第01話「異世界に迷い人」
――ここは、暖かい海に囲まれた、とある小さな島。
そこに、どこからともなく3人の成人女性が漂着してきた。
全員青い髪をしているが、その内1人は水色に近い色、1人はエメラルドグリーンに近い色をしている。
島民達は一丸となって少女達を救助し、一つの大きな集会用テントの下で安静にさせていた。
白い幕で四方が囲われているタイプのテントだ。
3人の内、1人は無事に目覚め、あとの2人を起こそうと必死に呼びかけていた。
???「晴海〜〜? 凪帆〜〜? 大丈夫〜〜?」
晴 海「うぅ〜ん…………んぁ?」
???「あっ! 晴海! 大丈夫? 起きれる?」
晴 海「うん、特になんとも……って、ミサ姉!? なんでここに居るの? 実家に帰ったはずじゃ……ってかここどこ?」
晴 海「亀ヶ島……かぁ」
医 者「おぉ、次女の晴海って子も起きたの?」
美 咲「はい! とりあえず無事みたいです」
医 者「それは良かった」
晴 海「この方は?」
美 咲「この島のお医者様なんですって。島について詳しく話すのは全員起きてからってことにしているらしいんだけど……」
晴 海「……凪帆、なかなか起きなさそうだね」
凪 帆「ぐぅ……ダメだろぉ……ちくわ大明神の中を覗いちゃあ……死ぬよ? 晴海ぃ……」
晴 海「あらヤダ、のんきに変な夢見てんじゃんこの子」
美 咲「凪帆〜〜? 大丈夫なんだったら起きて〜〜!」
凪 帆「うっ……うぅ〜〜ん……」
晴 海「あっ、おはよう。凪帆ちゃん」
凪 帆「……アレ? ミサ姉? てかここどこ?」
美 咲「ここは亀ヶ島っていう場所……らしいよ」
凪 帆「……なんで私達そんなところに居るんだ……?」
晴 海「あっ、ところで今何時くらいですか?」
医 者「今? そうね大体ねぇ……」
医者はそう言いながら、左手首に取り付けられている腕時計を見て答えた。
医 者「午前9時28分だね」
晴 海「9時……か」
医 者「あっ、
???「はいっ! 分かりました!」
晴 海「……?」
島の医者が"晴奈ちゃん"と呼んだその少女は、八潮三姉妹の居るテントの中に入って来た。
紅白色の巫女のような衣装を身に纏っているが、その上から裾が膝の下辺りまである赤いローブのようなものを羽織っている。
雨晴奈「皆さん初めまして! 私は、この島で唯一の神社の巫女を務めさせて頂いております、"
美 咲「初めまして。私はこの三姉妹の長女の、美咲と申します。こちらこそよろしくお願い致します」
晴 海「えっと、次女の晴海です。よろしくお願いします」
凪 帆「晴海と双子で三女の、凪帆です。よろしくお願いします」
雨晴奈「はい! 皆さんよろしくお願い致します!」
雨晴奈「え~っとですねぇ…………とりあえず、診療所の外に出た方がいいですかね?」
医 者「いやまぁ、好きにすればいいけど……島の説明するんだったら外に出て、実際に見せた方が分かりやすいんじゃないの?」
雨晴奈「あっそうですよね! はい! では、皆さんこちらへどうぞ」
晴 海「は~い」
そう言うと"雨晴奈"と名乗った少女はテントの幕をめくって外に出たので、八潮三姉妹もそれに続いてテントから出る。
美 咲「あっ、私たちの看護ありがとうございました!」
晴&凪「ありがとうございました!」
医 者「いやいや、私は君たちをここに寝かせておいただけだから、そんな感謝なんていらないよ」
医者と言葉を交わしながら出たテントの外は、亜熱帯気候の孤島だった。
3人はテントの外へ出た途端、その光景に驚くと共に魅入られていた。
赤茶色の瓦屋根を載せた家々、そして家と家の間から見えるエメラルドグリーンに輝く大海原。
振り返り、大きなテントより向こう側の景色を見てみようと、砂が入り混じっている石畳の道を歩きだした。
どうやらテントはビーチに設営されているらしく、目の前にはやはりエメラルドグリーンに輝く大海原が広がっていた。
島自体はかなり小さいようである。外周はおよそ10キロメートル程度といったところだろうか。
晴 海「うわ~~……! なんだか沖縄に来たみた~い!!」
凪 帆「青い空にさ、きれ~いに真っ白な雲が所々あるのも相まって……絶景だな」
雨晴奈「みなさ~ん! 私はこっちですよ~!」
3人はその呼びかけの声に応じ、雨の元へと駆け寄った。
雨晴奈「えっと、とりあえず私達の神社へご案内いたしますね」
晴 海「"私達の"神社……?」
雨晴奈「はい! この島の名前の由来にもなっているんですよ! では、私について来てください!」
美 咲「は~い」
八潮姉妹と雨の御一行は、亀ヶ島で唯一の神社へ向かって歩き出し、その道中で亀ヶ島の伝説について語った。
