第3話 やりたい放題

「とにかく私は疲れているから、私の部屋で休ませて」

「いいでしょう」


 ジョーンズはあっさりうなづいた。

 彼が襟元の小型マイクで二人を部屋に案内するよう語りかけた。

 すると、すぐに黒色のスーツを着たガタイの大きな男が現れた。


「二人を部屋へ」

「畏まりました」


 この程度の男であればぶんなぐって逃げることもできるだろうが、逃げ道がわからない。

 案内された個室は本庄と隣同士の部屋だった。


「何か御用がございましたらテーブルのそのスイッチを押してください」


 まるで五つ星ホテルのスイートルームのように豪華な部屋のサイドテーブル近くまで行き、男は手元の電灯のスイッチに手のひらを向けた。

 そうしてジェームズが退室すると、急に心もとなくなってくる。

 これは現実なんだろうか、本当に。

 明日学校に行って友達に話したら、超ウケるとか言われそうな展開だ。


 真奈美は試しにスイッチを押してみた。


「はい。ご用の向きをお伺い致します」

 

 応答したのは若い女の声だった。


「小腹がすいたんで、サンドイッチなんか持ってきて欲しいんだけど」

「お飲み物はいかがいたしましょう」

「アイスコーヒーで」

「畏まりました」


 スイッチから離れると、真奈美はキングサイズのベッドにダイブした。 

 頭が混乱していて眉間に深い皺が寄る。

 何かを計測しているとするならば、小型の計測器を身体のどこかに埋め込まれたに違いない。

 真奈美は顔を横向けた。


 すべてを現実として受け入れるなら、あの超絶美少年本庄飛鳥の彼女になれということだ。けれどもそれは高すぎるハードルだ。

 私も髪は栗色で自然にウェーブがかかっていて、小顔で目鼻立ちもはっきりしている。くるくると表情を変える小リスのようだと評される、たぶん美少女の範疇はんちゅうだ。

 その私が隣に立てるとは思えないほど本庄飛鳥は美しい。


「失礼致します」


 ふいにドアがノックされ、反射的に「はい」と言っていた。

 ドアは引き開けられ、無表情の若い女がトレイにサンドイッチとアイスコーヒーを乗せて入ってきた。


「ありがとう」


 真奈美は声をかけたが、女は何の反応も示さない。

 サンドイッチとアイスコーヒーを応接セットのだ円のテーブルに粛々と並べると踵を返して出て行った。


 なるほど。

 こっちはやりたい放題かもしれないが、それをとがめる人間はいないというわけだ。

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初対面の少年と愛し合わなければ解放されない宇宙船に拉致された美少女JK 手塚エマ @ravissante

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