試験を受けた青年

仁志隆生

試験を受けた青年

 むかしむかしある国のある街に、一人の青年がいた。

 青年は昼間は大きな屋敷の下働きをし、夜は寝る間も惜しんで勉強に励んでいた。


 この国では試験に受かれば誰でも城勤めの役人になれる。

 ただその試験は難しいもので、毎年数百人は受験するが合格する者は年に一人か二人で、全くいない年もあった。

 

 青年は特別頭がいいわけではないが、それでもと励んでいたのは役人になれば手柄次第で出世して、上手くいけば大臣にもなれるからだった。

 そこまで行かなくても偉くなれば自分だけでなく、たくさんの人の暮らしも楽にできるようになれると青年は思っていた。

 彼は他の使用人たちにも好かれ、屋敷の主人も彼を気に入っており、時々は食べ物を差し入れていた。



 そうしているうちに、いよいよ明日が試験の日となった。

 青年は早く帰って明日に備えなさいと主人に言われ、何度も礼を言った後、家路に着いた。


 その途中。

 道に何かが落ちているのを見て拾ってみると、何かが書かれた木版だった。

 そして、その内容は。


「え、これって明日の試験問題?」

 手に取った青年はそれを見て驚いた。

 こんなものが落ちているなんてと。

 とにかく急いで届けようと、駆け足で城へ向かった。


 夕暮れ時、青年は城門の前に着いた。

 そして門番に訳を話し、木版を渡してすぐに去ろうとしたが、

「ちょっと待て、上に報告するから一緒に来てくれ」

 そう言われたので門番の後に着いて行った。


 着いた場所には大臣がいた。

「ふむ、これはたしかに今年の試験問題だな。担当の役人が家で印刷しようとして落としたのか、あるいは……ところでお主、問題を見たのか?」

 報告を聞いた大臣が顎に手をやりながら言い、青年に問う。


「……はい、少しですが見てしまいました」

 青年は正直に答えた。

「うむ、そうか。それとお主の知り合いに明日の試験を受ける者はおるか?」

「私がそうでした。ですが辞退します」

「ん? なぜだ?」

「問題を見た以上、それで受けては不正となります」

「ああ、それは気にせずとも良い。見たのは一部だけであろう? それは拾ってくれた褒美とでも思ってくれればいい」

 大臣がそう言うが、

「いいえ、ありがたく思いますがやはり正当に試験を受けてでないと、その先のお役に立てません」

「ふむ、そうか。ところで見た限りの答えは分かるか? 答えてみてくれ」

「え、はい。まずは……」

 青年はスラスラと解答を話していった。


「どれも正解ではないか。しかも少しと言いながら、殆どの問題を覚えていたのか」

 解答が書かれた紙を見た大臣がしかめっ面になって言う。

「は、はい。すみません」

 青年が平身低頭すると、

「いや謝る事はない。それより残りの問題も解いてみてくれないか?」

「は、はい」

 青年は木版を受け取り、問題を次々と解いていった。


「……なんと、全問正解とは。そのような者は今までいなかったぞ」

 大臣がまたしかめっ面になり、周りにいた兵士達が驚きどよめいた。


「そ、そうでしたか。あ、あの、もうよろしいでしょうか?」

 青年がおそるおそる言うと、

「うむ。試験は合格だ」

「え?」


「この試験問題を全て解ける程となると、相当の努力を重ねたのであろう。それだけでなくその真っ直ぐな心。そのような者こそ城に来てほしいからな」

 大臣は笑みを浮かべて言った。


「え、え? いいのですか?」

「いいとも。だが合格発表までは内緒だぞ」

「は、はい!」

「ふふ。正式に城に来る日を待っているぞ」


 その後、役人となった青年は更に努力を重ね、またその人柄で誰にも妬まれる事なく出世していき、遂には王にも気に入られ、先の大臣の後を継いで若くして大臣となった。

 

 そして、彼の政策のおかげで国民が皆楽に暮らせるようになったそうだ。



- 終 -

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試験を受けた青年 仁志隆生 @ryuseienbu

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