雨晴奈「この亀ヶ島は、今からおおよそ1100年ほど前、まだ島に名前が無かったほどの大昔に、東側の海岸で2匹の亀が漂着したのです。」
雨晴奈「でもその2匹の亀さん達、不思議なことにウミガメでは無く、陸に生息するような種の亀だったのですよ」
凪 帆「えっ、陸の亀なのに海から来たんですか?」
雨晴奈「そうなんですよ~! ウミガメでしたらこの島でも、ごく稀に産卵しに来る個体を見かけたりするのですが、後にも先にも陸の亀がこの島にやってきたのはその2匹だけなんです。しかも……」
晴 海「しかも?」
雨晴奈「……1匹は紫色の体に青色の甲羅、もう1匹は黄色の体に橙色の甲羅を持っていたんです!!」
三姉妹「なっ! なんだってー!!」
雨晴奈「当時の島民達は初めて見る種の亀さん達に戸惑いましたが、海に帰せそうにも無いので、この島で飼うことを決断しました」
雨晴奈「やがて、冬がやってきました。その亀さん達も、この島に来て初めての冬眠をしたのですが……」
雨晴奈「……と、言っている間に着いちゃいましたね」
晴 海「えっ、そんな気になるところで切らないでよ」
美 咲「おぉ~意外とこじんまり……」
その神社には、石の柱で出来た高さ5メートル程度の簡素な鳥居と、石の柱と壁に赤茶色の瓦屋根を乗せて造られた小さな神殿、それと、亀ヶ島の伝説について書かれた石造りの看板が建っていた。面積が小さいが、看板にも赤茶色の瓦屋根が乗っていた。
それらの周りは、生い茂る木々と低い石の塀に囲まれている。
……それから、境内の参道の石畳から外れた場所に、巫女装束とはまた違う袴を着た女性が3脚のパイプ椅子を配置していた。
???「あら、お帰りなさい晴奈。それと……外の世界から来られた皆さん、初めまして。」
美 咲「初めまして。私は、この三姉妹の長女、八潮美咲と申します」
晴 海「次女で双子の姉の晴海です!」
凪 帆「三女で双子の妹の凪帆です。よろしくお願い致します」
雨 母「えぇ、よろしくね。私は晴奈の母です。とりあえず、簡素で申し訳ないのですが、こちらにお掛けください」
三姉妹「ありがとうございます!」
3人は境内に配置された3脚のパイプ椅子に腰かけた。
それを晴奈の母が確認すると、神殿の壁に立てかけていたトートバッグを持って、神社の外へ歩き出した。
雨 母「じゃ、お母さんは自治会に戻るから、神社のお留守番とその子達を頼むわね」
雨晴奈「うん、行ってらっしゃい!」
雨晴奈「……それじゃあ、この島の伝説の続き、お話しさせていただきますね」
晴 海「待ってましたぁ!」
雨晴奈「えっとぉ、2匹の亀さん達をこの島で飼うことになって、やがて冬眠したところまではお話ししましたよね」
凪 帆「そうっすね」
雨晴奈「……その、2匹の亀さん達が冬眠から目覚めた時、不思議な事が起こったのですよ」
美 咲「不思議な……事?」
雨晴奈「青い方の亀さんが……5歳ぐらいの人間の少女の姿になっていたのです!!」
美&晴「はいっ!?」
凪 帆「はぁ?」
雨晴奈「しかも、橙色の亀さんと共に、私達人間と同じ言葉が話せるようになり、色々なことが分かりました」
雨晴奈「まず、2匹……いえ、お二人は姉弟である事、外の世界の大陸で起こっていた戦争から逃れ、共に海に飛び込んだところでこの島に辿り着いた事、青い亀さんが"次元の違う世界を渡り歩く力"を持つ事を教えていただきました」
晴 海「"次元の違う世界を渡り歩く力"……って、まさか……?」
雨晴奈「それからというもの、青い亀さんは"
美 咲「……ちなみに、橙色の亀さんの方は?」
雨晴奈「あぁ~……そちらも一応神様として祀られはしたのですが、人間と同じ言葉を喋る事が出来るくらいで、姿も亀のままなので、あまり特別視はされなかったようで……ただ"カメさん"とだけ呼ばれていました」
凪 帆「えぇ……」
雨晴奈「……やがて、青姫様の御姿はみるみるうちに成長されていき、攻撃・防御・回復等の妖術を習得し、力をつけられました。信仰心も順調に集まっていき、本当の"亀ヶ島の神様"へと昇格されたのです」
雨晴奈「しかし、それからおよそ1000年後……今からだとおよそ100年前の出来事です。突如、ヘリコプターなる乗り物がやってきて……"キッシュブレン連邦共和国"というところに旅立ったのです……」
凪 帆「……は? ヘリコプター? えっ、なんで急に?」
雨晴奈「今はもう地続きになっていますが……ここから遠く離れた場所に、"キッシュブレン連邦共和国"という国があるそうです」
雨晴奈「恥ずかしながら、経緯の詳細は私にはよく分からないのですが……要は、伝説を聞きつけたその国の連中が徴兵しに来て、青姫様はその件をご快諾されたのです」
