。最近はあまりにもデカく想像して、虎っぽい姿が思い浮かんだりします。
終
炎天猫 肥後妙子 @higotaeko
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