3 ダーティ流のケアマネジメントだよ
◆◆◆
ダーティ:「結局のところ、お偉い先生や研修の講師様が〝ケアマネの使命(笑)〟なんかを暑苦しく語ったところで、我々は介護保険法に紐付けられた専門職でしかありません。そして、良くも悪くも法律というのは一つの規範であり、やはりよく考えて作られています。この介護保険法の第一条にはケアマネ業務……というより、介護保険サービスの基本がすべて詰め込まれていますよ」
ウサマネ:「えぇ〜? すべてですか? それは流石に言い過ぎでしょ?」
ダーティ:「いえいえ。少なくとも利用者や家族だけではなく、ウサマネさんのような〝なんちゃってケアマネ〟に説明するには必要十分な内容となっていますから(笑)」
ウサマネ:「(あ~コイツぶっ殺してー)」
ダーティ:「はは。ケアマネというより、善良な市民にあるまじき邪念を感じますので、とっとと話を進めましょうか」
ウサマネ:「エエ、ヨロシクオネガイシマス(殺)」
ダーティ:「この介護保険法第一条には、大まかに二つの目的があるのですが、ウサマネさんは分かりますか?」
ウサマネ:「えぇと……★マークの付いた箇所ですよね? 尊厳を保持しウンタラカンタラで自立した日常生活を~ってやつと、最後に書かれている国民の福祉の増進ナンタラ?」
ダーティ:「その通りです。個人に対する支援(小目的)と、社会に対する決意表明(大目的)みたいな感じでしょうか。もちろん、我々ケアマネは目の前にいる利用者を支援するので、個人に対する支援(小目的)が主戦場と言っても過言ではないでしょう」
ウサマネ:「そりゃそうですよね。ケアプラン(★※1)に『国民の福祉の増進を図る』なんて壮大な文言を入れたことないです」
ダーティ:「大真面目にそんなプラン出されると、利用者や家族もさぞかし困惑するでしょうね(笑)」
ウサマネ:「(笑)」
ダーティ:「とにかくですね。介護保険法の目的がこうなっている以上、この法律を根拠とする我々も、当然に法が定める目的に沿った支援をするべきだろうと私は考えるわけですよ。正直なところ、私個人としては『ケアマネジメント』という言葉が示す学術的な意義や意味、定義などは知りませんし、特段に興味もありません。一般市民である利用者や家族に聞かれた際に、ケアマネとして〝いかにもっともらしく説明できるか?〟という点に絞って考えているだけです」
ウサマネ:「お、ようやく本題って感じですね」
◆◆◆
★※用語について
★※1
正式名称は「
ケアマネ界隈でも認識が違ったりしますが、この居宅サービス計画書というのは様式が七つあります。
第1表:
第2表:
第3表:
第4表:
第5表:
第6表:
第7表:
この内、第1~3表のことを主に「ケアプラン」と認識している人たちが多い気がします。サービス担当者会議までに作成する「ケアプラン原案」というのは、この第1~3表というイメージ。
ケアマネにとっては、この第1~3表というのは、サービスや支援についてを利用者へ説明し、その同意を得たという証明の書類と言えます。説明書と同意書を兼ねたようなものですね。
第4表と第5表はケアマネの事務作業資料という傾向があり、利用者や家族に普段から開示することは少ないです。もちろん、開示しろと言われれば開示しますけど? 的な感じ。
サービス担当者会議の会議録的なものが第4表であり、日頃の利用者の状況・状態などを記載するのが第5表となります。
第6表と第7表はワンセット。利用者の月々のサービス予定と利用料金の予測説明書という感じです。
モニタリングと称してケアマネが利用者宅を訪れ『サインか印鑑下さい』とお願いするやつ。スタンプラリーの台紙(笑)
◆◆◆
■ 介護保険分野のケアマネジメントってなーに? ■
・
・
・
ダーティ:「はい。これだけです。これが私が考える〝ケアマネのケアマネジメント〟です。簡単でしょ(笑)」
ウサマネ:「あれだけグダグダ長話してたのにシンプル(笑)」
ダーティ:「利用者や家族に説明するには、このくらいシンプルなのが良いんですよ。根拠にしたって〝介護保険法の第一条にこのように記載されています〟と示せますから。また、このように法律を絡めて話をすると、利用者や家族から『あ、このケアマネさんって法律や制度のことをちゃんと知っている人なんだ!』と、良い意味で勘違いしてくれますからね」
ウサマネ:「ダーティさん、ちょっと悪い顔になってますよ?」
ダーティ:「いえいえ。これも〝ラポールの形成(★※2)〟というやつですよ(笑) 実際問題、支援の現場においては、いかに利用者や家族に専門職者として認めてもらうかが勝負所です」
ウサマネ:「あーそれはなんとなく分かります。〝なに〟を伝えるかじゃなくて、〝誰〟が伝えるか……ってことですよね?」
ダーティ:「ええ。同じ内容の提案や情報提供、説明などであっても、説明者によって相手の受け取り方が変わるのも多々ありますから」
ウサマネ:「……まともに介護保険法を見たこともないケアマネに、偉そうに〝介護保険とは!〟みたいな話をされても、そりゃ説得力ないでしょうね……はは……(自虐)」
ダーティ:「そういう風に素直に吐き出せるのも一つの資質ですよ(笑)」
ウサマネ:「そう言われてもあんまり嬉しくないですけどね……ところでダーティさん。介護保険法の目的に沿うのがケアマネのケアマネジメントだというなら、障害福祉サービスのケアマネジメントも同じような考え方なんですか?」
ダーティ:「はい。私はそう考えています。説明の際にもきちんと利用者・家族には伝えますよ。〝これは介護保険制度上での説明であり、あくまで私個人の解釈です〟とね」
■ 障害福祉分野でのケアマネジメントってな~に? ■
・
・
・
ウサマネ:「ん? 結局、介護保険分野と同じような感じですけど?」