美 咲「本当に突然だったのね……」
雨晴奈「そうなんですよ。この島の歴史を記す書物でも、本当に! 何の前触れも! 伏線も無く! 突然この事が書かれているのですよ」
雨晴奈「ちなみに、この時から村長の座は青姫様に代わって、神社の神主様、または巫女が務めるようになりました」
雨晴奈「……とまぁ、こうして、かつて青姫様が築き上げられた新しい文明のおかげで、私たちは現在もこうして生き長らえている……というワケです。めでたしめでたし!」
3人は、その長い長い歴史をなんとか語り終えることができた晴奈に、一斉に拍手を送った。
美 咲「いやぁ~……すごい神話があるんですね。この島には」
雨晴奈「はい……もうそれはそれは壮大なバックストーリーがあるのですよ」
雨晴奈「で、ここからがようやく本題なのですが……皆さん、元の世界に帰りたいですよね」
晴 海「もちろんですよ! 私の大学生活もまだまだ始まったばかりですし!」
凪 帆「左に同じく」
美 咲「実家の父母が心配すると思うので……」
雨晴奈「ですよね! そりゃそうですよね!」
雨晴奈「そこで皆さんには、先ほど申し上げた"キッシュブレン連邦共和国"という所に向かい、青姫様に会っていただきます!」
美 咲「えっ?」
凪 帆「えっ?」
晴 海「……あぁ、やっぱり」
雨晴奈「先ほど、青姫様は"次元の違う世界を渡り歩く力"を持っていると、説明致しましたよね。つまり、青姫様に帰してもらうように直接お願いしに行くのですよ」
凪 帆「うわぁ~……マジかぁ……」
美 咲「ちなみに、そこまではどれくらいの距離があるのですか?」
雨晴奈「う~~~ん……申し訳無いのですが、私自身は調べたことがないので存じ上げていな――」
???「大体2000キロメートルだ」
晴 海「……えっ?」
雨晴奈「あっ! お父さん! お母さんも! おかえりなさい!」
雨 父「あぁ、ただいま。それと、初めまして……美咲さん、晴海さん、凪帆さん。皆さんの事は既に聞いております」
美 咲「あっ、はい初めまして」
雨 父「私はこの神社の神主で、この島の村長も兼任している……晴奈の父です。短い間ですが、よろしくお願いします」
三姉妹「よろしくお願いします」
晴 海「……さては名付けサボったな?」
凪 帆「メタいぞ」
晴奈の父に続いて、晴奈の母が紙コップに入った水をステンレス製の四角いトレーに乗せて運び込み、3人と晴奈に配った。
雨 母「こちら、この島の水道水です。お口に合うかどうか分かりませんが、喉が渇いていましたらどうぞ」
美 咲「ありがとうございます」
晴 海「ありがとうございます!」
凪 帆「ありがとうございます」
雨晴奈「ありがとっ!」
4人は水を口にした。
雨晴奈「あぁ~~ちょうど喋りっぱなしだったから生き返るわ~~!」
晴 海「えっ、結構美味しい!」
美 咲「割と綺麗なお水なんですね」
凪 帆「ねっ、意外とこの世界の水道っていい整備してるのかな」
雨 母「お口に合ったようで何よりです……!」
雨 父「……で、今は多分、青姫様に元の世界に帰して頂くようお願いするため、キッシュブレンへ行こうという話……なんだよね?」
雨晴奈「うん、そんな感じで合ってるよ」
雨 父「……ここから約2000キロメートル離れた所にある"キッシュブレン・シュタッド"という都市に行けば、異界渡りができる亀の神様がいらっしゃいます。あのお方なら、あなた達を元の世界に帰してくださることでしょう。」
凪 帆「2000キロ……遠いってレベルじゃないな……もう壮大な旅行って感じで」
美 咲「まず生きて帰れるのかしら……」
晴 海「……でも、帰れる手段の目途がついただけ、まだ救いがあるんじゃないの?」
凪 帆「それはそう」
雨 父「まぁ、何も知らない土地を何十日も冒険する旅に、いきなり出るのは不安ですよね……」
雨 父「そこでですね……せめてものお守りとして、皆さんに護身に使える魔力を授けたいと思います。……晴奈、できるか?」
雨晴奈「私ですか!?」
雨 父「あぁ、晴奈はお母さんやお父さんよりも力があるんだ……大丈夫だよ。呪術や
雨晴奈「……あぁ~、えっと……そういう事なら、分かりました」
晴奈の母はすかさず、4人の紙コップを回収した。
雨晴奈「……先ほど説明した通り、私たちはこの土地の歴史や神様の伝説を信じて、"外の世界がこんなに素晴らしい技術に溢れているのなら、きっと現地の人々も素晴らしいに違いない"と、皆さんを尊敬しています」
雨晴奈「ですが、この島を出ると、外の世界の人間は警戒され、中には迫害する人が出てくるかもしれません」
雨晴奈「なので護身用として、
