目立ちたい裏ボスは今日も今日とて目立たない~転生陰キャは変わりたい~

☨闇域☨ 悪魔のケチャップ

一章学園編 一幕 裏ボスは転生しても影が薄い

第一話 EP0.5 裏ボスの死んだ日

目立ちたい、有名になりたい。それは誰もが思うことだと俺は思う。


有名になってちやほやされて、


金も稼いで女どもにキャーキャー言われながらバラ色人生ロードを謳歌する。


なんて夢のあることだろう。


「自分もこんな人生を歩む」と、子供の頃は思っていた。


いや、「いた」ではなく「いま」もそう思っている。


でも実際は……


俺「空影からかげ 星気せいき」は、


そんなバラ色人生ロードとは180度・・・いや540度無縁な人生である「影が薄すぎて存在すら認識されにくい」という道を謳歌している。


いや謳歌はしていない。望んではいない。断じて。


まだまだガキの頃、小学生と中学生の頃はまだ良かったよ。


いくら影が薄いともいえどクラスでは30人程度。


全学級に知れ渡るのは無理でも同じクラスの人間には認識されてた・・・はず。


友達もいる。……彼女はいない。


しかし問題の16歳。


頭はいいのでそこそこ大きい高校に入った。


クラスの人数は70人台。俺を知る友も少なくなった。


そしてこの高校は、人生バラ色ルートを現在進行形で歩む先輩方の巣窟。


無論540度……いや900度無縁な人生を送る俺は数少ない陰キャになるわけで……。


新しい友達も彼女も出来ず、かといって話しかける勇気も……認識されないという土台すらもなっていない状況で、俺のバラ色人生ルートは頓挫しようとしている。


「俺は悪いことをしたのかな?」そう思いながら憂鬱な学校から逃げ腰で……


いや、ちょびっと逃げ腰で帰路に付いている。


俺みたいな陰キャ(とは自分では認めていないが周囲をみたらそっち側かもしれないとちょーと思っている)は帰ってもやることがない。勉強して飯食って寝るだけ。


だと思っているだろう! 違うんだなこれが。(と一人で何考えてんだコイツと思う。)


そう、ゲーム! RPGだ!


俺がはまってるのは「ボイドログ」というゲームで様々な謎があり奥深い物語が特徴だ。


現代風(よりも一世代前くらい?)の町並みに貴族の学園、はたまたフィールドに出ると古風な景色が広がる。


異様な雰囲気だが妙にマッチしている。


メインストーリーの他に特定の条件を満たすと現れる裏ボスもおり、まだまだ未知が多い。


マニアックで攻略者が少ないだけかもしれないが。まあ俺はこのゲームが好きで何時間もプレイし古参勢とも言える域に達しているのだ。


まあこんなマニアックゲーをやってる時点で陰キャ路線を突っ走っていってるかもしれないがそんなことは考えない。


それこそバラ色人生ルートへの道だ。たぶん。先輩方はなんも考えてないと思う。


そんなことを考えながら角を曲がる。


すると角から飛び出してきた何かにぶつかってしまった。


……これは漫画によくある運命の出会いではなかろうか! 


そう期待して顔をあげるがその何かを見たとたんに顔を下げる。


ぶつかった何かは木刀みたいな所謂リーゼントヘアーをしているいかにも田舎の不良的なやつだった。




「ああん。なんだテメー。どこにガンつけとんじゃワレ」




最悪だ。ああもう最悪だぁ。ゲームが遠のいていくのを嘆きながら答える。




「すみません。前をよく見ていませんでした」




・・・。この服装。近くの低偏差値で有名な高校の制服だ。その高校はお金がないのに伊達に制服があることで有名で周囲に迷惑をかけることを分かりやすくしているんだろうと言われてる。嫌味だけど。




「へっ。・・・。その服装あの高校の制服かぁ?」




どうやら相手もこちらの身なりを見ていたようだ。・・・まあこの先の展開は読めているよ・・・。




「頭いい高校ってことは学費も相当。へへへ。あんちゃん。お願いがあってなぁ。なあに簡単だ。ちょと




ばかし俺様は金欠でよぉ。だからちょーとちょーと金貸してくんね?」




ほーらきた。欲望丸出し。逆にすがすがしいね。しっかし頭の悪いこと悪いこと。ちょーとばかしやらちょーとやら、それで人を騙せるとでも?さすが人生不良ルートを歩む方々だ。




「すみません。お金、もってないんですよ。」




こちらは下手にでる。




「ああ。俺様達から金を値切ろうってかぁ?」




ああだめだ。やる気だ、取り巻きに指示を出してる。ていうかいつから俺は金を出すことが確定したんだ?




「すみません。お引き取りください。」




少し高圧的に出る。これでどうだ?ただでは行かないと思うだろぉっぉ。




「ごちゃごちゃうるせえ」




取り巻きのテレフォンパンチ。俺の顔にクリーンヒットした。……普通に痛い……てかめっちゃ痛い。




「俺たちに逆らうからこうなるんだよッ」




テレフォンキックともいうべきキックがみぞおちに決まる。俺はたまらず嗚咽しうずくまる。ああ痛い。身体を鍛えておくべきだった。今年最大の後悔だ。




「へへへ。まあここでやるのも野暮だ。裏いくぞ」




裏路地に連れ込む気か。やばいな。……かくなる上は……。




「さあさっさとついてこい。……ってうお。逃げんなぁ」




逃げる。今を生きる事が大事だ。しっかしなぜこんな羽目に……。


なんでこんなにツイてないんだろうな。


もっと俺に運があれば、こんなことにはならなかった。


いやもっと運があれば友達もたくさんできて、彼女も出来てるはずだ。


バラ色人生ルートだって歩めたはずだ。




「なんで……こう……なるんだよ……」




全力疾走してたどり着いたのは公園だ。陽キャどもがうじゃうじゃ湧く公園には行きたくなかったが……。


まあ、いまはとても疲れている。素直に休もう。


そういって俺は座れるベンチを探してゆっくり歩く。


……どのベンチもカップルどもがいちゃいちゃしながら座っている。俺の席は無いんか。




「あれ?空影君。どうしたの?」




そういって話しかけて来たのは同じクラスで昔からの友達である。渡辺さん。「渡辺 蒼」である。とても美人でクラスの優等生的な存在だ。




「ああ。いま走って疲れたからベンチを探してるんだ」


「そう。なら、隣座る?」




いいのか?まあ本人がそう言ってるし座るか。




「じゃあ。お言葉に甘えて」


「うんうん。甘えて甘えて」




ベンチに「ドサッ」と腰掛ける。風が心地よい。さっきまですさんでいた心が戻るようだ。




「空影君って、影が薄いよね」




なんだ急に。傷つくな。




「それがどうした。俺はこれからバラ色人生ルートを歩む男だぞ?」


「いや。そんなこといってるとそんな人生おとずれないよ?実際彼女いないでしょ?」


「うぐ。そうだが・・・」


「へぇ。そうなんだ。空影君て、イケメンなのに彼女いないんだ」


「うるさい」


「でもよかった」


「?。嫌味か。お前もモテないから?」


「私はモテてます。はあ。もう行こ。」




わからん奴だが、さっさと家に帰りたいのも事実。行くか。


そういってくだらないことをいいながら生きていく。これが俺の人生かもな。


公園を渡辺さんと話しながら出ていく。


もちろん不良対策は考えてます。


渡辺さんは少し前をこちらを向きながら歩いてついてきてくれている。


交差点に差し掛かり、渡辺さんは先に横断歩道を歩いていく。俺も続いて歩いていく……




「おらおらおら。ひき殺すぞお」


「先輩乗り出さないでって、うわあ。ちょっと止まらないぃぃぃ」




さっきの不良が乗り出してしまい暴走するバイク。


どうやらバイクで追いついて絶望を与えるそんな作戦で逃がしたらしい。


そんなんありかよ。滅茶苦茶だな。


まあ、避けられ……


進行方向にいる渡辺さんを見た。動けないらしい。


まずい、このままじゃ。目の前で彼女が轢かれてしまう。


そう考えると身体が動いた。


脳が考えるより先に。


今できる最大のジャンプ。


渡辺さんをつき飛ばし、そして。




ゴリッ。




あり得ない速度の鉄の塊が俺の横腹にあたり鈍い音を立てる。


そのまま後方につき飛ばされ転がる。


痛いとは感じない。


脳から放出されたアドレナリンのおかげで痛みを感じないようだ。


でも……少なくとも……


俺の命が砂時計の砂のように零れ落ちるのを感じる。


死の気配が近づく。


ガンガン鳴り響く心臓の音が損なわれだんだんと世界に音と色が無くなって行くのを感じる。


痛みが片方の脳を焼き、思考がおぼつかなくなる。


これが死ぬってことか。


はは。案外、簡単にくるもんだ……な。


バラ色人生ルートとは程遠い人生だった。何も為せなかった。




「空影君……空影君………空………影……く……ん……………星気……………く」




はは。まあ、守れたからいいか。


こんなときなんていうのか……。


まあ、




「願うならば来世でな」




最後までかっこつけてやるぜ。

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