第3話:回想② ゴブリン砦への潜入
作戦としては単純だ。弓兵がいるので砦の外から直接攻めるのは得策ではない。それに、捕虜がいれば人質にされる可能性がある。なので、裏口から忍び込んで地下牢を確認し、捕虜がいれば救出していったん脱出。いなければ上位モンスターを見つけ出して叩く。
ゴブリンが根城としている砦はおよそ50年前、魔王の出現時に防衛のために建てられたものだった。魔王討伐後は使用されておらず、碌な修繕もされなかったようだ。石造りの壁はところどころ崩れて内側が見えており、三階建ての屋上部分の床は落ちている部分もあった。
砦の裏側には森が迫っており、俺たちは草むらに潜んでその時を待った。
朝日が昇って、裏口の見張りの交代が行われた。やってきたゴブリンはぼろぼろの槍を持っており、起きたばかりなのか眠い目を擦っている。見張りはなぜか一匹だけ。警戒の緊張が緩んでいる今がチャンスだ。
「アメ、頼む」
ひそひそ声で俺はアメリアに言う。アメリアはうなずくと、杖を両手で握り、
唱え終わると、俺たちの周りに半透明の障壁が形成された。防御力はないが認識阻害の効果を持ち、気づかれるまでは見つかることなく移動できる。
「行こう」
5人全員で固まって砦の裏口へ向かう。水の枯れた堀の上に腐りかけた橋が渡してあり、踏み外さないように注意して渡る。見張りのゴブリンは扉横の木箱に腰かけて、明後日の方向を向いていた。
俺は短剣を抜くと、後ろからゴブリンに迫った。そして、左手で口を塞ぎ、一瞬で喉元を掻き切った。
「グギ……ッ」
首元から派手に血を噴出させ、がぼがぼと何度か呻きにならない呻きを上げた後、見張りは息絶えた。立ち込める鉄の匂いにはもう慣れっこになっていた。この世界に転生してきて最初のうちは、魔物を殺すたびに気分が悪くなったものだが。
これからは時間との勝負だ。裏口から砦内に入りちょっと進むとそこは広間で、ゴブリンたちが10匹ほど朝食にありついていた。そのあたりの森で採集した果物や人里から盗んできた干し肉だが、このまま放っておけばあれが人肉に変わるだろう。
ここでは行動は起こさずに、ゴブリンたちにぶつからないようにしながら広間を通り抜ける。地下への階段はすぐに見つかった。降りたところは地下牢になっていて、空気はひんやりとしていたが、特に血やその他の饐えた匂いはしなかった。
「見張りはないし、人が囚われてるってこともなさそうだな」
「エマ、火を放つ準備をお願いします」
ヒューが言うと、アメリアが真顔でそう言った。
「なんでアメはそんなに放火したがるのよ……」
「まあまあ、作戦通りに行こう。いったん広間に上がって……」
「うわっ!」
ユウキが甲高い悲鳴をあげた。続いて、耳障りな金属音がカランカランと反響する。壁に立てかけてあった槍や弓にけつまずいたようだ。
「何やってるのよ!」
「ご、ごめん」
エマが小声で叫ぶ。ユウキはもごもごと謝罪を口にするがもう遅い。上でゴブリンたちが騒ぐ声が聞こえた。ばたばたと足音がいくつも聞こえる。こちらへやってくるようだ。
「仕方ない。迎撃しよう! 俺とヒューは階段の横で不意打ちの準備、ユウキは補助魔法、アメは物理障壁。エマは火球の準備をしておいて!」
俺はすぐに気を取り直して声をかける。他のメンバーはうなずいて、すぐに武器や杖を構えて臨戦態勢に入った。
やがて、武装したゴブリンたちが下りてきた。戦闘開始だ。
追放有理 ~実力不足の補助術師をパーティーから追放したらざまぁされた~ 水雨 @mizua_merk
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