国外追放された息子

和泉歌夜(いづみかや)

本編

「この一族の恥さらしがっ!!」


 マーサ王が息子のアーサーの頬を殴っていた。彼は抵抗する様子もなく地面に倒れてしまった。


 騒然とする教会内。殴られたアーサーは地面に倒れまま動かなかった。


 ここは大司教である私が場を鎮めなければ。神聖なる場所に暴力行為などあってたまるか。


「皆さん、お静かに願います」


 私の言葉が効いたのだろう、周りに参列していた有数の貴族や鑑定を受けた青年達が一斉に私を見ていた。


 マーサ王は黙っていたものの蓄えた口髭が震えているのが分かった。目付きも肉食動物の如く鋭くさせ、今にも我が子に被りつきそうな勢いだった。


「確かにアーサー様はこの水晶では何も映っていません。ですが、早合点する必要はないのです」

「だが、今までこんな事はなかった! 我が王国始まって以来の事件だ!」


 マーサ王は興奮した様子で私を睨んでいた。相手が自分より位が上だから敬意を払っているが、怒っているせいでそれもぞんざいに見えた。


「決めたぞ! アーサー、お前を追放する!」


 私は空いた口が塞がらなかった。水晶に何も映し出されていないだけで、こんな重罪を課せられるなんて、青年の気持ちを考えた事はあるのか。


「王様、どうか気を静めて」

「大司教様は黙っててください。私は……私は、もう我慢できないのです! 今まで何かしらのスキルを授けてくださった女神様に見捨てられたこの息子が我が王族の血筋を引いていると思うと胸が張り裂けてしまうっ!!」


 マーサ王は怒鳴り散らしながら兵士を呼んで、倒れている彼を運んだ。


「王国の外へ放り出せっ!! 二度と面を見せるな、馬鹿息子がっ!!」


 彼は罵倒するように兵士達に命じていた。アーサーは一切抵抗する様子は見られなかったが、少しだけ私と目があった。


 父上を止められない私を妬んでいるかのような眼差しを向けるかと思えば、むしろ嬉しそうに笑っていたのだ。


 私は気でも狂ったかのように無邪気な笑顔を見せる彼に底知れぬ恐怖を刻み込まれていった。




 アーサーを追放してから、奇妙な事が起きた。まず、作物が育たなくなってしまったのだ。人々は厄災だと騒いでいたが、国はお前らの育て方が悪いと突き返してしまった。


 不毛だけならまだしも今度は老婆と少女以外の若い女性が消えてしまった。奴隷商人の大群が押し寄せてきたのだと叫んだが、馬のひずめの跡も残っていなかったので、自分達の意志で徒歩で向かったのだろと推測された。でも、どこに?


 さらに王族が相次いで不審死し、貴族も不治の病にかかってバタバタと倒れてしまった。


 これにはさすがのマーサ王も何かおかしいと思い、この厄災の原因を探るように兵士達に命令した。すると、それを阻むように兵士達の無残な死体が発見された。


 この事件はもちろん私の耳に届いていた。そして、長年恐れてきた事が徐々に現実になろうとしていた。


 犯人は間違いなく追放されたアーサーだ。異変が起きたのは彼が国を去った直後だし、それにあれから隈なく調べてみると、大昔の鑑定スキルの儀式に何も出なかった者がいたという。


 その人物は後の魔王となっていた。恐らく――いや、きっと彼もそうなるだろう。



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国外追放された息子 和泉歌夜(いづみかや) @mayonakanouta

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