第4話 気になるあの子。【side 清春】
放課後。
教室から出ていく明日香を追って、玄関へと向かう。
「……はぁ」
「――明日香っ」
僕は、またため息をついている明日香に、声をかける。
「なに?」
「衛宮先輩が従兄弟ってほんとう?」
「……は?」
明日香は不思議そうに首をかしげて、でもすぐにハッと思い当たったようで僕の質問に答える。
「うん」
僕がガーン、とショックを受けていると、また、明日香が吹き出した。
「……っふ、あははっ。清春って、ほんとうにかわいいねっ」
キョトン、としていたら、より一層笑い出した。
「え……?」
夕日が、明日香の髪を照らす。鼓動が、早くなる。
「じゃあ、バイバイ」
明日香はそう言って、帰ろうと歩き出した。
「まっ、まって!」
僕は、ぐいっと明日香の制服をつかまえる。
「そのっ……よかったら、明日いっしょにご飯食べない? ほかの男友達もいるかもだけど――」
「いいよ」
「えっ?」と目を見開く。
「一緒に食べよう」
ふっと笑ってくれたのがうれしくて、こっちも笑顔で手を振る。
「うんっ! バイバイ!」
* *
少し――というか、大分楽しみにしていた、お昼休みのチャイムが鳴る。
「――というわけで、僕の女の子の友達が来るから、よろしく」
「ずいぶん急だね」
「いーじゃん、にぎやかなのは嫌いじゃないし!」
眼鏡をくいっと持ち上げている知的そうな男子が、僕の友達、竹内 翔。そして、元気でやんちゃそうな男子が、氷室陽太。
「……ところで、単刀直入に聞くが、清春はその水無月さんのことが好きなの?」
「――はっ?」
思考が停止する。
一瞬の間をおいて、翔の言葉の意味を理解した。
「え?……これって好きってことなの?」
「疑問形って事は気にはなってるんだ~!」
「!?」
ボッと顔が赤くなる。
「あ、わかりやすい反応」
「~っ!」
カチャッ
扉を開ける音がしてふりかえると、明日香が立っていた。
「あっ、明日香!」
僕は、赤くなった顔をごまかすように明日香に手をふる。
「紹介するね。こっちが竹内 翔で、こっちが氷室 陽太」
「よろしく」
「よろしくっ」
少し明日香の笑顔がぎこちないけど、よかった。そんなに嫌そうじゃない。
「あ、えと……水無月 明日香です。よろしく――」
明日香が自己紹介したあと、翔たちがしゃべりだす。
「いやー、まさか清春が女の子連れてくると思わなかったわ」
「そうだな。清春は基本、女子にも男子にも認知度が低いイメージだったし」
「うるせい」
あはは、と翔たちと笑い合っていると。
「春ってあんなにかわいいのにモテないんだ」
ぽつり、と明日香が呟く。
「ふっ、ははっ! 聞いたか清春!」
「もう三、四回くらい言われてる」
陽太が吹き出す一方。僕はぷぅ、と頬をふくらました。
「……あれ? 今日はそこまで怒らないね」
「どういうこと?」
「いつもだったら清春、”かわいい言うな!”って怒るんだよ。コンプレックスで」
「え゙!?」
明日香は顔を青くして僕に頭を下げる。
「ご、ごめん。コンプレックスって知らなくって……!」
「いや、いいよ。なんか、明日香が言う”かわいい”は別に嫌な気分にはならないし」
明日香の顔が、かぁっと赤くなったような気がした。
(明日香って、あんな顔するんだ……)
なんだか僕も、顔が赤くなってしまった。
「そ、そう? よかった」
明日香は笑顔を浮かべながら、一旦水筒の水を飲む。
僕も赤くなっているのをごまかすかようにだし巻き卵をほおばった。
「……水無月さんて、春のことが好きなの?」
「「ごほっ!」」
僕と明日香は、そろってむせた。
「ごほっ……どういう意味?」
「恋愛として好きかってこと!」
明日香はちらっと僕の方を見て、すました顔で答えた。
「……さあ? まぁ、もしかしたら春か、それとも竹内君か、氷室君に今、恋をしているかもね?」
少しいたずらっぽく笑う明日香を見て、また顔が熱くなる。
「っ……」
翔たちを見ると、二人とも耳まで真っ赤になっていた。
「…………こういうのなんていうんだっけ。 ――赤面?」
「「「うるさい!」」」
あはは、と楽しそうに明日香が笑う。
すると、陽太が不思議そうに明日香に質問した。
「……水無月さんって、女の子にしてはめずらしいタイプだよね」
「よく言われる。自分ではよくわかんないけど」
「普通、男の子がからかうとこでしょ」
「別にいいじゃない」
明日香はニッコリと微笑んだ。
「……すごいなぁ」
僕はそんな明日香を見て、思わずぽつりと呟いた。
「なにが?」
明日香は不思議そうに僕を見る。
「あ、いや、初対面なのによくそんなにしゃべれるなぁって。僕だったら緊張しちゃうのに」
「清春、女の子みたいなこと言ってるな」
「本当は女の子なんじゃないのか?」
僕は「ちがう!」と反論しながら顔を真っ赤にする。
するとまた、明日香が笑った。
「あ、じゃあご飯食べ終わったから教室戻るね。今日はさそってくれてありがとう」
そして、時計を見た明日香が、よいしょっと立ち上がる。
「あっ、ま、待って!」
思わず、明日香の手を握った。
(……あ!)
自分のしたことが恥ずかしくなってしまったけれど、体より口のほうが先に動いた。
「よ、よかったらもっと話さない?」
「っ……」
ぎこちなかったかもだけど、僕は明日香に向かって笑みを浮かべた。
「――うん」
明日香も、僕にニッコリと、優しく微笑んでくれた。
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