中編

 ウウッ……


 アー……アァッ……


 ハァ……ウウッ……


(背中……痛い……)


 オレはそう思いながら目を覚ます……


「ウゥンッ……」


「ン?」


(ハンカチ?)


 オレはずっとおさえ続けていたであろうオレの首元のハンカチが固まっているのに気づく……


(血が固まった?)


 ペリッ……ペリッ……ペリッ……


 オレは首から血で固まったハンカチを少しづつはがす。


 パラパラと何かが制服のズボンの上に落ちる。


 おそらく固まった血のカケラだろう……


(赤黒い……)


 バリリッ!


 オレは指からハンカチをはがす。


 オレの灰色のハンカチが赤黒くなり、抑えたままの形に指の跡を段々に残しているのに気づいた。


「今、何時なんじだ?」


 制服のブレザーからスマホを取り出す。


「あれ?」


(バッテリー……切れてる?)


 ゴソゴソ……ゴソゴソ……


 オレは隠れていたダンボールと木材の隙間から這い出す。


 体のあちこちで固まった血が、制服と体をつないでいて、それが体につっかかる。


「あっ……」


(鍵……)


 ガチャガチャ……


 オレは技術工作室倉庫の鍵が扉に刺さったままだと気づき、それを使い技術工作室倉庫の鍵を開ける。


 その時のオレの頭はボーとしてて、あの光景も自分の状態もまるで夢のように思っていた。



 *



 ガリガリガリ……ガリガリガリ……ガリガリガリ……


「と、ともか?」


 オレは技術工作室の扉の外で『ガリガリ』と扉をくような音を耳にする。


「な〜」


 扉の外から何かの鳴き声……


(な〜?)


「ああ、『にゃ〜』猫か……」


(いや、猫じゃねーだろ! 友だろ‼)


 ハハッ……


 オレは手の中にある、赤黒い血のついた鍵を見つめる……


「お〜~い、友〜〜、今出るからな〜〜、もう噛むんじゃねーぞ〜〜」


(ハハッ……何言ってるんだオレ……)


 オレは何もかもどうでも良くなるくらいに疲れていた。


「な〜〜〜~」


 間の抜けた友の声が技術工作室の扉の外から聞こえる。


 ガチャガチャ……



 *



「友?」


「な~〜」


(間抜けな声だ……)


 オレは技術工作室の前に座り込んだ友を、扉の枠に寄りかかり見下ろす。


「友、アゴ外れてるぞ、今直してやるからな!」


 ゴキッ!


 オレは友のアゴと頭を持ち、まさに『ゴキッ!』とやった。


「にゃ~」


 友は『にゃ~』と鳴き、何時ものような視線でオレを見上げる。


「友、どうしたんだ?」


 オレは友がオレに噛みついた事情を聞く。


「にゃぁあ?」


「友にもわかんないのか?」


(今何時なんじだ?)


 オレは廊下の窓から外を見る。


(何か朝っぽい?)


「友、立て、帰るぞ……」


「にゃ~」


 友は嬉しそうにオレの手を取った。



 *



 アアア……


 ウウウ……


 アアア……


 ウウウ……


「ごめん、みんな、ちょっ、ちょっと通してくれ……」


 アアア……アアッ


 ウウウ……ウウッ


 生徒がオレの方を見て少し道を開けてくれる。


(なんだろうこれ……)


 オレは友の手を取り歩いた。


 オレは技術工作室の扉の前で、スクールバッグを技術工作室の机の上に置いているとわかっていたが、教科書しか入ってないし、重いし、また今度でいいやって思い、そのまま残して来た。


 なんだか生徒達は校内で夢ううつでうめきながら歩き回っているようだ。


「友、持とうか?」


 友は大事そうにあの黄色と黒のシマシマスクールバッグを肩からかけ、そのショルダーストラップを握りしめていた。


「にゃー」


 友の声はなんだか不安そうだ……


「いいよ別に、持ちたかったら持ってて……」


「にゃ~」



 *



 アアア……


 ウウウ……


 アアア……


 ウウウ……


「ごめん、通して……」


 アアア……アアッ


 ウウウ……ウウッ


(どこも同じか……)


 校門を抜けて外に出ても、光景は校内と変わらなかった。


 この小さな地方都市は、夢うつつの人々がうめきながら徘徊する、現実離れした場所へと変わってしまっていた。


「コンビニ……」


 オレは何か腹が減ったと思って、高校前のコンビニに行こうと思った。


 コンビニは小さな弁当屋のすぐ隣という競争の激しい立地にあったが、オレがコンビニを選んだのはその弁当屋にはデカいトラックが突っ込んでいて、弁当屋の弁当は買えそうに無かったからだ。


「にゃ~、にゃ~、にゃ~」


「友、何?」


 友がオレの腕を反対方向に引っ張る。


「なんだ友、オレ、腹が……」


「にゃ~、にゃ~」


(あれ……あっちは……)


「ファミレスか?」


「にゃ~」


 どうやら友は放課後ファミレスに行く約束を覚えていたらしい。


「まあ、いいか……」


 オレは常に『どうでもいい』って感覚が頭を支配しているようだった。



 *



 アアア……


 ウウウ……


 アアア……


 ウウウ……


「まあ、そうだよな……」


 何時間歩いただろう、オレと友はファミレスの入口に立っていた。


 ファミレスの中には店員やら家族連れやら会社帰りのサラリーマンやらの、アレがうごめいていた。


「友、窓際にするか?」


「にゃ~」


 オレは友を連れて窓際の席に座る。


「疲れた……」


「にゃ~」


「ホントに?」


「にゃあ~」


 友がファミレスのテーブルに頭をペタリとつける。


(疲れるって、なんだっけ……)


 オレは窓の外、車がキレイな渋滞をして止まっている光景を目にする。


(日本人ってルール守るよな……)


 オレはファミレスに入る前、近くの交差点で事故があった光景を目にした。


 おそらく、事故で車が止まり、その後アレに襲われたんだと思う。


 いくつかの車のドアは空いていて、乗員は車外に逃げ出した様子、渋滞の後ろを窓から覗くと、後方でも事故があったらしい……


 ウウウ……ウウウ……


 シックなブラウンの上着と黒のスカート、黒のネクタイの女性店員が、横を通りすぎる。


「あの……」


 ウウッ……


 女性店員が止まる。


「オレ、注文したいんだけど……」


(注文できるのか?)


 ウウッ……


 その場に立ってユラユラと揺れる女性店員。


「オレ、ハンバーグ……」


 立てかけられたメニューを見ずにオレはハンバーグと決めた、なんだか無性むしょうに肉が食べたかった。


「友は?」


「にゃー?」


(よくわからん……)


「こいつもハンバーグで……」


「にゃ~」


(あってた、やっぱり今日は肉の気分だな……)




 *



 アアア……


 ウウウ……


 アアア……


 ウウウ……


 ゴトリ……


 ウウッ……


 しばらく『ボー』とファミレスの天井を眺めていると驚く事にあの女性店員がハンバーグを二皿ふたさらを運んで来た。


 ウウッ……


 そして去って行く……


(注文出来ちゃた……)


 オレは普通に湯気を立てて出て来た、美味しそうなハンバーグに驚く。


(厨房はどうなってるんだ?)


「にゃ~〜」


「ああ、友、食べるか」


 オレはキレイに磨かれたファミレスのフォークとナイフを手に取る。


「にゃ~」


 友は熱々ハンバーグを手づかみで食べようとしてる。


(まあ、いいか……)

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