ダーティ:「ええ。もちろん重なる部分も多いです。ですが、介護保険分野と障害福祉分野では、決定的に異なる部分があります。ウサマネさんは気付きませんか?」
ウサマネ:「決定的に異なる部分と言われても……言い回しが少し違うくらいじゃ?」
◆◆◆
★※2
出たよ。カタカナの専門用語(笑) この〝ラポール〟なる言葉は、そもそもはフランス語で「架け橋」という意味だそうです。
福祉界隈では、支援者側 (ケアマネなど)と被支援者側(利用者・家族など)の間に良好な関係性が成立していること。自身と相手との間に橋を架けるように良好な人間関係を築き、信頼関係が保てていること。
なんて風に言われるみたいです。知らんけど。
ダーティさん的には、
『支援者側が
という意味で解釈しています。
◆◆◆
ダーティ:「ウサマネさん。言い回しが違うのは確かにその通りですが、言い回しだけでは済まない決定的な違いというのは……ずばり〝社会生活〟という文言の有無です。介護保険法は〝日常生活〟で、障害者総合支援法は〝日常生活及び社会生活〟となっています」
ウサマネ:「あ。ホントだ。確かに障害者総合支援法は〝社会生活〟って入ってますね」
ダーティ:「そもそも、法律の正式名称が『障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律』ですからね」
ウサマネ:「タイトルに入ってるわけですか。それで……その〝社会生活〟の有無で、具体的になにがどう違うんですか?」
ダーティ:「具体的な違いを細かく言い出すとキリがないので省きますが……大まかに言えば、対象者の年齢層や状態像が全然違います。それにより、人生における節目の数が、介護保険分野とは異なります。障害福祉分野の方が幅が広いとでも言いましょうか……」
ウサマネ:「介護保険分野は基本的に高齢者を対象としているわですから、対象者の年齢層や状態像が違うっていうのはなんとなく分かりますけど……人生における節目の数っていうのは?」
ダーティ:「保険会社のキャッチコピーみたいなあれですよ。〝ライフステージの変化〟というやつです。要するに介護保険分野は『死にかけのジジイ・ババアなんか、日常生活だけカバーしとけばいいだろ?』という感じなんでしょう(偏見)」
ウサマネ:「そんな身も蓋もないことを……。ええと、じゃあ障害福祉分野というか障害者総合支援法は、そのライフステージの変化を見据えているってことですか?」
ダーティ:「ええそうです。考えてみれば当たり前のことなんですよ。介護保険サービスを利用する可能性があるのは若くても40歳からですが、障害福祉サービスについては、先天性の障害などであれば0歳児から支援を必要とする可能性があります。また、事故や病気によっての後天的な障害であれば、10歳の小学生も、17歳の高校生も、32歳の社会人だって支援が必要となる可能性があります」
ウサマネ:「あぁなるほど。そりゃ年齢や性別に関係なく、障害者になる可能性というのは誰にでもありますもんね」
ダーティ:「障害福祉分野においては、乳幼児の養育や義務教育といった環境面への支援もあれば、第二次性徴などのような肉体的な成長過程による変化への対応、学校を卒業後の就労の支援、恋愛や結婚という可能性もありますし、出産に育児、転職、親との死別などなど。〝社会的な繋がりや役割・立場の変化〟という意味での人生の節目は、今ざっと考えただけでもこれだけ出てきます」
ウサマネ:「障害者というか……障害児には〝成長〟という過程が含まれますもんね」
ダーティ:「その通りです。一方の介護保険制度といえば、条件次第では40歳から含まれますが……主たる被保険者は65歳以上となっています。65歳以上の方が肉体的に著しく成長する……たとえば身長が10センチ以上伸びるだとか、初潮や精通を迎えたりだとか……もしかしたらないわけじゃないのかも知れませんが、とても一般的とは言えないでしょう。また、孫やひ孫の養育の手伝い程度ならまだしも、65歳以上の方が当事者として出産や育児をゼロから始めるのも一般的ではないでしょうし、高校や大学は別としても、65歳以上の方が義務教育を受ける機会も同じく一般的とは言えないでしょう。就職や転職などは……まぁそこそこにあり得るかも知れませんけど」
ウサマネ:「そりゃそうですよね。65歳以上の方が肉体的な成長を伴いつつ、ライフステージが目まぐるしく変化するかと言われれば……微妙かもです。そう言われると、介護保険制度が『高齢者については日常生活だけカバーするよ!』という仕組みになってもおかしくはない……のかな?」
ダーティ:「その辺りは末端のケアマネごときが考えても無駄ですよ(笑) 現に制度が運用されて二十年以上が経過していますし、よほどのことがない限り、今さら根幹の部分を変えるのは難しいのでしょう。ま、そんなわけでですね。介護保険分野で使用する『ケアマネジメント』という言葉と、障害福祉分野での『ケアマネジメント』が同じ意味であるはずがない。同じ意味で使って良いはずがない。……というのが私個人の見解なんですよ」
ウサマネ:「はぇぇ~……ダーティさんって、なんだかんだと言いながらも、ちゃんと色々考えてるんですねぇ……」
ダーティ:「人のことをなんだと思ってるんですか? さっき言ったでしょう? 私は利用者や家族に〝いかにもっともらしく説明できるか〟という点で考えていると」
ウサマネ:「はは……行き着くところはソコなんですね」
◆◆◆
次の更新予定
それいけ! ウサマネジャー! なるのるな @natumouhimari
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。それいけ! ウサマネジャー!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます