第五話 EP4 裏ボス実習に本気

入学式から月日は流れ、早いこと三か月。

春の空気はすっかり夏を孕み、暑い夏が始まった。

前世の俺はこんな日(うようよリア充どもが跋扈する日)には引きこもりを実行していたが、今世は違う! 夏だから出来ることは全部やろうと思う。

あくまでも出来る事だが、俺はこの世界の最初の夏を謳歌するぞ。


「どうしたのですわ。そんな気持ち悪い笑みを浮かべて。お前、とうとう精神までおかしくなりあがったのですわ」


おっと顔に出てたようだ。……イリスも相変わらずのようで何よりだ。


「ていうか。あの夜はユリアだったのに、いつのまにかお前呼びだし……」

「名前が長いから。ですわ」

「同じ三文字だよ!?」


でも、このようなくだらない会話を三か月も続けてきたのだと思うと何か感慨深い物が……。


「あるとは思いませんですわ」

「思考読むのやめてくれ」


3か月も続けたせいで、思考読まれ始めたよ……。まったく。


「そういえば。もう少しで実習ウィークですわね」

「なんじゃそりゃ」


食後の氷菓子を食べながら聞く。

因みに付け合わせのドリンクは、俺はコフィ―というまんま発音いいコーヒーでイリスは紅茶と共に味わってる。


「知らないとは思ってましたが本当に知らなかったですわ。こいつ。はあ。実習ウィークとは、調理実習、迷宮実習、舞踏自習という三つの実習のことですわ。夏休み前の生徒の絆を深めるいい機会といわれているらしいですわ」


そーなのかー。って実習! これは目立つチャンス(二回目)! 

毎度「主人公補正」という邪魔が入ってきて三か月、まったく目立たなかったが(逆に周囲に疎まれてる)、これは一転攻勢のチャンス。

頑張るしかないようだ。


「なんか前もこんなことありました。ですわ。でも実習には成績ポイント10000以上のチームじゃないと参加出来ませんのよ。友達がいないお前が参加できるとでも?」


「成績ポイント」。ゲームにはなかったポイントで成績を表すもの。俺はよく分かっていないが進路が決まるみたいなもんだろう。そしてしれっとディスるのやめろ。


「俺は6000持ってるし、イリスもそれくらい持ってるだろうから一緒にやれば問題ないだろ?」


不思議と俺は先生からの評価は高いんだよな。

「……たしかに私はそれくらい持ってますが、3900点ですわ」


ou・・ギリギリ足りない。


「あとKP加算値もあるからもっと低いですわ」

「そういやKPってなんだ」


鑑定にも出てるけど……・。


「KPとは鑑定装置からわかる信頼を表した数値で、信用が大きいならKPは多く小さい、信じてない、嫌っているならマイナス。これは学校が所持している鑑定装置からわかりますわ。その合計がグループ合計値に加算されるですわ」


ほう。……! 


「って、もっと低いってお前は俺のこと嫌ってるってことですかぁ?」

「さあ。どうでしょう。ですわ」


なんか怖くなってきた。それでも参加しない訳はない。


「まあ一応……申請してみるか。イリス付き合ってくれ」

「は? なぜ私が? 」

「あ〜そうか……。友達と出るんだな?」


ゲームでは、イリスにも取り巻きが何名かいるしそいつらと出るんだろう。


「友達は……いませんですわ」

「取り巻きは? 」

「いま……・せんですわ」

「なぜ? 」

「それは……ある時、主人公に毒を抜かれたみたいで」


イリス曰く、貴族と気安く話す主人公に警告してあげなさいと命令して……入学イベだな。

入学イベと同じように主人公に絡みにいったが、その裏しかない笑顔(俺にとっては)に魅了され、いまではすっかり主人公の味方らしい。


「彼女らは私のことは嫌々従ってたみたいで……、今はボッチですわ」

「そうか。って俺がいるじゃん」

「あら。すっかり忘れてたですわ」


ヒドい。まあ、他の人にあんな不気味がられてたし嫌々従ってたのも無理はないか。


「なら、なおのほか申請するしかないだろ。いま受け付けてるんだろ。加算値は……まあ、俺はお前をとても信頼してるから大丈夫だろう。KP50はあるぜ」

「ユリア? ! KPって信頼じゃなくて好感度といわれ……って手を引っ張るなですわ」


そのまま俺は受付とされている部屋にイリスをひっぱっていった。

 もう少しギリギリかと思った申請、問題なくOKでした。足りたようでなにより。


「……そういや俺はKP70って聞いたから、俺のKPだけじゃ足りんよな。イリス、KPいくつだ?」

「……10……」

「それじゃあ足りんだろ」

「……30……」


怪しいな。そういえば鑑定でもKP出たような? やってみるか。


《イリス・フォン・ノワール HP30/30(30000/30000) KP95》


()が実数値だから、……HPは俺より多いんだな。はあ、俺は魔道師より紙なんだ。まあでも防御で……、分からないか。そうだKPは……ミナヵッタコト二ㇱョゥ。そんだけ信頼してくれてると思うとうれしいけどな。


