教会の懺悔室から愛をこめて

到達者師失人

第1話

『愛の女神クレイトス歴代神父書伝』


ここに愛の女神の歴代神父が書き残した珠玉の愛のエピソードをまとめてつづる。

 そしてこの最初のエピソードは真偽は不明だが一番の愛のエピソードであると私は個人的に思っている。

 これは人間と魔物の奇跡の愛のエピソードだ。

 ◇

 これは私が愛の女神クレイトスの神父となり教会の懺悔室で体験した実話である。

 私は当時教会の懺悔室で愛の女神クレイトスの信徒として愛に対する相談に日夜明け暮れていた。

 その仕事は愛の黒い部分を嫌というほど目の当たりにする苦痛の日々であった。

 そんなある日一人の女性が懺悔室に現れた。

 当然愛の女神の神父が見かけで判断せず邪な心持たないように私がいる部屋と相談者のいる部屋は厚い壁で隔てられ、小さな穴から声しか聞こえない。


 「懺悔したいことは何でしょうか?」


 「私は魔物です」


 私は耳を疑った魔物といえば人間の敵であり、言葉の通じる魔物ですらほとんどいない危険な存在それが隣の部屋に、言葉を失った私に魔物と名乗る女性は続ける若い女の声でだ。


 「私は魔物ですが人に危害は加えないそして私には人間の夫がいました」


 その言葉に私はさらに困惑した。

 魔物と人間は混血はできない。

 できるのは魔物の子供のみと多くの人は知っている。

 つまりこの魔物は同じ魔物を増やそうと――

 

 「困惑されるのは仕方ないですが私の話を最後まで聞いてください。この話を私は愛の女神に聞いてほしい。もしかしたから貴方に言うことで女神の耳に入るのかもしれない」


 「わかりました聞きましょう」


 最初はただの好奇心だった。

 邪悪な魔物が愛の女神に聞いてほしい話私は聞きたくなった。


 「私は魔物で力が強いせいか人間に似た形を持っていて。そんなある日罠にかかり動けなくなってしまった。そんな時一人人間の子供が現れた。その子供は何も言わず私の罠を解いた私は不思議に思い尋ねると顔を赤くするだけだった。私は恩を返すために何かしてほしてかきくと少年は真っ赤になって「僕のお嫁さんになってほしい」と言ってきた。私は鼻で笑い逃げるように見せかけて子供の影に潜み恩を返す機会を伺った。しかし何年たってもその機会は訪れず。ある日子供の親は死んでしまった。その悲しそうな顔を見てよくわからないがお嫁さんとかいうのになれば恩を返せると思いその人のうちに人に擬態して、子供から少年になった彼の家に嫁になってやると押し掛けた。断られるだろうと思っていたけどすんなりと受けれ入れられ拍子抜けしたけど、少しつづ関係を深め初めて手を握られた嬉しさは今だに覚えている。初めての口づけはとても幸せな気分となり体で通じ合ったときは天にも昇る思いでした。私は人間の嫁という生き物ついて学び人間の文字裁縫料理を覚え彼に尽くした。とても幸せで代えがたい日々でした。しかしそれから彼は病気になってしまった。彼の死の間際二人だけにしてもらった私は全てを打ち明けた。死の間際の彼に秘密を打ち明けない自分を許せなかった。ずっと騙していた負い目もありました。しかし魔物の姿となった私に彼は優しく「最初……から……知って……いたよ……初めて……好き……に……なった……女の子……わか……らない……わけが……ないよ……」彼は私が魔物と知っていてもずっと愛してくれた……それがとても嬉しかった。そんな私に彼は続けた「ありが……とう……僕……初恋……大好き……君……君の……おかげ……僕は……幸せ……だった……愛して……いる……よ……」「あなたーーーーーーーーーーーーーー!」私は彼の亡骸に縋り付き三日三晩泣いて過ごしました」


 「それからど――」


 「お母さんまだ?」


 「この声は?」


 「夫か死んでから生まれた私達の子です。彼の血を濃く受け継いだから普通の人間と変わりません。私の血のせいで黒髪ですが……では私は行きます。この事で私達を処罰するのは構いません。私は私の愛が愛の女神に否定される間違った愛なら親子共にこの命は諦め夫のもとに行きます」


 「まってください!」


 思わず声を張り上げた。

 これだけは言わなくてはいけない愛の女神に仕える者として。

 なぜか私はこの話は真実だと確信できた。


 「なんでしょうか?」


 「愛の女神クレイトス様の聖典には魔物と人間の混血ができず。交配して生まれるのが全て魔物なのは魔物の心に愛がないからと記されています。しかし貴方は人間との混血を残せたこれは貴方の心に人間と同じ愛があるということ。私は愛の女神クレイトス様に仕える者として誰が何と言おうと貴方の愛が本物と信じます。真に愛のある方の愛を否定する愛の女神はいません。貴方の真の愛に愛の女神クレイトス様の永遠の祝福があらんことを」


