それでも生きる、貴女の姿が美しい。

 これは作者様の実体験に基づくエッセイで、最愛のお父様をご病気で亡くされたという身につまされるようなお話です。もちろん愛する人との死別を扱うお話ですので、正直言って重いお話です。

 長いこと生きていると、避けられないのが誰かとの死別。こればかりはどう足掻いても仕方がなく、これだけ発達した現代医療でも未だに無くすことはできていません。
 誰しもがそうとわかってはいるのですが、しかし、一体どれくらいの人がそれを覚悟して日々生きているのでしょう。

 いつか最愛の人とも別れる時がくる。でもその「いつか」はいつ来るのか誰にもわからない。別れが近いと気がついた時はもう、その終わりが見えてしまっている時なのです。
 その時に「ああしておけば、こうしておけば」と後悔するのはある意味で仕方のないことなのでしょう。我々はそうして後悔して、別れてしまうその人を深く記憶に刻み込もうとするのかも知れません。

 死別は悲しいことです。だけど、残された人はそれでも生きていかなければなりません。亡くなった方を憶えていられるのは、残された人だけだからです。
 だから私は「後悔」してもいいと思うのです。その後悔は亡くなった方への想いそのものであり、悲しくて苦しいけれど、その分その人が大切だった証です。

 私も数々の悲しい別れを経験して後悔しましたが、後悔もそう言う意味では悪いことばかりではないのかな、とこのエッセイを通して思うことができました。
 そしてやっぱりこの先も、別れた人のことをときどき思い出して、生きていこうと前向きに思うことができました。

 確かに重いエッセイですが、読後は前向きになれる素晴らしいお話です。

 このエッセイを読んだ人が、大切だった人をより大切に思えますように。

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