第15話 魔術
「さようなら」
杖が向けられ光が灯る。まずい、このままじゃルインが殺されてしまう!焦りからがむしゃらに魔術を行使しようとしたところで、、、、、、誰かいる!?
私が気づくよりも早く、誰かが反応する時には剣線が見えてサリーは吹き飛んでいた。
、、、、、、、、え?
そこには騎士がいた。
蒼白い鎧を着た騎士でありシンプルだが装飾の施された色付きの鎧に赤い十字架のシンボルが描かれたマント、兜はつけておらず顔は露出していている。指揮官は指示系統を混乱させないように顔を見えるようにしておくことが多い。
一眼見ただけでも指揮官クラス、それ以上だとわかるだろう。金色の髪に青と白のオッドアイ、その端正な顔立ちからは感情が読めない。
でも何より驚いたのはその顔に見覚えがあったからだ。
「お前ぇ、修道騎士か、、、」
脇腹を斬られ血を流しながらもサリーは睨みつける。
修道騎士とは教会の最高戦力であり、神を信じる修道士でありながら教皇から騎士としても認められた者たちのことだ。多くの特権と寄進、そして降伏を許さず神のために戦い死ぬことを誉れとする姿勢は騎士団を大陸最強の立場へと押し上げた。そして白と黒の背景に赤の十字架は修道騎士団であるテンプル騎士団のシンボルだ。
「テンプル騎士団騎士長のユーグ・ド・パイヤンだ。魔女サリー、大人しく降伏しろ。さもなくばここで殺す」
そう名乗った騎士は大剣を抜きサリーへと向ける。目の前にいるのは大陸最強と言っても過言ではない騎士だがサリーは一切怖気付くこともなく睨みつける。
「ふざけるなよッ!教会の薄汚い野犬如きがッ!殺した同胞に詫びてここで死ねッ!」
そこには強い怨嗟が含まれていて激昂のままに放たれた炎の球は大きく速かったが剣が振られると勢いを失い流れるように消えてしまう。もはや次元が違うとしか言いようがない。
「諦めろ。お前如きに殺せるわけがない。もちろん逃げることも」
「ハッ、諦めろだって?できるわけねえだろうがッ!ここでお前を殺して仲間の墓に捧げてやる。私たちの怨みを知れッ!」
ゴオッ、と風が吹き熱波が押し寄せる。熱で視界が歪む先には太陽があった。
周りのものを燃やして飲み込みながらそれはさらに大きく膨れ上がる。神話の神罰のようなそれはたった1人を殺すために個人が行使できるものとしては狂っているとしか思えない。
「なんだ?魔術か!?」
「デカすぎる、、、なんだあれは、、、!」
「いたんだ。本当に魔女がいたんだ、、、」
村の外れから上がった巨大な炎の球は騎士団からも見えていてまるで朝日のように周りを照らしていた。それに騎士たちから狼狽の声が聞こえる。
「狼狽えるな!総員、外周まで後退し密集して防御陣形!」
本命が釣れたか。、、、が、流石にこれは領主の私兵たちには荷が重いな。いやあの方がいるのならば問題はないだろう。
騎士部隊の指揮官はそう判断を下し自らも引いていく。この世界には理不尽と呼べるものがたくさんあるのだ。
私は目の前の光景に圧倒され戦慄していた。目の前の混乱を打ち砕くくらいの出来事が目の前にあるのだ。魔女と騎士の戦い。その頂上決戦と言えるのだろうか?
「死ねえええええええええ!」
叫ぶような声と共に放たれた火球は迫り
「伏せてッ!」
衝突よりも先にモニカに押し倒された。ありえないくらい巨大な炎の球に騎士は剣を構え、見る間も無く衝撃波が襲い、轟音が鳴った。
頬を砂嵐のように小さな粒が打ちつける。なにかが崩れる音、破壊される音、まるで嵐が吹き荒れるような音。五感の全てが異常を訴える地獄のような状況。それは永遠に感じられるくらい長かった。
魔女狩り 白銀尊 @siroganemikoto
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