 「ありがとうごさいます。帰っろか」


 「うん! お母さん神父様と何話していたの?」


 「貴方と貴方のお父さんが大好きってことよ」


 「私も大好き!」


 これが私が聞いた全ての事実だ。

 この親子の顛末は結局わからなかったが、この体験なくして愛の女神に使える者として信念を持ったまま私が人々の愛の相談に乗り続けれることはなかっただろう。

 きっとクレイトス様もこの親子を天から見守ってくれている。

 その幸せが途絶えることはないだろう。

 真の愛を魔物が持つことができるこの事実は私だけが真実と知っていればいい

 願わくばこの事実が後世に残るようにこのエピソードを残す。

 愛の女神クレイトスに仕えるとある神父――


 ◇

 「懐かしいわね」


 「やっと見つけた大お婆ちゃん健脚すぎよ。本当に二百歳超えてるの? 皺くちゃなその姿なのに元気なんだからもう。あらその本最近話題のそのページ有名な奴ね。魔物との混血児とか本当かわからないけど綺麗な話だし私も好きよ」


 「これは本当にあったことよ」


 「何でも知っている大お婆ちゃんが言うなら本当かな……それより大お婆ちゃんもっと薬草について教えてね。私大お婆ちゃんの若いころの二つ名黒髪の美魔女二代目狙ってるんだから」


 「でも私の寿命はもうすぐよ?」


 「そう言い続けて二百歳超えた大お婆ちゃんなら大丈夫よ。それに大お婆ちゃんの力必要としている人は沢山いるしね。当然私とお兄ちゃんとお父さんお母さんも同じよ。私大お婆ちゃんみたいな国一番の薬師になりたいのついでにその時は二つ名頂戴ね!」


 「それくらいまで頑張るよ」


 「じゃあ帰ろ。久しぶりに大お婆ちゃんのミートバイ食べたいな」


 「仕込みは済んでいるからあとは焼くだけよ」


 「流石大お婆ちゃん! 大好き!」


 ごめんね私の寿命は本当にあと少し玄孫やしゃごの夢をかなえた姿を見られないのは心残りだけど――

 魔物として母として祖母としての私はもうすぐ終わり――

 願わくば愛の女神様が見ているなら――

 もう一度あの人と――

 ふふそんな必要はないわね――

 私の大好きなあの人は向こうできっと待っていてくれる――

 待っていてね貴方――

 貴方と話したい可愛い子供と孫たちの話沢山持っていくから――


教会の懺悔室から愛をこめて 裏設定


『愛の女神クレイトス歴代神父書伝』は中々売れて長年人々に親しまれ演劇や喜劇小説近年は映画など様々な娯楽に発展したが近年の調査で掲載エピソードの多くが多くの脚色と修正した内容の継ぎ合わせであると発覚したが世間と読者に創作話としての出来は高く評価されていたため批判はそれほど起こらなかった

しかしこのエピソードは一番の創作話と発売当初から多くの人に思われていたこのエピソードのみほとんど脚色修正のない唯一の実話であり

この本に掲載された経緯は親子が危険にさらされないように公的ではなく私的に書きこのされた文章であり神父の死後クレイトス教の落ちかけた評判を持ち直すために歴代の懺悔室の愛のエピソードから個人情報を抜きまとめて掲載して発刊して評判を取り返そうとなりその候補の調査の過程で愛の相談の名人といわれ調査の前亡くなった神父の残した日記の文章から発見された

しかしあまりの出来から完全に創作であろうと上層部は判断し本に掲載が決まった

そして現代ではその真偽を知るものは存命しておらず

当事者も一言もそれ以来語ることも記すことなく家族親戚村人街人彼女に頼り救われた多くのものに惜しまれつつ人として過ごして二百数十でこの世を去った

そしてその亡骸は長年人に擬態し続けたことで死後に魔物に戻ることなく彼女が魔物であと誰も気づかず生前の要望により愛する夫の隣の墓に埋葬された

そしてその後その玄孫は苦労の末彼女の二つ名を受け継ぐにふさわしい黒髪の国一番の薬師になった

この愛の真実を知るものは彼女から受け継がれたいたまだ続く子孫たちのその身に流れる血のみとなる

そして当然愛の女神クレイトスは彼女たちを見守り死後二人は再会し娘孫談議に大いに花を咲かせた

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