雨晴奈「護身用程度ですが、鍛錬を重ねれば普通に戦闘で使えるようにはなると思います」
雨晴奈「……というわけで、いかがでしょう? 魔法使いになってみませんか!?」
美 咲「いいんじゃない? せっかく異世界きたんだし」
凪 帆「もうミサ姉観光気分じゃん」
晴 海「なります! 魔法使いになります!」
雨晴奈「分かりました! じゃあ、準備するので少々お待ちください」
そう言うと、雨の一家は神社の裏にある自宅兼社務所の納屋へ向かった。
◇
雨晴奈「お待たせ致しました~! どうぞ、神殿の前まで!」
そう言われると、3人は石畳の参道に出て神殿の前に恐る恐る踏み入り、立ち止まった。
雨晴奈「……では、お三方まとめて……参ります!」
その掛け声を合図に、晴奈はたくさんの鈴と色とりどりの帯が付けられた柄……そんな神楽鈴のようなモノを両手で持ち、規則的に、ゆっくりと振った。
雨晴奈「……掛けまくも、恐き、ティウグ
雨晴奈「その大いなる御力を有し、数々の神器を生み出されし軍神の御力を……諸々の禍事、罪穢れを払いのける御力を、この神薙に
雨晴奈「……秘術開放、"
(※だいぶ無茶苦茶な翻訳をした上で読者の皆様に術の言葉をお届けしておりますことを、どうかご容赦ください)
晴奈がそう唱えると、突如として神社を中心に黒い雲が上空で渦を巻き、島一体とその周辺を暗くした。
渦の中心には穴が開き、その穴から直視できないほどの眩い光が、地上に居た晴奈の元に落ちて来た。
ほどなくして、晴奈を包んでいた光が晴れると……神々しいオーラを放つ晴奈が、堂々と立っていた。
先程までの年相応に明るく振る舞っていた少女の面影はほとんど無く、鬼気迫る目つきをしている。
3人はその光景を前に、ただただ驚嘆していた。
雨晴奈「……ハアァァァァアッ!!」
晴奈は目一杯力を籠め、八潮三姉妹に……その魔力を授けた。
あまりの衝撃に3人は一瞬怯んだが、確実にその魔力は八潮三姉妹に注ぎ込まれた。
雨晴奈「……掛けまくも、恐き、ティウグ神」
雨晴奈「
晴奈がそう唱えると、上空で渦を巻いていた黒い雲は晴れ、元の清々しい青空が戻った。
雨晴奈「……大変お疲れ様でした。これで皆さんは、晴れて魔法使いですよ!」
三姉妹「…………?」
雨 父「ははは……さすがにちょっとびっくりしましたよね……」
雨晴奈「あっ、お父さん、鈴をお願いね」
雨 父「はいよ。じゃ、納屋に仕舞ってくるから」
雨 母「私は……一応、まだ付き添っておいた方がいいかしら?」
雨晴奈「……うん、お願い」
雨晴奈「美咲さ~ん! 晴海さ~ん! 凪帆さ~ん! 起きてくださ~い! 無事終わりましたよ~?」
晴 海「……あっ……はは。なんか……すごいもの見ちゃったなぁ……」
美 咲「魔法って……実在したんだなぁ……って」
凪 帆「魔法っていうよりは、"霊力を使った儀式"って言い方の方がしっくりくるような……何かだったけどな」
3人は少し足が震えていたが、なんとか立ち上がった。
雨晴奈「さっ! これで皆さんはたくさんの魔力を持てるようになったので、早速試しに行きましょっ!」
晴 海「えっと、どこに行けばいいんです?」
雨晴奈「さっきのビーチに行きましょうか。海しか無い方向に向かって使えば安全ですので」
美 咲「分かりました」
凪 帆「いやぁ……なんかまだ信じられねぇなぁ……」
◇
軍神から分け与えられた魔力を試すべく、3人と、晴奈とその母と、鈴を納屋に納めて来た父は、亀ヶ島の砂浜に来ていた。
少しだけ話し合った結果、凪帆、晴海、美咲の順に執り行うことになった。
雨晴奈「魔法を使って攻撃する自分を、できるだけ具体的にイメージするのです。どんな見た目の弾を発射して、どんな風に広がっていくか……みたいな?」
雨晴奈「要は己のイマジネーションと精神状態、そして運が頼りです」
凪 帆「イマジネーション……か。……よし」
凪 帆「………………ハァッ!!」
凪帆が右手を突き出し、人差し指を海に向かって指すと、赤白く光る球体が凪帆の前方に何個か繰り出され、円を描きながら公転した。
それから間もなく、球体達は高速回転したまま熱線を広範囲に発射した。
美&晴「おぉーーーー!!!!」
雨晴奈「すっごーい!! 成功したぁーー!!」
雨 母「ふふっ……頑張ったわね!」
雨 父「……よかったな」
それらの球体は、何回か熱線を発した後に消滅した。
続けて今度は、大きな大きな光球を目の前に出現させた。
凪 帆「えいっ!!」
凪帆が空中でボールを投げるような動作をすると、光球は空高く舞い上がり……約3秒後に爆発した。
数百メートルほど離れていたはずだが、爆風はビーチにまで届いた。
晴&美「うわぁっ!?」
