ダラダラ
たきのまる
本文
生死とセックスは書かないと決めていた。
乱れたシーツとサイドテーブル。その上に蓋の空いた飲みかけのペットボトル、そして透明な小さなドームの中が白く汚れた錠剤の殻が目に入る。
椅子がやけにけばつくなと思い、尻を掻く。一糸纏わない格好で座っているから当たり前だなと意味を把握。歯は浮く、ことはなく当たり前の事実だと、俺はfeat.語りきfromかく。
『男の裸と椅子』。使えそうな題名だなと思い、忘れないようにメモしておこうとスマホを探す。どこかに垂らす前に、零さず気を付けながら言葉を離さず、何も話さず。
しかし近くには見当たらなかった。
ベッドの上を探すと、髪の毛に埋もれるようにしてスマホが置いてあった。スマホを手に取り、メモアプリを開く。『あいうえ』の順番で打つのではなくフリック入力で『男の裸と椅子』と打つ。
『
関係ない、と千切るには少々無理がある。降り掛かる困難はこんな感じ。思ってしまうのはフィクションよりも馬鹿馬鹿しく、そしてくだらなく。ふしだらではなく、不安因子ダラダラで及んだ行為、
殺すよりも生み出す、押し出す
だからといって、殺したかったわけではなく、従った性欲と情け。賭けには負けるつもりは無かった低俗、そして俺こそが名作生み出す大衆の心の盗賊、とか天高く喚いて転んだだけの失落。つまりは欠落、「働く」に逆らう、likeにさえ抗う馬鹿野郎。
着信が来た。担当の編集者だ。緑と赤の丸を結ぶ線を描く親指。逸らす気はない。
「──もしもし」
返事をする「もしもし」。返ってきた言葉は「もう締め切り」。
言い訳はない。「いいわけ無い」。
「もう延ばせない。今日上げないと」
続く言葉は聞かなくても分かった。触ったのは髪だった。いつの間にか指に絡みついていた女の髪は、指にさらに巻き付いているようだった。
顔を上げる。ふざけるようにベッドに寝転ぶ大の字。生きてはなく、息してはなく、意識はなく、ただの死。
絶頂と同時に制御できなかったのか、逝去。聖書にすら書いてない単純な性交は成功したのか抵抗したのかは分からないが、目の前の女が死んだことはこの肌で触れていた事実だ。
「期日は変えられない」
真実か? 目を擦るが変わらぬ瀕死中の俺の咽頭痛と、
「間に合わせるしかないだろう」
誰に向けた言葉? 俺がすべきことか? 改めて考えてみる。ごまんとある書店、もしくは図書館の一冊。一攫千金にしちゃ、見合わぬ努力。どうせ売れてもスペースは一角。引っ掻くこともできない、でかい壁、つまりは文学。かといって生み出せぬ金額。明日の洗濯さえままならないほどの金欠。だから書く。それが核。それ故、目の前の女に被爆。
切ったのは電話。着たのは綿か? 肌触りだけの良いシャツはまるでオナホのようだなと思う。忘れないようにそれもメモ。「おはよ」と起き上がってくれればいいのにと片手で触れるが、動かない。現実はそんなもん。
冷たくはないから生きているのかと期待してしまった俺がいた。徐々に失われていくからこその体温を感じた。恒温が
──俺も一緒に……。
思う、ぽつりと。所詮は素人。プロはいるのかと考えてしまう、今日この頃。
自分の命の重さも分からないまま至った行為。相違は無いと知っていたはずなのに「そう言わないと分からないの?」と怒らせてしまった彼女を黙らせるために殺すつもりで愛した結果、殺してしまった。
「ノンフィクションなら売れる」と、編集者からのメッセージ。くしゃみのように言うだろう、ハクション。各セクション、飛ばして話題性だけの数字、like a リアリティショー。
いま目の前の出来事を書こうと思いついた自分に中指。ちらっと目をやる手マン後の濡れた中指。要は使い方次第。
信念を曲げても、すがる生に。「情けないくせに」と言う人も目の前で死んでいるが故に。
空っぽだからこそよく響く。勢いよく振った尻尾。それに耐えきれなかった夜の札幌。東京では編集が、締め切り守らない俺に対し、どう調理してやろうかと準備しているであろう割烹。
包丁は無い。同調は無い。連続する締め切りのテープを切ることだけで、「どうしよう」の思考を無理やり俺に同期させようといまも、殺人と同意義の始末をしようとしているだろうか。
それは俺が彼女を殺した罪より軽いのか?
俺の心を殺そうとする奴らよりも、俺の犯した罪は重いのか?
犯したわけではない。同意があった。同意がありすぎた故の事故か、もしくはこれは入り口in地獄か。
生死とセックスは書かないと決めていた。
サイレンの音が響く隙間もなく。
好きと言う暇もなく。
ダラダラ たきのまる @takinomaru
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