「どうしたの、大丈夫だよ。私また戻ってくるから」
- ★★★ Excellent!!!
作者の蜜柑桜さんがヨーロッパに留学され、そこでさまざまな知識と教養を身につけてこられたことは、そのエッセイや物語からうかがい知ることができます。
しかし、その留学の裏では、これまで語ってこられなかった「名状しがたい」できごとが進行していたのです。
家族の体の変調は、それまで隠していたもの、隠れていたもの、本人たちも気づきもしなかったものを、容赦なく表に引き出してしまいます。
それによって揺れる家族、それぞれの気もち。
ヨーロッパに留学するというだけでもたいへんなのに、それに伴って、また並行して起こったさまざまなできごと…。
蜜柑桜さんの作品には、文章にも物語運びにも、ある種の端正さと気品が備わり、さらに、目立たないけれどしっかりした、厳格な倫理観が感じられます。
このエッセイを拝読して、その原点をうかがい知ることができた思いです。
また、ひとはなぜフィクションを書くか、という問いへの一つの回答でもあると思います。