【お題で執筆!! 短編創作フェス】選抜試験【試験】

星羽昴

不合格

「この国の未来は暗いわ!」


「何かあったか?」


「親戚の子が高校受験で、理科の勉強をみてあげたの。そしたら教科書に『100gにかかる重力を1N(ニュートン)とする』なんて書いてあったの。教科書によ!」


「それが何か?」


「あのね。N(ニュートン)って言う単位はMKS単位なの。Mはメートル、Kはキログラム、Sは秒のセコンド。知ってるよね?」


「ああ、知ってる」


「重さは、キログラムで表さないといけないのよ。グラムじゃ駄目なの!」


「要するに『0.1Kgにかかる重力を1N(ニュートン)とする』と記すべきと言う意味か。厳密には有効数字を揃えるために『0.10Kgにかかる重力を0.98N(ニュートン)とする』としないとならなくなるな」


「マーズ・クライメル・オービターって火星探査機が1998年12月に打ち上げられたんだけど、1999年9月に消失したのよ。アメリカとイギリスが関わっていたんだけど、推力を計算するのにイギリスはポンド秒で、アメリカはニュートン秒で表記してたんだってさ。単位の違いに気づかず数字だけ見てたから推力不足で火星の地表に墜落したんだろうって言われてるわ」


「日本で、力の単位をN(ニュートン)に統一したのはこの事故のすぐ後だったな。安全基準を定める法律もMKS単位での表記に統一されたはずだ」


「そう! MKS単位で統一するためにN(ニュートン)を使うのに、学校の教科書がキログラムじゃなくてグラムを使って定めるなんて本末転倒よ」


「貴女は不合格だな」


「何のこと?」


「詐欺師はカモを選別するために、ワザと矛盾する怪しい広告を出すんだ。マトモな判断のできる者は怪しいと思って近づかない。引っかかるのはマトモな判断のできない者ばかりだから騙されたことにも気づかれない」


「何よ、それ?」


「今、この国が求めているのは『頭がよくて騙されやすい』人間だ。それには『本質的な矛盾に気づかない』人間になるように教育する必要がある」


「ちょっと! 冗談になってないわよ?」


「この国の国民として、貴女は不合格だ」


「だからって、どうして拳銃の銃口を向けるのよ!」


 ……そして銃声が聞こえた。


『選抜試験』 ー完ー

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