第2話 ペアリング

 私とペアになるという少年はTシャツにジーンズという、ありふれた服装で私を見た。

 瓜実顔うりざねがおの小さな顔で、すっと高い鼻梁に怖いぐらい鋭い切れ長の双眸、赤みがかった唇をした美少年。こちらが驚くほどに美しい。


「これから三週間の間に君と彼が心底偽りなく愛し合わなければ、君たちは生きてここを出ることはないだろう」

「ちょっと待て」


 私は手のひらを男に向けて制止した。

 この素晴らしく綺麗な少年と三週間で恋に落ちろなどというミッションなんてバカバカしくて相手にできない。


「ともかく君達は生きてここを出たければ、三週間の間に心通わせるミッションをクリアすることだ」


 男は私と彼に個別を部屋を与えることと、東京をそっくり模した街に出ることだけが許されていることを付け加えた。

 

「ただし、街の人間やペットや野鳥などの生命体はこちらで用意した。君達が外出するのも疑似東京だ。例えば買い物をしても金を支払う必要もない。つまり、この船の中には疑似東京が存在し、生活をする人々はいるが、君たちは一切の行動を無視される。欲しいものがあれば金を払わず持って帰って構わない。交流できるのは君達二人と私だけだ」

「おい」


 私は声を一段低くした。


「その三週間後に私はタイトル防衛戦が待ってるんだけど」

「トレーニングがしたければ、街へ出てボクシングジムへ行けばいい」

「ほんとマジで意味わかんないんだけど」


 こうなったら男が言う『疑似東京』に出てみるしかないだろう。


「彼は本庄飛鳥君だ。君も自己紹介をするといい」


 飛鳥という彼は一言も声を発せずに、ただ私と男のやり取りを凝視しているだけだった。


「それよりあんたの名前は?」

「私はジョーンズだ」

「なんだ。普通じゃん。もっとすっとんきょうな名前かと思ったのに」

「そっちの名前は?」


 少年が初めて声をかけてきた。二人の間にはジョーンズが立っている。


「私は矢田真奈美」

「何歳?」

「高二」

「俺もだ。俺も高二」

「こんなこと信じられる? 宇宙船だの疑似東京だの」


 私は声を大にした。けれども本庄という少年は閉じた唇を横に引くようにして冷笑した。

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