第26話 エピローグ
レーリアのつきっきりの看病とやり過ぎくらいな治癒魔法のお陰で、肩の傷と、呪いによって落ちていた片目の視力は、三日もすれば回復していた。レーリアってば、死人でも蘇らすつもりかってくらい聖女様の神聖な力を使おうとするんだもんな。私はちょっとばかり、困っちゃうよ。でも、それくらい心配をかけたってことだ。
私が療養している間に、聖騎士団はキャンベル大司祭の部屋から闇魔術に関する研究や、それに魔族との契約に関する禁書を発見した。教会の大司祭ともあろう者が魔族と契約して、次々に人を襲っていたのだ。教会の面目丸潰れだろう。逆に、術者に神の鉄槌を下し、解決に導いたのは聖女様だと噂が広まり、レーリアはますます信者たちの信頼を勝ち得たようだ。まあ、その噂を流したのは私なんだけどね~。
教会の前に停まった馬車に、聖騎士団の騎士たちが大荷物を積み込んでいる。事件も片付いたし、ほしいものはほとんど買えた。これ以上、王都に留まる必要もない。
「姉様……本当に帰ってしまうのですか? あっ、そうだ。オークションが開かれるそうですよ! 貴重な禁書も出されるとか……姉様、気になりませんか?」
レーリアは口元に手をやり、甘えた口調できいてくる。思わず「禁書!?」と、反応しかけた私は、好奇心をグッと押さえて横を向いた。
「その手にはもうのらないよ、レーリア。これ以上誘惑してもダメ」
そんなことを言って、いつまでも王都に足止めしようとするんだから。それに、私が近くにいると、またレーリアを厄介事に巻き込んでしまいそうだし、評判も悪くなる。辺鄙な森の中で大人しく研究に没頭しておくほうがいい。
「あの……聖女様! こ、これは……どうするば~っ!!」
シエラン君が、袋とリボンでラッピングされている球体状のものを抱えてやってくる。レーリアは「それは、姉様へのプレゼントです」と、その球体状のものを受け取り、私に渡してきた。なかなか重い。
「私に? 何だろう?」
「姉様が喜ぶものです。開けてみてください」
後に手を回し、レーリアはイタズラっぽく笑った。
リボンを解いて袋を覗いてみると、入ってたのはギョロッとした大きな目玉だ。私は思わず、悲鳴を上げた。もちろん、喜びの悲鳴をだ。
「トロールの目玉じゃないの!!」
「姉様がほしがっていたので……昨日、聖騎士団総出で、トロール狩りを行ったんです」
聖騎士団総出でトロール狩り――。
なるほど、聖女様の後に控えている護衛の聖騎士たちが疲れ果てた顔をして、包帯まみれになっているのはそのためか。聖騎士団長のドMメガネ君なんて、腕にはギブスを巻いているし、顔は赤く腫れ上がり、目の上にはひどいたんこぶができいた。
「うわあ……聖騎士団長があんなに負傷するなんて、凶暴なトロールだったみたいだね」
実に痛々しい。私が同情して言うと、ドMメガネ君は「オホンッ」と、咳払いをする。レーリアに睨まれると、「……私は職務があるのでこれで」と急ぎ足で逃げていった。
「治療魔法、かけてあげなかったの?」
「不要ですわ。あのようなゲス……いえ、なんでも。それにあの者の傷はトロールのせいではありませんから」
「そうなの? じゃあ、なんで? まさかスッ転んだわけじゃないよね?」
「あの程度……姉様に傷を負わせた罪を思えば、軽すぎるくらいです。本当なら、手脚を切り落としてやったところなのに……姉様の恩情で許されているのですから」
レーリアは忌々しそうにチッと舌打ちする。レーリアちゃん、それ、聖女様がする顔じゃないからね。
「あの~、それがですね……」
シエラン君がそばにやってきて、私にコソコソ耳打ちしてくれた。
なるほど、あの傷はレーリアが聖女の杖でボコったせいだったのか――。
ますます、ドMメガネ君が気の毒になった。聖騎士団長として職務を全うしようとしただけなのに。
「あの、アデリア様……また、王都にはいらっしゃるのですか?」
シエラン君は少しモジモジしながらきいてくる。
「ん? まあ、そのうち、用があればねー」
「その時には、ぜひ公爵邸に……っ!!」
言いかけたシエラン君を押し退け、レーリアが私の手をギュッと握ってきた。
「姉様は安全な私の神殿に滞在してください。もちろん、いつでも迎えに行きますから!」
「う、うん……まあ、考えておくよ……二人とも元気でねー!」
私は愛想笑いをして、準備のできた馬車に向かう。
「アデリア様、絶対また戻ってきてください!」
「姉様、またすぐ会いに行きますから!」
本当に君たちは――。
あまり引き留められると、名残惜しくなっちゃうじゃないか。
私は急いで馬車に乗り込んでドアを閉めた。走り出した馬車から窓の外を見ると、二人が教会の前でずっと見送ってくれている。
「ありがとう……レーリア、シエラン君。また会おう」
私は頬杖をつきながら、呟いて微笑んだ。
『これは、聖女の妹を持った、闇落ち魔女の物語だ――』
闇落ち魔女の妹は聖女様 春森千依 @harumori_chie
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます