第十七話 EP8 裏ボス、ダンジョン破り

「で? まとめると魔物はあなたのいない間に村を焼いて、帰ってきたら襲ってきたから殺したと?」

「ああ」

「……あなたはそれについてどう思いますか?」

「仕方ないことだ。拾えなかった。それだけの話だ」

「そうですか。まあいいでしょう」


 俺は言い訳を述べ、受付嬢をかわすことに成功した。

 さすがに時間がないから全員殺したのはまずいからな。


「あなたは今日からAランクです……そして」

「おお! そして?」

「奥へどうぞ」


 あれ? なんか中華屋の裏カジノみたいな流れなんだけど。

 俺が連れてこられたのは、立派な扉の前。

 俺の予想だけどここは……


「よう。史上最速記録、二位のAランク冒険者」


 ギルドマスター。

 これはテンプレかッ。ギルドマスターにご贔屓にされて目立つやつ!


「そしてようこそ。ギルドの闇へ」


 なんか中二病なんだけど。


 *


 冒険者ギルド。冒険者を管理する組織。ゲームでは、主人公の強さのランクをわかりやすく示すだけのもの。

 しかしこの「現実」では、それだけじゃない。

 冒険者の得た利益を使い、上層部が私腹を肥やすために作られた組織。冒険心を金に換える便利なツール。

 そして、犠牲者のもとに成り立つ組織。


「それを俺に話して何をする気だ?」


 その言葉を聞き、ギルドマスターは笑みを深める。


「重要なことだとわかってくれて何よりだ」


 なんか変な勘違いしてない? 俺はそんなことを言った理由が聞きたいんだけど。

 ……勘違い系? テンプレかッ! おっといけないこういう考えをすると遠ざかってしまう。

 バラ色人生ルートがッ!


「まさかこれで笑みがこぼれるとはな。学生ながら怖いやつだぜぇ」


「まあ。今日から学生じゃないけどな」

「は?」


 どういうことでっか?


「お前は今日から始末屋……Xランク冒険者だ。……ちなみに拒否権はない」


 だろうな。……だって企業秘密っぽいし。


「Xランクになったからには目立たないで生きてもらうことが絶対だ」


 ほう? それは興味深い。


「返事はどうなんだ?」

「だが断る」

「そうか。……え?」


 いやだって、目立たないのはいやだし。本末転倒じゃん?


「俺は目立つ。そのために冒険者になった。そこだけは譲らない」

「しかし……生かしては返さんぞ?」

「だったら潰す。勝手に聞かせておいて、なにが「生かしては返さん」だ? 片腹痛い」


 威圧を込めて吐き捨てる。俺は俺が生きる意味を奪われたりはしない。


「くッ。すさまじいな」

「で? 帰ってもいいか? 因みに、口止め料は高くつくぞ?」


 ギルドマスターは、少し考えてから言い放つ。


「目立たないのが嫌なら、逆に目立てばいいだろう。影が消えるほど光ればいい」

「それならば考えてやらなくはない」

「そうだな。……騎士になれ」

「は?(2回目)」


 騎士になれ? 俺は国に仕える気は毛頭ないが?


「騎士になれば、他の冒険者から追及されなくなる。守秘義務があるから聞けなくなるんだ」

「国に仕えたくはないんだが?」

「お前なぁ」


 ギルドマスターは、やれやれという感じに首を振る。


「別にすぐやめるだけでもいい。あと専家騎士なら国に仕える訳でもないだろう? まあ、伯爵以上の騎士だな」


 なら……まあ。適当に仕える人を探すか。……そのための学院だな。


「わかった。それでいこう」


 *


 ベットに顔面をめり込ませて息を溜めて吐く。

 疲れた。もう寝たい。


「明日か」


 遂にこの終わらない夏休みにケリをつける。


「……だめだ。寝よう」


 ああ。ここ最近。何かが足りんなぁ。

 血の騒ぐような戦いか? それともうまい料理か?

 それとも人か? 

 ……自分が……人殺しが……それを望めるのだろうか?

 関係ないな。まったく。


 *



「さてケリをつけるとしよう」


 ここは青夏の洞窟。例のボスがいる場所だ。

 ちなみに門番は、冒険者身分証を出したら通してくれたよ。

 不正を疑われたけどね。まあ俺の話術でどうにかしたよ。

 本当に退屈だな。確かに洞窟は綺麗だが、イリスと見たあの洞窟の方が綺麗だ。


「しっかし……敵が全く出ないな」


 このダンジョン、終盤の方のダンジョンだから無駄に広い。そして敵は出ない。

 まさかボス居なかったり?


「な……訳ないよな!」


 広く、天井の高い部屋に、一匹だけの魔物。

 うずくまった姿勢でぽつんと座っている。


「誰?」


 冷たい声だ。少年のような無垢な声。

 しかし冷たい。……あ、これ物理的に冷たいやつだ。

 ……誰? か。答えてやるとしよう。


「ユリアス・フォン・オルバン。お前を殺しに来た」


 裏ボスっぽい口上で、剣を構える。


「殺しに来た?」


 少年の声が震える。そして……


「ボクを虐めるなぁぁぁ」


 咆哮のように放たれた「殺意」。

 さあ、始めよう。


 *


 やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。やばい。

 ヤバすぎるってぇ! 


