心まであったかい恋物語
橘まさと
本文
「おい、クリスマスの予定はどうする?」
「えー、デートするぅー? 待ち合わせは駅前のツリーねー」
昼休みの教室では陽キャのカップルがイチャイチャしていたので、俺は立ち上がって図書室に向かう。
昼食は弁当なので購買にはいかないが、あまりにもいたたまれない空気に我慢できなかったのだ。
俺の名前は河野浩紀(こうの ひろき)。
自分で言うのもなんだが、陽キャとは反対の陰キャの部類だ。
読書が好きで、最近はミステリーを好んで読んでいる。
「静かな教室が懐かしい……クリスマスシーズンはいつも騒がしいんだ」
俺の住んでいる街にある伝説のクリスマスツリーだかのお陰で、クリスマスではその話題で持ちきりだった。
恋人がいるものも恋人がいないものも伝説にあやかって仲良くなりたいらしい。
「きゃっ!?」
「っと、ゴメン」
図書室に向かう途中で、女性徒とぶつかり、持っていた本を落とした。
リボンの色を見るに後輩のようである。
「い、いえっ! 大丈夫、ですっ! あ……」
「ん? 俺の顔に何かついているのか?」
眼鏡をかけたおかっぱの少女に俺は見覚えなかった。
俺と同じ陰キャの『気』を放っているので親近感がある。
「……と、本を落としたな」
「あ、私もっ! ……おなじ、書店のカバーですね」
「そうだな……君も……本が好きなら、図書室にいくのか?」
「は、はひっ! 一緒に、いきたいっです!」
それぞれが本を拾い、俺達はそろって図書室へと向かった。
騒がしい廊下を何も話すことなく歩く。
知らない後輩だし、女子と話すことなんて親くらいしかない俺にはハードルが高かった。
「ついたな、先に入るぞ」
「あっ! はいっ!」
あわあわと慌てた様子の少女より先に俺は入り、いつもの窓際の席に座る。
試験勉強をしている生徒もいる中だが、昼休みの時間を有効に活用したかった。
俺の目の前に眼鏡の少女も座るが、俺はそれを放置して本を開く。
そこには、絡み合う美男美女の挿絵が入っていた。
挿絵ではよくわからないが、多分入っている。
「ぶごほぉっ!?」
「「「しー!」」」
俺があげた叫びに対して、目の前の少女以外から全員静かにと口に手を当てて制してきた。
でも、わかってほしい。
俺が読んだこれは、俺の本じゃなかった。
こんな劇物、俺は読まない。
「ああぁ、はうぁぁぁ……」
俺のリアクションを見て、少女は自分の持っていた本を開いたことで顔が真っ赤になった。
どうやら、書店のカバーが一緒だったことで、混ざったらしい。
「にしてもこれは……TLという奴か?」
「は、はぃぃぃぃ、先輩に読まれてしまうなんて……私、死にたいです……」
「そこまで!?」
俺がまた驚いたら、鋭い視線が飛んできた。
次に騒いだら、追い出されてしまうだろう。
騒がないように俺達は本を交換しなおした。
「まぁ……カバーは今度から変えておこう」
「ですね……一年の森永、です」
「二年の河野だ」
「……知ってます、私……図書委員、なので……」
「そうか……」
それだけ話すと、俺達は改めて自分の本を読みはじめる。
風が窓をうっているが、それ以外は静かな図書室で静かな時間が過ぎた。
キーンコーンカーンコーンという予鈴が鳴り、図書室の出口側の生徒たちが次々に図書室を出ていく。
「それじゃあ、俺もいくな?」
森永に対して、俺はそれだけ告げると立ち上がり出口へと向かった。
「あっ! あの! 河野先輩は覚えてないかもしれないですけれど、以前に図書室で本の片付けを手伝ってもらって、御礼が言えてなかったんです! ありがとうござい、ました!」
ペコリをお辞儀をしながら、森永は大きな声を上げる。
緊張しているためか、どもりながらも真剣なのが声色から伝わった。
「そうか……じゃあ、御礼はココアでいいや。俺は好きなんでな」
「へっ、えぇぇ!?」
飲み物1本くらいで御礼として受け取ればいいだろう、あわてる森永を後に俺は図書室を後にする。
——放課後——
俺が帰ろうと下駄箱に向かうと、そこには森永が真っ赤な顔をマフラーに埋めながら待っていた。
「森永、どうしたんだ? もうくれるのか?」
「ひゃぁ!? せ、せんぱい破廉恥ですっ!」
「ん??? 何が破廉恥なんだ……というか、破廉恥って今時珍しい言い方するな」
下駄箱で騒ぐと、視線が痛いので俺は森永を連れて人気のない体育倉庫の方に出向く。
「あ、あのっ……せ、せんぱいっ! 私、わたし!」
「落ち着け、森永……深呼吸しろ」
「はぢめてなので、優しくしてくだしゃい!」
静かな体育倉庫の前にいる男女、そこで初めてだから優しくという言葉に俺は宇宙猫の気分になった。
「え、えっと……私、森永 心愛(もりなが ここあ)は先輩に全てしゃしゃげますっ!」
俺は顔を覆って空を見上げた。
誤解をどうやって解こう……やるべきことがいっぱいである。
==================================
【あとがき】
お読みいただき誠にありがとうございます。
カクヨム短編複数投稿イベント用に急遽書き下ろしました。
また、ソリスピアにも平行に投稿しております!
勘違いっていいよね!
少しでも「面白い」と思っていただけましたら、
★ひとつでも、★★★みっつでも、
思った評価をいただけると嬉しいです!
最新話or目次下部の広告下に『☆で称える』の+ボタンがございますので、応援のほどよろしくお願いします。
※【フォロー】もめちゃくちゃ嬉しいです!!
またすでにフォローや★を入れてくださった方、ありがとうございます。引き続き面白い作品にしていきます!
==================================
心まであったかい恋物語 橘まさと @masato_tachibana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます