第2話 抜け道を探せ

 遮蔽物……つまり廃屋を利用しながら隠れて進み、500メートル先にいる魔導ゴーレムを叩き、その先にある教会へ到達できれば試験は合格なのだ。


 私は土の盾を左右に広げた。これで向こうから私たちの姿は見えなくなった。右か左か、どっちから進もうか……と思ったところで後ろに何かの気配を感じた。わたしが振り向くと同時に姫の体は動いていた。


 カキン!


 何かが振り下ろした剣を姫が鉈のような短刀で防いでいた。


「ティナ、魔法だ」

「わかった」


 背後から襲ってきたのは多分魔導ゴーレムなんだけど、骸骨みたいな細身だった。


「業火の息吹」


 私の息が炎になって骸骨みたいな魔導ゴーレムへと吹きかかる。そいつはあっけなく炎の柱になって燃え尽きてしまった。多分、試験会場に何体もいる雑魚ゴーレムだ。


「こいつ、弱いね」

「ああ」


 私の言葉に頷いた姫は空を見上げた、そして私の手を掴んで脇道へと走る。


「こっちだ」


 何かと思ったら、ずんぐり型の魔導ゴーレムが曲射で魔法の矢を放っていたのだ。その矢は骸骨みたいなゴーレムの燃えカスにザクザクと刺さっていく。


「危機一髪?」

「だな。すぐに動くぞ」

「うん」


 私は持参していた地図を開いて村の地形を確認する。


 大体平坦で北側に教会があり、その裏手は墓地になっている。教会前から続く大通りは村の外まで続き、その両脇に役場やお店が並ぶ。中央通りを横切る脇道は三本で、中央通りと平行に走っている細い道が二本。簡単に言うと単純な亀甲状その周囲に民家が十数軒並んでいる。中央通りの近くに川はなく、井戸が枯れてしまったため廃村になったらしい。


 中央通りの交差点は三つ。教会に一番近い交差点にあの魔導ゴーレムが陣取っている。私たちがいたのが一番遠い交差点だ。この二カ所は距離が500メートルくらいある。


「どうする? このまま脇道を進むの?」


 地図を睨んでいる姫がぼそりと呟く。


「どの道を通っても必ずあのゴーレムと出会う。避けるには村を迂回して墓地側から教会に入らなければいけない」

「そうだね」

「大通りと平行に走っている小道にも雑魚ゴーレムは配置されているだろう」

「うん」

「雑魚を避けてあのゴーレムに接近する必要がある。ティナも私も接近戦が得意だからな」

「うん、そうだね」

「つまり、家の中を通るしかない」

「え? 家の中は通れないでしょ」

「多分通れる。基本的に廃屋なんだ」

「そうだけど……」

「ここ数年はこの村で試験が行われている。毎回な」

「と言う事は?」

「以前の受験者が通った道があるはずだ」

「本当に?」

「ほらそこ」


 姫の指さす方向に、穴があった。多分、お店の倉庫だと思うんだけど、その壁にしっかり穴が開いていた。


「さあ行くぞ」

「うん」


 四つん這いになった姫が壁の穴を通って中へ入る。私も姫に続いて中へと入った。うす暗い倉庫の中は綺麗に片付けられており何もない。ただ埃っぽくて、分厚い蜘蛛の巣が張っているだけだった。


「次はこっちだ」

「うん」


 今度は住宅の裏庭だ。枯れた池の中に入ってと枯れた樹木をくぐって庭を抜ける。次は建物の間の狭い通路だった。小柄な姫はすんなり抜けられたけど、ぽっちゃり系の私は胸とお尻がつっかえてなかなか抜けられない。


「大丈夫か? ゆっくりでいいから」

「うん……」


 思いっきり息を吐いてから姫に引っ張ってもらって、やっとその狭い通路を抜けることができた。


「ありがとう」

「もう少しだ。頑張れ」

「うん」


 姫の考えた家の中や庭を通る作戦は良いアイディアだった。ただし、体の小さな人向け。もう、制服のブレザーは胸の部分が擦れまくって毛羽立っていたのだ。


 その後も家の中、倉庫の中、中庭などを壁の穴を潜りながら通り抜けた。


「あそこだ」

「いるね。本当に戦闘マシーンって感じのゴツイのが」


 分厚い金属製のボディだ。そもそも剣や槍は通らないだろう。右腕にはボウガンが仕込まれており、そこから光る魔法の矢を放っていたのだろう。左腕からは光る魔法の剣が伸びていた。


 メチャ強そう……。

 

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魔法使いの私が何ゆえ勇者選抜試験に挑むのか? 暗黒星雲 @darknebula

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