「危なッ!」


 なぜここまで苦戦しているのか。

 それは奴……青夏の亡呪霊ブルーロストカースの能力……裏設定のせいだ。

 それは、奴の過去。亡霊になった経緯とそれに基づく設定だけの能力。


《ロストカース→人間の殺数の総数だけステータスを下げる》


 そのせいで、俺はめっちゃ弱くなってる。

 村一つを壊滅させたせいで、めっちゃステータスが下がってるのだ。

 主人公は人殺しをしないからな。無意味な設定だったが、俺にドンピシャに刺さってる。

 氷の槍を身軽によけていく。ステータスが下がってもスキルは発動する。攻撃は当たらない。

 ただ……俺は、奴に向かって駆け出す。間合いを詰め切り捨てる! といいたいところだが。


「くっそ! 水が邪魔だ!」


 奴は浮かび、真下は水面。手も足も出ない。風刀も氷の盾を貫通することができない。威力が大幅に落ちている。

 氷の槍の勢いは増すばかり。このまま攻撃をよけ続けても意味がない。逆に体力切れで死ぬ。


『大ピンチだな』

「見てないで手伝えよ!」


 肩に乗って傍観する、クロに物を申す。


『水は嫌いなんだ』

「今はかんけーないだろ。まあ、氷の槍を少しはじいてくれるだけありがたいけどさぁ!」


 さすがに勝てない。引くか?

 いや。駄目だ。先に進まないと。このために死んだ村の人々のためにも……

 冷静に考えろ。

 切り札の数を数えろ。

 今、不確定でも切れる手は、三つ!

 あと少し。カードは隙に叩き込め……


「チッ! 量が多すぎる……」


 氷の槍は、激流のように地面と水面を穿つ。


「!」


 ……閃いた!


「来いよガキッ。殺してやるぜ」

「僕をイジメルぁぁぁ」


 氷の槍は、勢いを増す。

 これを弾く! ……駄目だ……剣が負ける。

 ボキッ。

 嫌な音を立てて剣が折れた。やけくそになり投げ返すが、槍の激流に阻まれる。

 クソッ。詰んだ。


『ほう? 剣が折れたか』

「うるさいな。そのせいで必死なんだが」

『心は折れてないな?』

「当たり前だ。今お前が手を貸さなかったら、生命と共に折れるけど」

『ならば、我の頭を撫でろ、そして剣をイメージしろ』


 言われた通り剣を意識し、頭に手を置く。


『今、ここに五なる夜闇は、剣となり、真理へ還る』

「!」


 漆黒の剣。肩にあった動物は、剣へと変わった。

 しかし、生命の力強さは失ってはいない。夜空のような輝きを纏う剣。


《五なる夜闇の真剣・狼》


 立ち止まる。今なら……氷の槍の激流、跳ね返す。時がゆっくりになり、剣は氷の槍を両断した。

 行ける。俺は地面を踏みしめ、前進!

 すぐにでも陸地を離れ、水面に足を踏み入れる。ハズだった。

 俺が踏みしめたのは、氷。

 俺が跳ね返した氷が水面を凍らせ、足場を作った。

 これが奴の隙! その冷たさが仇となった。

 俺は遠慮なくそれを突く!


「近寄るなぁぁぁ」


 氷の槍の激流は、激しくこちらを穿とうと向かってくる。

 しかし、この剣は力強く俺の技に応える。


「スターレール・ピアスッ!」


 斬撃を持つ刺突。俺の剣技だからこそできる、荒業。

 敵の激流を打ち砕き、氷の盾を割る。しかし……


「耐えるか。なら……!」


 攻撃を受け、真っ逆さまに落ちる敵。しかし氷の足場を水面に作り、着地をせんとしている。


「これを待ってたんだ」


 俺は彼の体に触る。触れた!


「トリック!」


 触れたものの位置を、何かと入れ替える。

 自分と敵の位置を入れ替えた俺が、先に着地した。


「そして投げる」


 今できる思いっきり。敵は天に放り出される。

 奴は浮遊する魔法を唱える。しかし……

 奴は天上に頭をぶつけた。いくら開けているとは言え洞窟だ。天井は低い。

 虚を突かれた奴は、勢いよく落ちる。

 決めるぜ。必殺!

 剣を奴に向かって投擲。奴の脳天に浅く突き刺さる。


「人力。逆パイルバンカーだッ!」


 思い切り跳躍、柄を殴る。

 重力に従い深く突き刺さった。奴の脳天から剣を抜き、


「スターレール!」


 連撃を食らわせる。奴は吹き飛んでいった。


「俺の勝利だ……ッ!」


 氷の槍!? 多すぎるだろ。受けきれ……

 洞窟は氷の槍で覆いつくされた。


「自爆かよぉぉぉ」


 激流に飲み込まれ、生命を絶った……


「……生きてる……」


 そこまでダメージは無かったな。めっちゃ痛いけど。

 逃げられたな。


 さて、どうしようか。


「ユリアス?」


 聞き覚えのある声だ。

 金髪の青年。王子殿下だ。

 つまり……


「主人公一行……か」


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