凪 帆「すっ……すごい……本当に私、魔法を使ってる……魔女っ子になってる!!」
雨晴奈「では、技のイメージが固まったら名前を付けてみましょう! 詠唱すれば形は安定しますし、愛着も湧いてくると思いますよ」
凪 帆「う〜〜ん……そうだなぁ……1分くらいかかるかも」
晴 海「カビシャブかナーホンか……」
美 咲「さすがにその手のアニメのネタを使った名前は付けないでしょ……あなたじゃあるまいし」
晴 海「えぇ〜〜……」
凪 帆「よしっ!決まった!」
雨晴奈「おっ!決まりましたか!」
凪 帆「それじゃあ、最初の熱線を放つのはミキサーみたいに回転するから、"ハリケーンミキサー"で、次に爆弾出すやつは太陽みたいにまぶしいから、夜明けを意味する"デイブレイク"でどうでしょう?」
雨晴奈「おぉ~~! 素敵な名前じゃないですか~~!」
晴 海「なんか、正に魔法の技名って感じ!」
雨晴奈「じゃあ、次は……行ってみましょうか! 晴海さん!」
晴 海「行きますかぁ!!」
凪 帆「さてさて、どうなるかなぁ……」
晴 海「……。」
晴海は海を前に、少し眺めた後、目を閉じて両腕を前方に向かって突き出し、さらに手のひらを前へ向けた。
晴 海「……フンッ!」
その力んだ声を発した瞬間、晴海の前に巨大な静電気のようなものが走った。
すると、晴海の目の前で半透明の青白い光が波紋のように広がった後、より透明度の高い青白い光で壁を作り上げた。
その壁はどんどん大きくなっていき、およそ半径5メートル程度の円が出来上がった。
美,凪,奈「おぉ~~!!」
美 咲「すごい……」
雨晴奈「これは……防御魔法ですね! これも結構汎用性高いと思いますよ!」
歓声が耳に入り、思わず目を開けた晴海も、自分が作り出した魔法の防御壁に見惚れた。
晴 海「おぉ~~……」
雨晴奈「防御壁の硬さはどうですか?」
晴 海「あっ、確かに気になるそれ」
晴海がその防御壁に軽くノックしたところ、ノックした部分を中心に小さく波紋が広がった。
晴 海「……うん、結構硬そう」
凪 帆「よし、じゃあ強度を検証してやろう」
晴 海「へっ!?」
凪 帆「"ハリケーンミキサー"ッ!!」
雨晴奈「離れて!!」
咄嗟に晴海はその場から駆け足で逃げた。
凪帆のハリケーンミキサーの熱線は、防御壁を……貫かなかった。
防御壁はその衝撃をほとんど吸収し、熱線が止むまで耐えた後、晴海が解除した。
凪 帆「なにっ!?」
晴 海「お~! やった! 防ぎ切れた~!」
雨晴奈「名前はどうしますか?」
晴 海「う~ん……"なんでも防ぐバリア君"とか?」
凪 帆「いいのかよそんな名前で……もっと他にあるだろ」
晴 海「う~~~ん……」
美 咲「……じゃあ、晴海が考えている間に、私も魔法に挑戦しちゃおっかな~」
雨晴奈「おっ! 行きますかじゃあ!」
美咲は海の目の前に出て、少しの間景色を眺めた後、目を閉じて両手の人差し指と中指をくっつけて前方へ突き出し、そのまま両手で円を描いた。
雨晴奈「……うん?」
美 咲「あれっ、何も出ない……」
思わず美咲も目を開けて、周囲を見回す。
晴 海「……ん、あれ? なんか……急に口内炎の痛みが治まってきたような気が……」
凪 帆「どれ、口の中開けてみな?」
晴 海「あ~~~ん」
凪 帆「……えっ! なんかちょっとずつ口内炎がしぼんでいってる!」
晴 海「へぇ? ホレッテヘンガイヒンカウテイデハオッテヒテウロ??」
凪 帆「口閉じていいから日本語で話してくれ」
そう言われた晴海は、素直に口を閉じてもう一度言葉を繰り返した。
美咲と晴奈は少し首を傾げていた。
晴 海「……ねぇ、それって現在進行形で治ってきてるの?」
凪 帆「あぁ、そりゃもうみるみる内に」
雨晴奈「……もしかして、美咲さんの魔法って」
晴 海「口内炎を治す魔法……ってこと!?」
凪 帆「しょぼすぎんだろ」
美 咲「んなアホな」
雨晴奈「多分これ、美咲さんは外傷などを治す回復系の魔法を習得したんでしょうね」
美 咲「あぁ、なるほどそういう……」
晴 海「魔法掛けたら一瞬で治るとかじゃなくて、徐々に治っていくのがなんか面白いね」
凪 帆「あれじゃない? 細胞分裂を強制的に加速させて治してるんじゃないの? まぁ生物は専門じゃないから知らんけど」
雨晴奈「……で~、その回復魔法の名前……命名しちゃってください!」
美 咲「ふ~~~む………………よし、決めた!」
雨晴奈「ではどうぞ!」
美 咲「命名……"安らぎのさざ波"!」
雨晴奈「おぉ~素敵じゃないですかぁ~~!」
凪 帆「まぁ回復の魔法は穏やかな名前の方がいいだろうし、割とピッタリなんじゃないか?」
