キャリバーテラス-Cariber Terrace-

汐空 綾葉

1撃目『銃撃』

 キュィィーとPCの起動音の様な機械音が、線を引くように鳴く。

「クソっ!キャリバーテラスだ!」

 廃ビルに縄張りを張っていた違法自警団が、一目散に逃げていく。各々銃を持っていたが、気付けば既に零口径化—キャリブレーション—されていて使い物にならなかった。

 純白の戦闘服に身を包み、鈍色のバックラジエーターを背負った戦闘員達が姿を見せると、瞬く間に違法自警団を制圧してしまった。


 全世界で銃の所持が禁止された近未来。アメリカ合衆国では【キャリバーテラス】と呼ばれる、銃抑止組織が活躍していた。彼らは、銃を強制的にジャムらせ、いわゆる零口径化—キャリブレーション—する特殊な兵器を駆使して、近接戦闘で敵を無力化する。白兵戦のスペシャリストだ。

 もとは、開発された兵器の名前がキャリバーテラスだった。開発後、違法に銃を所持、使用する犯罪者を制圧する組織が結成された。その兵器を用いる組織にその名が冠され、兵器自体は【キャビン】に改名された。

「そうして今日に至るまで、我々がいるこのキャリバーテラスの士官学校が、訓練兵を教育しているという訳だ。…よし。教科書を読むのはこの辺にする。次回からは実際に、キャビンを使いながらの実践前訓練を実施する。各自、必ずキャビンの仕組みを復習しておくように!では解散ッ」

 ジリリリと授業終わりのチャイムが鳴ると、訓練兵達が一斉に教室から出ていった。だが、それでも教室から出てこない輩が二人いた。

「フィぃぃン〜。明日の実践前訓練ってキャビンの使い方を教わるの?それとも分解〜?」

「さぁ、どうだろうね。けど、どこかの誰かさんみたいに、銃を使えばすぐ倒せる。なんて教えてはくれないだろうね」

「君なぁ!先生が出したあの状況下なら…。あ、キャリブレーションしたから銃使えないのか」

 目をハトのような点にしてマヌケな声を出すマイロに、フィンは吹き出すと腹を抱えて大笑いした。

「プッ…クハハッ、まったくマイロったらっハハッ。本当にドジだなぁ。それに、フフッ今は法律で禁止されてるんだからっ。規制する側の僕らが銃なんて使ったら大事件だよ」

 フィンがアハハハハと笑い倒すと、マイロはバツが悪そうな顔をしたが、そのままフィンにつられて笑い出してしまった。


 翌朝、まだ寮のベッドで寝ていた二人は、けたたましく鳴り響くブザー音と、破裂音にも似た引き裂くような機銃の音で目を覚ました。急いで窓から外の様子を確認すると、キャリバーテラスの士官学校と周辺の関連施設がテロを受けていた。もちろん、寮も例外ではなかった。

「マイロ!とにかくここから逃げよう!」

「けど外に出たら撃ち殺されるぞ!」

「でも、ここにいても火事でいつまで持つか分からないんだよ!?」

「それもそうか…。分かった、行こう!」

 素早い手つきで、今日の訓練で使う予定だった装備を身につけると、慎重に部屋から出た。空気を漂う火薬の匂いに、鼻をつく鉄の匂いが混じっている。

「外に出たらとりあえず装備を泥で汚すぞ。味方を識別するためとはいえ、この状況で真っ白は目立ちすぎる」

「そうだね。でも、せっかく支給されたしちょっと勿体無いよね…」

 マイロは相変わらずのマイペースで、バリバリと鳴り響く銃声を気にすることなく、呑気なことを口走った。

「マイロ…、よく冷静でいられるな。君のそういう所だけは尊敬するよ」

「フィン?それ褒めてるの?貶してるの?」

「両方だよ」

 正直言って、マイロの落ち着き具合はプロ顔負けだと思った。外に着いてからも彼の立ち振る舞いは毅然としたもので、普段とは別人のようだ。

「マイロ、とりあえずあそこに隠れよ—」

「手を上げろ」

 スチャリという機械仕掛けの金属音が、後頭部に突きつけられる。

「何者だ。フィンはどうした」

「今は答える必要はないかな。マイロ君、キミには私達と一緒に来てもらうよ」

 低くて粘り気のある女性の声が鼓膜を揺らす。後頭部を殴られ、ドゴッという鈍い音が鳴ると同時に、俺の意識はそこで途切れた。

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