あられ、あらわれ。

 妙子の母は、誰かに話しかけられた気がした。妙子以外の誰かに。

 この家には、今、妙子と自分の二人しかいないというのに。

 きっと、空耳ね。


 ガスの火を止め、居間へ向かう。

 テレビの音が聞こえづらいので、換気扇を止めに戻る。


 居間では、一房も食べられることなく置かれたみかんが、待っていた。


 かごに山積みにされたみかんのひとつが、ころんと、音もなく転がって、洗い物を終えた母を迎えた。


 よっこいしょ、と こたつ布団をめくって座る。

 そういえば、妙子あの子が雪になるって言っていたわね。




 今夜の雪は、積もるのかしら。

(あの子は戻ってくるのかしら?)



 こたつ机の上では、剥きかけのみかんが、半分干からびていた。










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雪や来む籠む【カクヨムコン10 短編創作フェス②「雪」】 結音(Yuine) @midsummer-violet

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