まるでテストみたいだね

海野夏

まちがえたらどうするの?

 百合子の背中は怒ったようにずんずん先へ進んで小さくなっていた。早く追いかけないとな、と思いながらも、私は歩調を変えずにいる。どうせ目的地は分かっているのだし。

 私と百合子は小学生の頃からの付き合いだ。百合子の機嫌はよく分からない周期で上がったり下がったりするから、昔は落ち着かせてあげたくて右往左往したものだ。

「バカ琴子!」

「口が悪いなぁ」

 怒って少し声が震えているのが可愛い。

 百合子は私が構ってあげるからか、度々人を試すようになった。身近にいる私はよくその対象にされたものだ。新品の可愛い消しゴムを貸してあげたら角を全て使って返されたり、何で不機嫌なのか当てろと言ってきたり、修学旅行の自由時間にどこに行くか決めようと連絡しても既読無視したり。まぁこれらは可愛いものだけど。

「百合子〜!」

「きゃっ。な、何するのよ……」

 走って追いかけ、背中に抱きつき、隣に並んでするりと手を繋ぐ。

「百合子。合ってる?」

「知らない」

 向こうを向く顔は分からないけど耳は赤くなっていて、多分正解なんだろうなと思った。

「百合子」

「何よ」

「嫌い」

 その一言で勢いよくこちらを振り返るのが愛おしい。青ざめたようにも見える白い肌に、見開いた目と震える唇。眉が八の字を描いて歪み、まなじりに雫が生まれる。

「……になっちゃうかもしれないから、あまりテストじみたことはしないでほしいな」

 間を開けて長く息を吐く音。

「バカ琴子」

「分かったってことね」

「うるさい」

 君は素直で好きだよ百合子。

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まるでテストみたいだね 海野夏 @penguin_blue

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