美 咲「そうねぇ、下手に横文字使うのもちょっと嫌だし……」
雨晴奈「……さて、晴海さんは……どうですか? 決まりそうですか?」
晴 海「……決めました!」
美&凪「おぉ~……!」
雨晴奈「では……命名の方を、お願いします!」
晴 海「命名……"パール・シールド"!」
雨晴奈「おぉ~! なんだか幻想的な名前で、いいじゃないですか~!」
凪 帆「意外だな。晴海のことだから、てっきり好きなゲームの技名のパロディでも出すかと思ってた」
美 咲「同じく」
晴 海「いいじゃん別にシンプルでも」
そんなこんなで談笑している間に、晴奈の母は腕時計で時刻を確認した。
雨 母「あら、そろそろ買い出しの時間だけど……どうする?」
雨晴奈「そっか、もう10時か」
雨晴奈「えっと、私達はいつも10時頃、ここから自家用ボートで20分くらいの所にある大陸の港町まで買い出しに出かけるんですけど……一緒に行きませんか?」
美 咲「えっ? いいんですか? 同行させてもらっても」
雨 母「えぇ、ただしボートに積載するまで荷物を持って頂くことになりますが……」
凪 帆「それくらいはもちろん! 喜んで運びますよ!」
雨晴奈「あっそうだ! ちょっと早いですが……旅に出るための買い出しを市場で済ませて……そのまま出発されますか?」
晴 海「あぁ~~……そっか、そういうことも出来るんだ」
雨晴奈「はいっ! あそこはほぼ何でも揃いますから!」
凪 帆「そうなると、もうこの島ともお別れか……」
美 咲「まぁ名残惜しいけど、私達はできるだけ早く帰らなきゃいけないから……」
晴 海「そう……だよね」
雨 母「では……皆さん、晴奈の案に賛成ということで……よろしいですか?」
美 咲「はい。大丈夫です」
凪 帆「私も、それで構いません」
晴 海「……私達も、亀ヶ島から旅立ちます! 今から!」
雨晴奈「……分かりました。では、買い出しの準備をしますね」
そう言うと晴奈は、自宅に走って行った。
雨 母「では、私達は一足先にボートの準備をして待ちましょうか」
美 咲「……そうですね」
◇
3人と晴奈の母は、島の船着き場に辿り着き、晴奈の母は早速ボートに乗り込んで、エンジンにガソリンが十分入っていることを確認した。
ボートは屋根が無く細長い小型タイプで、後方にガソリンエンジンで動くモーターと、それを制御するレバーが搭載されている。
せいぜい5人乗るのが限度であろう。
ガソリンの確認ができた後、コックレバーを上げ、シフトレバーをニュートラルにセットし、少しだけアクセルのレバーを上げた。
続けて紐を2回程引っ張ると、エンジンが唸り声を上げて始動した。準備は整ったようだ。
雨 母「さぁ、好きな所にお座りくださいな」
凪 帆「んじゃあ私は真ん中にしとこうかな」
晴 海「私はその前~」
美 咲「えっと、前、失礼させていただきますね」
雨 母「は~い」
そうこうしている内に、晴奈が買い物かごと財布、買い物メモ、人数分のライフジャケットを持ち、晴奈の父を含む島民達を引き連れて帰って来た。
雨晴奈「お待たせしました~! 準備できました!」
雨 父「ついでに見送る準備も出来ました!」
雨 母「あなたは今日結構仕事で忙しいんじゃなかったっけ?」
雨 父「いいだろ別に~、客人の旅立ちを見送るのも村長の仕事だよ」
晴奈の父がそう言うと、同じく見送りに来た島民達もゲラゲラと笑った。
それに釣られて、八潮三姉妹も少し笑った。
雨晴奈「えっと~、これ私は一番前に座ればいい感じ?」
雨 母「そうね、いつも通り船の頭押さえてなさい」
雨晴奈「は~い。あっ、これ皆さんのライフジャケットです。ギリギリになっちゃいましたけど、着用お願いします」
三姉妹「は~い」
晴奈の母は、自分を含めた全員のライフジャケットの着用を確認した後、係船ロープ(ボートを桟橋や港に留めるためのロープと金具)を取り外し、シフトレバーをフォワードにセットした。
雨 母「それじゃあ、行ってきます!」
雨晴奈「行ってきます!」
美 咲「じゃあ、皆さんもお元気で!」
晴 海「さようなら~!」
凪 帆「頑張ります!」
雨 父「みんな元気でな~~!! 良い旅を~~!!」
医 者「無理はしないでくださいね~!」
島 民「お気をつけて~!」
八潮三姉妹と島民達は、手を大きく振りながら別れた。
しばらくすると、亀ヶ島も見えなくなってきた。
ボートは変わらず、大海原を順調に突き進んでいた。
晴 海「っていうか今思い出したんだけどさぁ、ミサ姉って今上尾の教習所通ってるんじゃなかったっけ」
凪 帆「あっそうじゃん! 尚更早く帰らないといけないじゃん!!」
美 咲「うん、それ私もさっき思い出して結構焦ってる……」
