第2話:回想① ゴブリン討伐の作戦会議

 ユウキを解雇するに至った経緯について話そう。

 話は数日前にさかのぼる。

 俺たちのパーティー「夕飯の支度サパーズレディ」は、冒険者ギルドを介して討伐依頼を受けていた。

 討伐対象は、今はもう使われなくなった古い砦を根城にして、徐々に勢力を拡大しつつあるゴブリンの集団だ。依頼元は砦から人間の足で半日くらいのところにある村。家畜が襲われる被害が出た。いつ人的被害が出るかわからない状況なので、至急ゴブリンを一掃してほしいとのこと。

 この依頼について、ギルドが見積もった難易度のランクは「C」。中程度の難易度だが、砦にいるゴブリンの数が正確には見積もれず、また統率性の高さからゴブリンロードやゴブリンエリートなど上位の魔物が存在する可能性もあるという話だった。ギルド職員のロージーさん曰く、難易度は「B寄りのC」らしい。要は、初心者パーティー向きではなく、中堅どころでも上位層のパーティーが請け負える難易度ということだ。つまり、俺たちのパーティーのような。


 砦近くに到着して、丸一日は偵察に費やした。まずはゴブリンの大体の数と防衛体制、リーダー格の存在の有無を見極める必要があったからだ。

 偵察を終えたその日の夜、ゴブリン砦から充分に距離をとった野営地にて。

 修道女であるアメリアの張った魔物を寄せ付けない結界で安全を確保した上で焚火を起こし、夕食がてら俺たちは今後の動きについて話し合った。


「見張りや食料調達に出てるゴブリンの数と、砦の規模から言って、多くても50匹くらいかな」

「あぁ。装備は基本的に短剣や槍だが、弓兵も何匹かいる。砦の高いところから狙われると厄介だな」


 リーダーの俺が口火を切ると、槍使いのヒューが頷きながら補足した。


「正面突破は避けたほうがいいね。気づかれないよう背後から近づく方法を考えよう。上位の魔物はいそうかな?」

「確実にいる。手下のゴブリンたちに武装させて、砦の見張りを組織しているやつがね。でも、組織化のレベルはそんなに高くないわ。近隣の村の報告からも、隊を編成してまとまって襲撃するほどの知恵はないみたいだし。ゴブリンロードがいたらもっと急速に勢力を拡大するでしょうから、ゴブリンエリートだと思う」


 魔術師であり魔物の生態に詳しいエマが推測を述べる。これまで彼女の推測が的外れだったことはないから、きっと今回も当たりなのだろう。

 主にヒュー、エマと話しながら作戦を立てる。襲撃のタイミングは朝早く、見張りが交代するタイミングを見計らってと決まった。


「ユウキ、アメ。何か気づいたこと、気になることはあるかな?」


 俺は黙っていた二人に問いかける。


「……誰かが囚われている可能性はあるでしょうか」


 修道女のアメリアはぼーっと星空を見上げていたが、すぐに視線を下ろして疑問を口にする。話を聞いていないようにみえて、ちゃんと筋はつかんでいるのが彼女の特徴だ。


「いると思って行動したほうがいいわ。集団化したゴブリンの討伐の鉄則ね」


 エマがアメリアに答える。

 ゴブリンの持つ最も悪名高い習性。それは人間の女性を攫ってきて、その種族を超えた特異な繁殖力を活かして子を産ませるというものだ。ゴブリンは成長が早く、生まれてからだいたい一か月ほどで戦闘に参加できるほどの力をつける。だから、放っておくと際限なく勢力が拡大する。


「そうですか……使わなくなった砦ならば、火を放ったり、建物を破壊してしまうのも手だと思ったのですが」


 アメリアは少し残念そうな様子。聖職者のわりに発想が一番物騒なのも彼女の特徴である。


「相変わらずだな……ああいう砦には地下があるし、いるとしたらそこに囚われてると思うぜ」


 ヒューが半ば呆れ顔で言うと、アメリアはこくんとうなずき、また黙り込んで星空を見上げた。


「ユウキは何かあるか?」

「い、いや、僕は……特に何も」


 俺が再度話を振ると、補助術師で転生者のユウキもいつも通りの自信がなさそうな表情で答えた。視線はおどおどとして定まらない。なければないでいいのだが、こういう風に何かを訊かれること自体を苦手にしていそうなのが彼の特徴だ。


「よし、作戦は決まったし、明日は朝早い。もう寝よう」

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