第9話 激怒するマクレガー公爵
セドリックを診察した医師は、私が安心できるように、にっこりと微笑んだ。
「ご安心ください。少しコブにはなっておりますが、他に異常は見受けられません」
私は心の底から安堵し、その瞬間、執事から私の両親が到着したことの報告を受けた。
父と母は旦那様がサロンの床に転がっているのを見て驚愕していた。さらに、手足が縄で縛られていることにも目を丸くしている。
「エステル、なぜザカライアがこんなことになっているんだね?」
父の声には明らかな戸惑いと、旦那様への軽い不快感が滲んでいた。もともと父は旦那様をしぶしぶ婿に迎えただけだ。それは私を目に入れても痛くないほど溺愛していたからにすぎない。
急ぎ送った使者は「すぐにタウンハウスに来てください」とだけ伝えていたらしく、父はまさかこのような事態に遭遇するとは予想していなかったようだ。
「セドリックがこの男のせいで怪我をしたからですわ」
「一体どういうことだ?」
「んーーっ、んーーっつ。」
「旦那様が喋れないみたいね。ジェーン、雑巾を取ってあげて」
ジェーンはとても残念そうに雑巾を取った。その時、玄関の呼び鈴が鳴り、執事が席を外した。私たちは、郵便か何かが届いたのだろうと思い、特に気にすることもなかった。ちょうどこの時間帯に手紙や配達物が届くことはよくあるからだ。
「セドリックがエステルを独占するのがいけないんです! 子供なんて乳母や侍女が世話をすればいいでしょう? メイドだっているんだし。なにもエステルがセドリックにかかりきりになることはないんです。僕の友人のマッケイン子爵だって、子供の世話を夫人はしないし、夫の世話を喜んでするって言っていました」
「なんという愚か者だ……マッケイン子爵は婿ではないし、夫人はウェイト男爵の庶子だぞ。マッケイン子爵夫人とマグレガー公爵家のひとり娘であるエステルの立場はまったく違う」
いきなりサロンに足を踏み入れたのは、廊下でその会話を耳にしたらしい、驚きの表情を浮かべた旦那様の両親だった。
「さきほどの呼び鈴はハモンド子爵ご夫妻でした。お取り込み中であるとお伝えしたのですが、勝手にお進みになられてしまい、止めることができませんでした。申し訳ありません」
ハモンド子爵夫妻を追いかけてきた執事は、顔色を青ざめさせ困惑しながら頭を下げた。
――え? ハモンド子爵領は王都から1週間以上かかる僻地にあるはずなのに、なぜここに?
旦那様、私はあなたに愛されていると思っていました。でも…… 青空一夏 @sachimaru
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