雨晴奈「えっ? 船舶の免許でも取られるんですか?」
美 咲「あ~いや、違うの。自動車の免許ね」
雨晴奈「へぇ~~自動車ですか! いいなぁ……うちの島じゃ自動車は走らせられないので、みんな自家用ボートのための免許を取るんですよねぇ……」
晴 海「そっか、道も狭いし島自体も小さいから、わざわざ車を使う必要もないもんね」
雨晴奈「そうなんですよ~~」
美 咲「……ところでさ、この世界を旅するなら……多分この世界のお金が必要になってくるのよね……?」
晴&凪「……あっ」
雨晴奈「……まぁ、困ったらどこかでお手伝いとして仕事をするか、物々交換すれば何とかなりますよ! きっと!」
三姉妹「えぇ……」
晴 海「ってかすっごい今更なんですけどぉ……私達のこの服って亀ヶ島の方達が仕立てられたんですか?」
凪 帆「あっそういえば確かに」
美 咲「最早それどころじゃなかったもんねぇ……」
3人の服装は皆、袴のように袖が広く、長く、白いブラウスの上から、グレーを主体とし、それぞれのイメージカラーがアクセントとして帯状にあしらわれたジャンパースカートと、その縫い目に取り付けられた白いエプロン、イメージカラーの色を纏ったベルトとネクタイで構成されている。
イメージカラーは、美咲が水色、晴海がオレンジ色、凪帆が黄緑色である。
雨晴奈「いえ……皆さんが島に漂着された時から、その服装でしたよ」
晴 海「えっ! こんなドイツの民族衣装と袴を足して2で割って、現代風にアレンジしたような素敵な服を着て異世界来たの!? 私達ぃ!」
凪 帆「いやまぁ確かにリボンがネクタイで無ければそっくりだけどさぁ……」
美 咲「いいのかなぁ、こんな派手な服着ちゃって……私もう21歳だけど……」
雨 母「いいんですよ、21歳なんてまだまだ若いんだから。まだまだ人生も長いんですし、はっちゃけられる内に楽しみなさい」
美 咲「……はいっ!」
晴 海「あっ、でも私が元から着けてる橘の花の髪飾りだけはそのまんまだ~」
凪 帆「お~良かったじゃん! 無くすなよ~」
晴 海「もちろんです。プロですから」
美 咲「落とし物を探すプロなんでしょ、知ってる」
晴 海「違うよぉ!! そういう意味じゃないってば~!」
◇
大海原を渡ること約20分、港町の自家用ボート専用の船着き場に到着し、桟橋に係留した。
雨 母「着いたわよ」
その声を合図に、晴奈は我先に桟橋に飛び乗った。
雨晴奈「……よっと。では、足元に気を付けてお降りくださいね~」
それに続いて、3人も順番にボートを降りて行った。
晴 海「うわぁ~……! ここも結構いい感じの町だなぁ~!!」
凪 帆「なんとな~く東南アジアの栄えてる港町みたいな雰囲気があるな。ベトナムのダナンとかさ」
晴 海「あぁ確かにそれっぽいかも!」
雨晴奈「ここは"チャンヌイ"という港町で、私たちはよくここから歩いて15分くらいの市場で買い出しをしているんです!」
美 咲「へぇ~、なんだか賑やかねぇ」
船着き場の付近は街路樹が植えられた大通りが沿岸部を通っており、その道路に沿って低層のビルやリゾートホテル、飲食店などが立ち並んでいる。
雨 母「じゃ、お母さんはここで待ってるから、気を付けてお買い物に行ってきなさぁい」
雨晴奈「うん! 行ってくる~~! じゃあ皆さん、私について来てくださいね~!」
三姉妹「は~い」
◇
3人と晴奈は、買い物で亀ヶ島で不足してきた物資や食料、そして旅に必要となる最低限の日用品と、それを収めるビニールテープ製の丈夫な鞄を買い、船着き場に戻って来た。
晴 海「なんかすっごい端折られた気がするんだけど……気のせい?」
雨 母「えぇ、"気のせい"だと思います」
晴奈の母は、"気のせい"という単語を少し強調して言いながら、ボートに乗り込み、エンジンを掛けた。
雨晴奈「それでは、私達が手伝えるのはここまでになってしまいますが……どうか、お元気で! そして、もしキッシュブレンに着いたら……その、亀ヶ島に、電話を一本掛けていただけますか?」
美 咲「はい! 必ず電話すると、約束します!」
雨晴奈「……ッ!! ありがとうございます!!」
そう言った晴奈は、少し重い足取りで……ボートに乗り込んだ。
雨晴奈「では、少し名残惜しいですが……皆さん、どうか良い旅を!」
晴 海「はい! 晴奈さんもお母さまも、どうかお元気で!」
雨 母「あら、ありがとうございます」
美 咲「帰りもお気をつけてくださいね」
凪 帆「じゃあ、また電話で!」
雨晴奈「はい! また電話を通してお会いしましょう!」
雨 母「またね~」
そう言って、晴奈とその母は、万感の想いを込めて出港した。晴奈はずっと手を大きく振っていた。
