主人公シチュエーション試験 ~それって本当に正解ですか?~

初美陽一

<前編>パニック・シチュエーション

 ―― 突然ですが、文明社会は崩壊してしまいました! ――



 からくも生き残った人類はシェルターに逃げ込むも、当然のように大パニック。


 予断を許さぬ状況下シチュエーションで、追い詰められた人間は、一体どういう行動に出るのか。


 これからお見せするのは、あくまでも一例ではございますが。


 是非とも、一緒に考えて頂ければ幸いです。



 ―― とある〝青年A〟の場合 ――



<CASE1:人数制限>

『地上はもうダメだ、毒が充満して、人間が生きていける環境じゃなくなっちまった……皆、急いでシェルターに逃げ込め!』


 文明社会が崩壊したとて、人類の全てが瞬時に滅亡する訳ではない。我先にと逃げ込んだ人々で、シェルターはあっという間に一杯になってしまった。


『待ってください、まだ地上に取り残された人たちが!』

『両親が、来てないんです……ここの場所が分からなくて、迷ってるのかも……』

『友達と、途中ではぐれちゃって……捜しに行きたいんです!』

『逃げ遅れた人が、まだいるかもしれません……もう少しだけ、シェルターを開けておきましょう!』


 逃げ込んだ人々にも、もちろん家族や交友関係はあり、情もある。

 嘆願の声が上がる中、暗い声で告げられたのは。


『残念ですが、このシェルターは既に、許容量の限界です……定員オーバーで、これ以上の収容は推奨されません。行方の分からないご友人やご家族は、別のシェルターに逃げ込んでいるかもしれませんし、今は無事を祈るしか……それより早くシェルターを閉めないと、毒ガスが流れ込んでくるかもしれません』


『そんな、何とかならないんですか!?』


 嘆願が悲痛な声に変わり、中には泣き出す者もいる。


 その時、とある〝青年A〟は発言した。



「いえ、もしかすると助けられる人がいるかもしれないし、その可能性がある以上、見捨ててしまったらきっと後悔するはずです。シェルターはまだ閉めず、ギリギリまで人命救助を優先するべきです!」



『そうだ、そうだ! 彼の言う通りだ!』

『人命第一、命より尊いものは無いぞ!』


『……わかりました、シェルターはギリギリまで開けておきましょう……』


 こうして、毒ガスが流れ込んでくるギリギリまで開いていたシェルターは、逃げ込んでくる多くの人間を収容することが出来た。



<CASE2:ネガティブ・ポジティブ>

『ああ……親戚は無事なのかしら、両親は遠くに住んでいるのよ……』

『これから俺達、どうなるんだろう……』

『チクショウ、チクショウ……何でこんなことになっちまったんだ……!』


 突然に文明社会が崩壊し、当たり前の日常を奪われてしまった人々。

 悲嘆に暮れるのも仕方ないが、そこで〝青年A〟は出来る限り明るい声を放った。



「……みんな、俯いて悲観的になっても仕方ない。気持ちだけは明るく、前向きになろうよ! 空元気だとしても、出してる内に本当に元気が出てくるもんさ!」



『……それもそうか。愚痴ってても、どうしようもないもんな……』

『チクショウ、こうなったらヤケクソだ! 歌でも歌うか!?』

『そうだな、だけでも元気でいれば、雰囲気は明るくなるかもな……!』


 こうして、一時だけとはいえ、薄暗いシェルター内に賑やかな声が響いた。



<CASE3:食糧の備蓄と分配>

『困ったぞ、保存食の減りが思った以上に早い……このままじゃ、予想よりずっと早く備蓄が尽きるかもしれない……』

『まだ外の環境は少しも改善してないのに……このままじゃ飢えて全滅だ!』

『これ以上、一人一人の分を減らせないわ……今でさえ、ギリギリまで切り詰めてるんだし……』

『最悪、誰かの分を減らすとか、他の人に回すしかないのかしら……そういえば昔は食糧難で、切り捨てられてしまう女子供もいた、っていうけど……』


 泣けど嘆けど、ない袖は振れぬ。

 困窮する状況で、しかし〝青年A〟は堂々と発言した。



「いいや、女性や子供は守られるべき存在だ。いくら文明社会が崩壊したと言っても、それで人間性まで失ってちゃケダモノ同然じゃないか! むしろ子供たちを優先して食糧を回そう。こんな時だからこそ大人が耐えて、助けてあげないと!」



『まあ、それもそうか……自分の分が減るのはキツいけど……』

『子供が泣くのは、見たくないもんな……我慢しようか……』


 こうして、シェルター内の子供は、守られた。



<CASE4:空想への逃避>

『――皆さん、文明社会が崩壊したのも、今の私達に降りかかる困難も、人類が今まで重ねてきた罪によるものです。ですが、この試練を乗り切れば、きっと神様が救ってくださるはずです。苦しい状況は続くでしょうが、皆で心を一つにし、神に祈りながら静かに過ごしましょう……』


『確かに文明社会が崩壊するなんて、誰も思わなかったもんな……原因も分からないし、本当に天罰でもくだったのかもしれねぇ……』

『俺なんて悪いこと結構してきたし、ここでも魔が差しちまいそうになるし……こんなんだから、ダメなのかもな……』

『神様、どうか、お救いください……せめて、子供たちだけでも……』


 シェルターを出ることも出来ず、外の状況も分からない日が続き、いつしか広まっていった信仰。

 空想に逃げるかのように祈り続ける人々に、〝青年A〟は言い放った。



「何もせず祈ってだけいても、仕方ないだろ! 今するべきことは、この窮状をどうやって解決するか、皆で知恵を出し合って考えることじゃないか!? くだらない妄想に騙されないで、現実を直視して意見を出し合おうぜ!?」



『……確かに、どうかしてたかもな……神様とか天罰とか、あるわけねぇし……』

『何もせず過ごしてる内にも、備蓄はどんどん減ってくし……色々考えないと……』


『ああ、神よ、お許しください……どうか、どうか……』


 こうして、一部の人々は信仰に寄り添い続けたものの、多くの者は問題解決のために頭を悩ませた。



<CASE5:現状維持か、状況の打破か>

『ああ、もう限界だ……食糧の備蓄も、とうとう底をついちまった……このままじゃ、もう数日もたねぇ……』

『モニターも映らなくなって、外の状況なんて、もう分からない……』

『環境が改善している可能性は……かなり多めに見積もっても、五分五分といったところでしょう……一体、どうするべきでしょうか……』


 とうとう行き詰まりも極まった状況で、シェルター内には絶望的な空気が蔓延している。

 誰もが下を向き、既に諦める者もいる中、〝青年A〟は拳を強く握りしめ、勢いよく立ち上がった。



「こうなったらイチかバチか、俺はシェルターの外に出る! ここにいる皆を救うため、必要なものを集めてくるぜ! もし同じ気持ちのヤツがいたら、一緒についてきてくれ。自分達の手で、運命を切り開こう!」



『……そうよね。このままジッとしてても、飢え死にするだけなら……』

『よし、行こう! 仲間がいれば、怖くないぜ!』

『リーダー、頼りにしてるぜ! リーダー!』


「皆……ありがとう! そうさ、行動を起こさないと、何も始まらない! 俺に任せて、俺を信じて、俺に付いてこい――!」


 こうして、〝青年A〟は一部の仲間を引き連れ、シェルターの扉を開いた。



 さて、そのは―――?

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