最終話 嘘つきな私。
(Side: 明日香)
春のことを好きになって、何週間かが経った。
最近は、あんまり春としゃべれてない。だからか、一日がものすごく遅く感じる。
カタッ
隣の席との間で、何かが落ちた音がした。
(あ――、私のシャーペン)
拾おうと身をかがめた、その時。
ゴツンッ!
「「いったぁっ!」」
何かにぶつかったおでこをさすりながら、顔を上げる。
「あ、清春」
「ごっ、ごめん! シャーペン、取ろうとしてっ」
清春も、おでこをさすりながら、涙目になっている。
(清春には悪いけど、かわいい……!)
思わず、ふっと微笑んだ。
「ありがと、このシャーペン、私のなんだ」
「そうだったんだ」
清春も、あはっと笑顔を返してくれた。
(久しぶりに、清春と話せたなぁ)
やっぱり、清春といると場が和むというか温かくなるというか。
「……久しぶりに、話したよね。――ちょっと、寂しかった」
え? と清春の顔を見る。
嬉しそうに笑うその顔に、釘付けになってしまって。
「別に、私はそんな事ない、けど」
あ、寂しくないって、ウソついちゃった。
――だけど、改めて思った。
(ああ、私って、本当に清春が好きなんだなぁ)
「……清春、私――」
キーンコーン カーンコーン
「あ、チャイム」
次の授業の準備をしようと、自分の席に座る。
だけど、私はノートのはじっこをキレイに切り取って、何かを書いて清春にこっそり渡した。
”放課後、部活が終わったら教室に来て。待ってる。 明日香”
* *
……夕日が、沈みかけてる。
早く、会いたいなぁ。
ガラッ
「はあっ、はあっ……はぁ」
「大丈夫? 息上がってるけど」
肩で息をする彼に、私は微笑みかける。
「だいっ、じょう、ぶ……っ」
「そんなにあせって来なくてよかったのに」
「だって、待たせてるから――」
「ちゃんと”待ってる”って書いたでしょ?」
「まぁ、そうだけど」と彼は自分の席に座る。
「で? 何か用?」
「用っていうか、話したかっただけ。だって、清春と仲良くしてるとクラスメイトにからかわれるし……あれ、ほんとやんになっちゃう」
あははっと私が笑うと、清春は美しい物を見るように、優しく微笑んだ。
ドキンと胸が、高鳴る。
息が苦しくなって、顔に熱が帯びて、君が少し笑っただけでうれしくなってしまう。
ねぇ、知ってた?
私ってウソつきになったんだ。――きみと出会ってから。
清春とのウワサが立って嫌になるとか、好きな人とかいないとか、あれ、全部ウソ。君の気を引きたくて、君の気持ちを知りたくて……ずっとウソをついてた。
――許してよね? だって、君のことがどうしようもなく好きなんだから。
気持ちが、溢れるの。でも、君を好きだなんて言えなくて。
焦ってた。だけど、焦れば焦るほど、胸が痛くなった。この気持ちを告白するには、まだ早いって……逃げてた。
――でも。
「あのね、清春。私……」
でも、それでも伝えたい。君に。
「――好きだよ。清春のこと、ずっと好きだったの」
伝えたいことを、言ったら、声が詰まった。
視界が、ぼやけてる。緊張で涙が零れそう。
「――え?」
清春は、今まで見たことないくらい、真っ赤になってる。
「あはは、今までで一番赤くなってるよ」
私は、自分が今泣きそうなのにも関わらず、笑っちゃった。
清春は、顔を隠した。その仕草だけでも、可愛いって、好きって思っちゃう。
「……その、ぼ、僕は――」
顔を隠していたけど、意を決したような目で私の目線を絡め取った。
「――僕も、好き、です」
清春は恥ずかしくなったのか「……たぶん」と付け加える。
「……うそ」
私も、人生で一番、顔が赤くなってしまった。
それ以上に、何かがこみ上げてきて、涙が溢れた。
「……好き、清春のこと、好きだよ」
それでも、精一杯、笑ってみせた。
清春も、真っ赤な顔をしながら、笑い返してくれた。
――私が清春についたウソは、今日の夕日みたいに、溶けて無くなっていった。
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【原作】夕日に溶けた嘘 朝凪 SANA(*^^*) @sana-chan
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