八潮三姉妹も、それに応えて、見えづらくなるまで手を大きく振り続けた。
晴 海「……そういえば、キッシュブレンまでどうやって行くんだっけ……?」
美 咲「どうやってって……歩きしか無いんじゃない?」
凪 帆「えぇ〜〜勘弁してくれよ〜〜! 何日かかるんだマジで……」
晴 海「スマホが無いから地図アプリも開けなくて具体的な道が分からないし……どういうルートで歩いたら良いんだろう」
美 咲「そりゃあなた、バラエティ系の旅番組のごとく現地の人に聞き込みをする他無いわよ。……多分」
凪 帆「つまり飲食店を探す某バス旅番組の徒歩版ということだな! よし行こうっ!」
晴 海「私としては水曜深夜にやってた過酷旅のドキュメンタリー番組的なアレの方がいいんだけどな――」
晴海がそう言いかけた瞬間、何者かが美咲の後ろを走って通過し、その際に鞄を盗んでいった。
所謂"ひったくり犯"である。
美 咲「きゃぁっ!?」
凪 帆「ちょっ、おい待てそこのドイツ国旗みたいな色合いしている男ッ!! 止まれぇ!!」
晴 海「いやまぁ確かに黒と赤と黄色だけど、この世界で通じるのかなそれ……」
凪 帆「そこのひったくり犯!! 止まれぇい!!」
すかさず八潮姉妹は犯人を追いかけた。
しかし、男は異様に足が速く、1分もしない内に人混みの中へ消えて見失ってしまった。
凪 帆「ぜぇ……はぁっ……足速すぎでしょアイツ……アスリートか何かか……?」
晴 海「これ……どうすんの……?」
美 咲「どうすんのって……警察の人探す?」
凪 帆「それしか無いかぁ……」
◇
途方に暮れながらも、とりあえず歩き回る事数分……3人の後ろから、男が声を上げた。
???「君達の探し物はこれかい?」
美 咲「ッ!?」
凪 帆「あっ! アンタ!!」
晴 海「さっきの……えぇ~っと、ドイツ国旗みたいな色合いの人?」
???「ドイ……ツ? まぁいいや。そう、君達の鞄をひったくったのは他でもない。このハバいでででででで!!」
男が名乗ろうとしたところで美咲が近づき、さっきまでの真顔から表情一つ変えずに男の腕を強くつねった。
???「待って!! 返すから!! 返す約束をするからつねるのを止めてくれ!! 大丈夫だってなんも物は抜き取って無いから!! 俺の目当てそこじゃないから!!」
美 咲「"約束"じゃあなくて、今すぐに返してくれないかしら? この距離ならちょっと腕と手を動かせばできることでしょう?」
???「悪いがお断りだ! 今返しちまったら君達すぐにどっかに逃げちゃうじゃないか……まぁ話は最後まで聴けって。だから俺の腕をつねっているその手を離してくれ。」
美咲は怪訝そうな顔をしつつ、渋々手を離した。
凪 帆「……んで、何のためにその鞄を盗ったのさ?」
???「……君達が赤色と白色の服を纏った少女と、一緒に市場で買い物をしている所を目撃したんだ。そこで"外の世界から来た人間"とかいうワードが飛び出したもんだから、その戦闘力が気になって気になってしょうがないんだよ。だから隙をついて争いごとになるきっかけを作った」
晴 海「……う~ん、俗に言う戦闘狂ってやつかな」
???「そう思ってくれて差し支えないよ。あっ、そういや名前を言い忘れていたな」
羽 針「俺の名前は"
美 咲「"仕事"?」
羽 針「あっ、やべ」
凪 帆「うん?」
羽 針「ゴホンッ……えぇっと、じゃあ君達の名前を聞かせてもらってもいいかな?」
晴 海「私、八潮晴海! こっちのエメラルドグリーンみたいな髪の子は富士山!」
凪 帆「なんでだよ! おかしいだろ!」
晴 海「今日からお前は……富士山だ!!」
凪 帆「あぁもういいよそれで!!」
美 咲「えぇ……」
晴 海「ほら、お姉ちゃんも!」
美 咲「……。」
美 咲「この子達の姉のピンネシリ岳です! 対戦よろしくお願いします!」
羽 針「へぇ、なんだか見かけによらず勇ましい名前なんだな。こちらこそ、よろしく頼んだ」
凪 帆「なんッだそのチョイスはァーー!? っていうか、匙を投げるなァーー!!」
晴 海「凪帆も利尻富士に変えとく?」
凪 帆「いいよこれ以上面倒くさくしないで!」
羽 針「強引な方法にはなっちまったが……鞄を返してほしければ、オレと戦えぇい!!」
――次回、第02話「アセンブルディメンション」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
マギアポリス探訪記 アノルデンこまち @Anorden_Komachi27
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