ルアンパバーンの月

@yuuyuu1010

第一章 黄金の街への旅

南国の湿った空気が肌にまとわりつく。

ルアンパバーン空港に降り立った瞬間、主人公の早坂瑠璃(はやさかるり)は心が軽くなるのを感じた。


30歳を目前にした瑠璃は、仕事にも人間関係にも疲れ果て、何かを見つけるためにひとりラオスへと旅立った。友人から勧められたこの町は、ユネスコ世界遺産に登録された静かな街。メコン川とナムカン川が交わる場所にある、美しい寺院とフランス植民地時代の面影が残る場所だ。


小さなトゥクトゥクに揺られながら、瑠璃は初めて目にする異国の景色に目を奪われた。黄色い壁のコロニアル建築、オレンジ色の袈裟を着た僧侶たち、そしてゆっくりと流れるメコン川。


「これがルアンパバーン……」


街の中心にあるホテルにチェックインを済ませると、瑠璃は地図も持たずに外へ出た。人々の笑顔、香辛料の香り、そしてどこからか聞こえる鐘の音に、心が自然と引き寄せられる。


第二章 寺院と出会い


翌朝、瑠璃は早起きして町の散策に出た。日の出とともに行われる「托鉢」を見るためだ。


僧侶たちが静かに歩き、地元の人々が炊きたてのもち米を手渡す光景は、心に深く染み入るものだった。


「なんて静かで、穏やかな時間……」


瑠璃はその場に立ち尽くし、ただ托鉢の行列を見守った。そのとき、ふと視界に入ったのは、托鉢をしていた一人の若い僧侶。彼は瑠璃の視線に気づいたのか、一瞬だけ微笑み、また歩き出した。


その僧侶にどこか引き寄せられるように、瑠璃は寺院「ワット・シェントーン」を訪れる。黄金の屋根と美しいモザイク装飾。中に入ると、仏像が静かに祀られ、心が洗われるようだった。


「何か探しているのですか?」


背後から声をかけられ、振り返ると、あの托鉢の僧侶が立っていた。


「……いえ。ただ、何かを見つけたくてここに来ました」


彼の名はスワン。22歳の僧侶で、この寺院で修行をしているという。スワンは柔らかく微笑むと、瑠璃を寺院の奥へと案内した。


第三章 メコン川の月


その日の夕暮れ、スワンに誘われて瑠璃はメコン川沿いを歩いた。川沿いには屋台が並び、観光客や地元の人々が楽しそうに過ごしている。


スワンは言った。

「この町には、時間がゆっくり流れる魔法があります。人々はそれを感じるためにここに来るのです」


瑠璃は川辺に座り込み、ゆっくりと沈む夕陽を眺めた。スワンも隣に座り、何も言わずに同じ光景を見つめている。


「……私、ここに来るまでずっと、急いで生きていました。時間が足りないって思って」

「でも、時間は追いかけるものではなく、感じるものだと思います」


スワンの言葉は、瑠璃の胸に静かに響いた。その夜、瑠璃はメコン川に浮かぶ月を眺めながら、心の奥にあった焦りや不安が少しずつ溶けていくのを感じた。


第四章 別れと新しい道


滞在最終日、瑠璃は再びワット・シェントーンを訪れた。スワンは寺院の門の前で待っていた。


「あなたにお礼を言いたくて来ました。この町で、あなたに出会えて本当に良かった」

瑠璃がそう言うと、スワンは少しだけ笑みを浮かべた。


「こちらこそ。あなたがここで見つけたものが、あなたの人生に光をもたらすことを願っています」


彼は静かに祈るような仕草をして、最後の別れを告げた。


ルアンパバーンを後にする飛行機の中、瑠璃は小さなノートにこう書いた。

「私は何かを失い、何かを得た。そして、それは月のように静かで美しい」


エピローグ


日本に戻った瑠璃は、仕事に追われる日々の中でも、時折ふと立ち止まって月を眺めるようになった。ルアンパバーンの風景と、あの日のメコン川の月を思い出しながら。


静けさの中に見つけた新しい自分――それは、瑠璃にとって新しい一歩を踏み出す力となったのだった。


終わり

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