サンタクロースの苦悩
やざき わかば
サンタクロースの苦悩
クリスマスと言えば、全世界の子供たちが待ち焦がれている日である。その日は一年に一回、サンタクロースがプレゼントを持って来てくれるという最高の日なのだ。
しかし最近は昔と違い、非常に世知辛い世の中となり、サンタクロースもやりにくくなっている。毎年毎年違う問題が湧いて出てきて、頭を悩ませる。
さて、今年もクリスマスが近付いてきた。
「今年もそろそろ、暮れてきやがるねぇ。来年もまた、無病息災といきたいもんだ。おや、誰かが来たようだ。扉を叩いてやがる。おおい、鍵なんてかかってねぇから、入んなよ」
「へいへい、ごめんなすって。トナカイさん、いっぺぇやってんのかい。これはまた良いところに来た。お邪魔してね、あたしもおこぼれに預かりますよ」
「なんだい、サンタの旦那じゃねぇか。どうしたんだいこんな時間に。おいおい、がっつくなよ。とりあえず湯呑み用意してやっから」
「へぇ、ありがとさん。うん、いい酒だねこれは。おつまみはお新香かい。いやこれは美味い」
「そいつぁいいんだけどよ、何しに来たんだい旦那は」
ひとしきり飲み食いしたあと、サンタは改まってトナカイに打ち明ける。
「いやね、今年のクリスマスのことなんだけどね。どうにもまいった。どうやってガキどもにプレゼントを配ろうかってね」
「曲がりなりにもサンタともあろうもんが、『ガキ』なんて言っちゃいけねぇや。そこは丁寧な言葉遣いをしようぜ」
「へいへい。まぁその、お子さんどもへのプレゼントの配り方に、悩んでるわけだ」
「まだ言葉遣いがおかしいが、まぁいいや。なんだい配り方って。今まで通りでいいじゃねぇか」
「いやそれが、いろいろだめなんだよ」
トナカイは首をかしげる。
「わかんねぇな。一体何がだめなんでぇ」
「昔は煙突がありゃ、そこを通って家屋に侵入徘徊して、お子さんどもの部屋を探し回り、見つけりゃそこに踊り込んでブツを置いてたわけだ」
「旦那の言語回路はどこかぶっ壊れてるな。いやいいけどよ。まぁそうさな。煙突から入ってプレゼントを配るって設定だったな」
「その煙突がないんだよ今は。あったとしても、やれ煤が落ちるだ、危険だともうクレームの嵐。大炎上ときたもんだ」
「クレームというか、正論だけどな」
サンタが湯呑みをぐいとやる。
「煙突が使えないとなりゃ、どうする。窓を割って入るなんて、泥棒だろ?」
「器物損壊も入らぁな」
「いろいろ考えたよ、我々サンタは。親御さんと交渉して、プレゼントを設置してもらうのも昔からやってるが、たちの悪い輩にあたったら、ゆすられるんだよ。『お前のことを喋ってほしくなければ、俺たち大人の分のプレゼントも持って来い』って」
「喋られてもいいんじゃあねえのか別に」
「守秘義務ってもんがあるだろ」
「使い方が違う」
サンタがお新香をポリポリやる。
「だいたいよ。あたしたちゃもともと、毛皮の服を着てたんだよ? だけどもその格好で行ったら不審者扱いされる。赤い服で行かないと、もう誰も認識してくれないときたもんだ。なぁ、わかるかお前に。この悲しみが」
「うるっせぇな。こっちだって、なんで俺らみたいな偶蹄目が、旦那みたいな聖人を乗せて空飛ばなきゃなんねぇんだ。赤い鼻で道先を照らす? バカ言ってんじゃねぇ」
「お? 言うじゃねぇかこの野郎。てめぇ、未だにNORAD(北米航空宇宙防衛司令部)に補足されないのは、誰のおかげだと思ってんだ」
「少なくとも、お前のおかげじゃねぇだろうが。俺らトナカイの決死の覚悟の賜物でぇ」
「その割には、撮影されてたじゃねえか」
「あれはお前の操縦が悪いんだろうが」
「やるかこの」
「やらいでか」
ぽこぽこ殴り合って数分。双方とも疲れ果て、やっと落ち着いた。
「で? 結局、子供たちへのプレゼントはどうなったんでぇ」
「ああ。玄関前に置いとくことにした」
「置き配じゃねぇか。ダメだそれは。子供たちの夢を、ぶちこわしちまう」
またもや悩むふたり。とりあえず、当日までに良い解決策を考えておくとして、この日は解散と相成った。
さて、本番当日。
「よぉ旦那。なにかうまい手は、考えてきたのかい」
「考えてきたよ。やっぱり、あたしは天才だ。まぁ見てなって」
サンタクロースは、不思議な器具を懐から取り出し、扉の前にしゃがんで、かちゃかちゃやりだした。
トナカイはいやな予感がしたが、黙って見守っている。程なくして鍵が開いたようだ。
「どうだい。鮮やかなもんだろう」
「ピッキングじゃねぇか」
「建物を傷付けずに中に入るには、もうこれしかないだろう」
確かにそうだ。とにかく、プレゼントを配ってさっさとずらかることにした。
「大丈夫さトナカイ。見つかってもどうってことはないよ。せいぜい、サンタクロースからサンタオープンに名前が変わるだけだ」
サンタクロースの苦悩 やざき わかば @wakaba_fight
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