UFO撮影

@me262

UFO撮影

「いつになったら出てくるんだ!」

 俺は痺れを切らせて傍らにいるカメラマンの後輩に怒鳴り付けた。

「俺に言われても……。UFOに聞いて下さい」

「このネタ選んだのは、お前だろ!」

 旅先で夜中に巨大なUFOを目撃したという読者からの投稿で、俺達は地方の、とある山頂にはるばる取材にやって来た。だが、八時間も待っているのに当のUFOはかけらも現れない。

 なんで編集長は俺にこんなキワモノを。天文マニアのバイトにやらせればいいのに。議員の不倫がガセだったから、その腹いせか?

 既に日付は変わり、辺りは真っ暗闇。東京から高速で六時間、ここは全くの僻地だ。何もない場所で、星明かりだけが目につく。

 暗黒の空間に光の大爆発が起きた瞬間を静止させたかの様な、壮大で少し気味の悪い星空だ。そして、それらの星々をさらに圧倒する満月が、巨体を天空の中央に据えている。

 満月って、こんなに大きくてきれいだったんだ。

 まともに星空など見た事のない都会育ちの俺は、ここに来た直後はその美しさに感動していた。完璧な円盤が滑らかな金色に輝き、さながら空に浮かぶ金貨の様だった。

 だが八時間も見ていると、ただわずらわしいだけだ。いらだつ俺は、後輩にこれまで聞く気にもならなかった質問をした。

「そのUFOってどんな形だったんだ?」

 後輩は懐から一枚の葉書を取り出して読み上げた。

「ええと、大きな円盤が金色に光って空中に静止していたそうです」

 大きな金色の円盤。ちょうど今、俺の頭上に同じものがある。

「馬鹿!満月じゃねえか!そいつ酔ってたな!」

「た、確かに仲間内で酒盛りをやっていたと書いてますが、いくら何でも……」

 うろたえる後輩の頭を小突いて、俺は四輪駆動に戻りシートに荒々しく体を預けた。とんだ無駄足だ。こっちはぬるい缶コーヒーだけで粘ってきたのに。こうなったら朝までふて寝しよう。煌々と輝く満月に舌打ちして、俺は目を閉じた。


 翌日、消沈する後輩に運転させて、俺達は東京に帰った。社の編集室では例のバイトがパソコンの天文サイトを眺めながら、顔も上げずに気のない挨拶をした。

「撮れました、UFO?」

 俺は事情を話して溜息を吐いた。

「虚しいお月見だよ」

 それを聞いた彼は弾かれた様に振り返った。明らかに顔色が変わっている。

「昨夜は新月ですよ!」

 大口を開けた俺は後輩を見た。青い顔をして首を横に振っている。

「一枚も撮ってません。先輩が満月だって……」

 そう言えばあの月、何時間経っても全然動いていなかったな。仕方ないじゃないか。俺みたいな都会人が、まともに星空を見るなんて事、ないんだから……。

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