後編

「ごちそうさま……」


「にゃ~」


 オレとともはファミレスでハンバーグを食べた。


 美味しかった。


(なんか頭がまわりはじめた?)


(なんだこの状況は……)


 オレはここに来て、おかしな世界のまっただ中にいると思い始める。


 アアア……


 ウウウ……


 アアア……


 ウウウ……


 周りにはうめきうごめく夢うつつの人々、目の前には手づかみでハンバーグを食べきった幼馴染みの友。


「なあ、友、何があったか思い出せないか?」


「……にゃー」


 なんか真剣そうに友が鳴いた。


「なんだよ? 友?」


 友は肩からかけたスクールバッグに触りたいが、ハンバーグソースでビチャビチャの手に困っている様子ようすだ。


(なんかあるのか?)


「友、トイレで手、洗って来たら?」


 オレはファミレスのトイレを指す。


 カタン


「にゃーー……」


 友が静かに立ち上がる。


「気をつけて行くんだぞ、友」


 友はソースの付いた手をあちこちに付けないようにトイレの方向に歩いて行った。


 オレは夢うつつな人々の中に紛れて行く友を見送った。



 *



 アアア……


 ウウウ……


 アアア……


 ウウウ……


 ジーーーー


 ふと、ウトウトしたオレはジッパーの音で目を覚ます。


「ン……ンンーーーーッ!」


 パキパキッ!


 オレは背伸びをして目を開ける。


 目の前には満面の笑みの友の姿があった。


 テーブルの上のハンバーグのお皿ははじの方に丁寧にけられ、キレイにラッピングがされたプレゼントがキラキラとテーブルの中央に置かれていた。


 おそらく大事そうに持っていたスクールバッグの中身がこれだ。


「あっ、今日、オレの誕生日だ……」


「にゃ~〜」


 友は嬉しそうにそう鳴いた。


 ファミレスの窓からは朝日だか夕日だかが差し込まれている。


 オレは今日生まれ変わった。


 夢うつつの人々が徘徊するこの町で、たった一人まともに意識のある人間として。


 いや……オレももう、まともではないかもしれないけれど…………。

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ゾンビの中から不死の王が生まれました 山岡咲美 @sakumi

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