境界のメロディ

宮田俊哉/メディアワークス文庫

境界のメロディ 〜かにたまのクリスマス〜 

 12月25日。クリスマスのイルミネーションがキラキラと輝き、街ゆく男女を一層輝かせる。そんなカップル達が行き交う中、二人の男子高校生デュオ「かにたま」は彼らの日常でもある路上ライブを終えて、街のベンチに座り人波を眺めていた。


「はぁ。なんで俺はクリスマスなのにキョウちゃんと居るんだろ……」


 ギター担当のカイはキーボード担当の弦巻つるまきキョウスケに聞こえるように呟く。


「はぁ。なんで俺はクリスマスなのにカイと居るんだろう……」


 キョウスケは意地悪な表情を浮かべ鸚鵡返おうむがえしに答える。その一言を聞いたカイはムキになった。


「はぁ? それはこっちの台詞だから!」


 視線をギロリとキョウスケに向けた。キョウスケはその視線を無視し、淡々と言葉を返す。


「お前から言ってきたんだろ」

 

 ハッとしたカイはニッと笑った。


「そうだった」


 これが二人の日常だ。カイの勢いのあるボケにキョウスケが冷静に返す。二人にとっては、こういうので良いのだ。カイはイルミネーションの光を見ながら質問をする。


「キョウちゃんは恋人とかって憧れる?」


 突然の質問ではあるが、カップルだらけの街を眺めていたら恋愛話になるのは必然かもしれない。


「いや〜、いつかはそういうのも良いかもなぁ。でも今はカイと音楽やって中身の無い話をするので手一杯かなぁ」


 カイは不貞腐ふてくされたように唇を尖らせる。


「中身が無いって失礼だな」

「だって無いじゃん」


 キョウスケが笑いながらした答えにカイもつられる。


「確かに〜。でもさ、中身の無い話を永遠に出来るって良いよな。なんか友達って感じしない? きっと俺らの青春ってこうなんだろうなぁ。恋愛してる人も沢山いるけど、そうじゃなくて夢のメジャーデビューに向けて楽器と歌の練習の日々」


 キョウスケは頷きながら返す。


「それも良いんじゃない? どっちが良いとか無いけど、夢を追うことも恋愛することも。それに夢を叶えた後でも恋愛は出来るし」


 カイは大笑いした。


「ははは! まあな! 順番なんて関係ないもんね! 俺メジャーデビューしたらきっと超モテるからその時まで取っておこっ」

「俺もー……」

「でも、せっかくのクリスマスだし……」


 カイは両手で自分のうなじに触れ、慣れた手付きで2連で着けられている細いチェーンのシルバーネックレスを外す。


「メリークリスマス」


 そしてキョウスケにシルバーのチェーンを突き出す。


「え? マジ?」


 いきなりのプレゼントにキョウスケは戸惑いながらも嬉しそうに微笑んでいる。

 カイは恥ずかしそうに言う。


「キョウちゃん、アクセサリーとかしないじゃん。メジャーデビューするならお洒落も大事だから。ほら! 受け取れよ!」


 キョウスケはゆっくりと宝物に触れるように手を伸ばした。


「ありがとう。でも、俺何にも用意してないよ」


 カイも照れ臭そうに返す。


「初めての路上ライブの日、かに玉ご馳走してくれたから! そのお返しだよ! クリスマスとか関係ないから!」

「メリークリスマスって言ったくせに…… 。でも、ありがとう」

「おう」


 キョウスケは自分の首にネックレスを着ける。


「どう? 似合う? 俺アクセサリー着けるの人生初かも」

「いいんじゃない。おしゃれなんて自己満足だから、キョウちゃんが気に入ってるんだったら似合ってるよ」


 カイがこんなにも照れているのは初めてのキョウスケへのプレゼントだからだ。

 キョウスケの首元に輝くシルバーのチェーンはクリスマスのどんなイルミネーションよりも輝いて見えた。キョウスケは申し訳なさそうにカイに問う。


「でも…… 。こんなに高そうな物、貰っちゃって大丈夫なの?」

「ん? 高そう? それ300円だよ」


 カイはニッと笑った。


「やっす……」


かにたまのクリスマス


~Fin~


– – – – – – – – – – – – – – – – – –


かにたま2人の物語をもっと知りたい方は要チェック!

『境界のメロディ』

著/宮田俊哉 イラスト/LAM


2人の音が交わるとき世界は色を取り戻す――。

境界のメロディ
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