試験を見守る仕事(カクヨムコン10短編)

麻木香豆

「試験監督のバイトなんて、ほんと楽勝だろ」


 大学生の俺は、今日も試験会場で教室を見回しながらニヤニヤしていた。

 受験生たちは必死に問題用紙とにらめっこしているけど、俺はただ立っているだけ。

 なんのスキルも使わず、ただ存在しているだけで金がもらえる。

 この仕事、最高だなぁと思う。

 必死に机に向かってる奴らなんて、見てて笑えてくる。

 


 その日もとある高校で資格試験の監督だった。教室を適当に回って、答案を回収したらもう終わり。何の問題もない。




 帰ってスマホをいじりながら、

「こんな楽なバイトしてる俺って、やっぱ天才かもな」

 他のアルバイトしてる友人は汗水垂らしてヒーヒー言ってるらしいし。


 するとバイト先から電話がかかってきた。

「次の仕事の連絡かな」

 と思って出た。


「申し訳ありませんが、本日をもって解雇とさせていただきます」


 と冷たい声が響いた。


 えっ? 解雇? 遅刻や無断欠席はしたことがなかった。ちゃんと言われた通りのことをしたまでだ。

 俺は一瞬、理解できなかった。理由を尋ねると、担当者は淡々と説明した。


「試験ごとに受験者にアンケートを取っておりまして、中にはもちろん試験とは関係ないですから答えない方もいましたが……あなたの態度や行動に対する評価が規定を下回りました」


「アンケート? そんなこと聞いてなかったけど」

 思わず口をついて出た言葉に、相手は冷静に答える。


「そのようなシステムとなっております」


 なんだ、それ。知らない間に、俺も試験を受けていたということか。


 受験生たちをバカにしていた俺が、実はその受験生に試験され、評価されていた。どう評価されていたのか、俺の何が悪かったのか。そこまでは教えてくれなかった。


 痛いところを突かれたような気分で、顔が熱くなる。

 正直言って、納得できなかったけど、それが現実だ。


 電話を切った後、どうしようもない空虚感に襲われて、天井を見上げながら心の中で呟いた。


「まさか、こんな簡単なバイトで、こんな目に遭うとはな」


 自分の態度を改めようとも、どこかで「簡単なバイト」って思っている自分がいることに、気づいていなかった……この頃は。

 それを思い出すと俺は恥ずかしいと思った。


 終

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試験を見守る仕事(カクヨムコン10短編) 麻木香豆 @hacchi3dayo

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