第5話

「ユッキー、ばいばーい!」


「グループ試験のプレゼン資料、あとでシェアしとくー!」


 クラスメイトの女の子達に「んー、おっけー! またねー」と手を振りかえして高校の校門を抜けると、粉雪まじりの冷たい風が吹きつけた。温もりがなくなりつつあるカイロをこすりながら、静かな夜道を足早に歩く。


 ふと空を見上げると、今日も星空の中でたくさんの飛行自動車が飛び交っているのが見えた。その中にはサンタクロースの飛行ソリも混じっている。


 今日は、クリスマス。

 全国のサンタ達は今頃、プレゼント運びに必死になっている最中なんだろう。アキオも、きっと――。




 僕達の答え合わせの翌日、アキオは無事にサンタクロースになった。

 そしてその二年後、僕は定時制の高校に入学する事に決めた。


 答えが分からないままの僕でも、大嫌いな自分を変えたかったから。


 入学までは一言じゃ言い表せないぐらい大変だった。それでもアキオが一緒に調べてくれた制度や施設にお世話になりながら、今は高校生。

 みんなに支えてもらいながら、僕は今年も何とか生き延びている。


 僕とアキオが一緒に過ごしたアパートの部屋は、今はもう誰も住んでいない。


 甘えちゃうから、卒業するまで別々の場所で頑張りたいって僕から言った。アキオは最後まで反対してたけど渋々オッケー。

 高校生になってから僕は下宿先で暮らし、アキオはまた日本全国を周りながら、たまに来るサンタクロースの依頼をこなしている。


 結局また遠距離になっちゃったけど、今はそれで良いんだって思う。

 アキオの隣に居ても恥ずかしくない僕で、今度は一緒に歩きたいから。


「ユキぃー!」


 真っ赤なお鼻の、赤服の大男がソリを路肩に停めて僕に手を振っていた。


 一仕事終えて帰って来たらしいみんなのサンタクロースは、脇に抱えた白い大袋を持ち上げて、大声で叫んだ。


「今年のプレゼントぉー、なぁーんだ!」


 なんだソレ。

 無邪気に出された唐突な問題に笑いながら、僕のサンタクロースの元へ駆けていく。


 白雪が降りしきる星空の中、抱きしめあった僕達に上空から祝福のベルの音が降り注いだ。

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サンタクロースの純情 トヨタ理 @toyo_osm12

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