「まあ。……いけるなら良しとしよう? 俺も今んとこ信頼出来てんのイリスくらいだからそれくらい信じてくれてうれしいよ」


《KP100》


あら100行った。


「そうですわね。ふ・・ふふ。そんなに嬉しいならワタクシの……取り巻き……になってもいいですわよ?」

「はいよろこんで」

「え?」

「ん? なにか? 俺はイリスの取り巻きでもなんら問題ないが? なにか?」


あれ俺ら、テンションおかしくなってきたかな? まあイリスのせいだ? そうなのか? ん。


「おう。イリスじゃねぇか。その横にいるのは……ゲッ」

「どうしたアレク? ああ。あの黒髪と臆病者か」

「こんにちは!」


げげげ。黒狼メインキャラ2人+主人公じゃないか。


「ストーカーと王子失格と下民。なんのようですわ?」


煽るのやめようか。イリスちゃん。


「くくく。王子失格とは、手厳しいね。婚約破棄のことまだ根に持ってるのかい?」

「いえ。まったく。親の話で毎回出てきてうんざりしてるだけですわ。「黒髪ってだけで婚約破棄とは……。王子失格だ」って父上がうるさくてしょうがないことしょうがないこと」


へえ王子……もといアリウス王子殿下が元婚約者なんだ。

なんかドロドロしてきたな。元婚約者とその彼女。

自分の事を狙う王子の友と、影の薄い(イケメン?)の取り巻き(仮)。

イリスも大変ですな。


「君のお父上には魔族の件でお世話になっているよ。それで、そちらの彼は?」

「ユリア……ユリアス・フォン・オルバンですわ」


俺はひざまずく。


「ほう。あの義賊の家の……。楽にしていいよ。で? 君の心はそいつに盗まれたのかい?」

「御冗談を。オルバンといっても今はただの子爵ですわ。まあそこのストーカーから盗まれないようにしてくださって感謝はしていますが。泥棒の知恵ですかね? ですわ」


オルバン家は、300年前の第四王子と義賊の妻が起こした家だ。

王城の富を貧民街に分け与えようと忍び込み、裏庭に忍び込んだ。

どこからか忍び込んだ死にかけの捨て猫を見捨てられず餌をやっていたところ第四王子に見つかってしまう。

しかし動物が大好きな王子は、動物にも愛を与える女義賊に心を奪われ、貧民区に富や食料をもって行き、逃げた義賊が守りたいものを守る手助けをしたらしい。


数年後、貧民外の治安が荒れ、怪しい連中に捕まった王子は女義賊に助け出された。そこで思いを伝え、無事結ばれ、オルバン家が起きた。

彼らは貧民街の支援を行い、治安改善に大きく貢献したために子爵位が与えられた。そして今に至る訳だ。ロマンチックな家ですねぇ。


俺が考えるにこの世界の王族っておかしいから出来た家だと思う。

それでも今の国が成り立つのに大きく貢献した一家だと思う。


……でも義賊が餌やりっておかしくね? 絶対違うだろ。


「ああ? さっきからストーカーストーカーうるさいな。あとセリルを下民って言うんじゃねえ」

「それは私も気になったことだ。ここは身分差はないんだよ。イリス」

「殿をつけてくださいます? それをいうならユリア……ユリアスを臆病者と言うのもどうなんでしょうね。ですわ」

「こいつは俺とセリルの手柄を奪ったんだよ」

「アレクさん落ち着いて。私は気にしてませんから」


おいおい。セリルさんよぉ。その言い方だと……。


「平民。その言い方だと、臆病者ということ自体は否定しないということでよろしいですわ? 驚きですわねここまで矛盾しているとは……言葉は選んだほうがよろしいと思います。ですわ」


さっすがイリス。俺の言いたい事を言ってくれる。


「だから平民っていうんじゃ……」

「じゃあ……愚民? わかりませんですわ」


そろそろ舵をきるか。相手が喧嘩を売り、イリスが買ってお釣りをだす。千日手だ。


「おい。アレク」

「なんだ臆病者。その口調……やんのか? 」

「やってもいいぞ。まあ……」

『もう一度潰すだけだ』


ちょっと怒りを込めて言い放つ。メンチっていうのかな? 知らんけど。

……言い返してこないな。はあ、臆病者はどちらですかね。


「次やるときは今度は手加減できないかもな。いくぞイリス」

「……! はいですわ」


《ユリアスは威圧を獲得》


おろ。なんか獲得したな。威圧……今の感じでいいのかな。

威圧ってボスらしい特技だ。

ユリアス・フォン・オルバン。

第一印象は……影が薄く覇気がない。顔はいいからモテることはモテるだろうが……。

まあしかし性格は聞くところではいまいちだ。

イリスはこんな男が臆病なイケメンがタイプなのか、まあ腫物どうしだから、仲良くなったのか……。

そう思っていた。

しかしあの時の怒気……まるでいつでも殺せると言ってるようだった。

アレクがかなわなかったのも納得させられた。

それに身分を気にしない度胸。彼は私ですら殴れるだろう。

いや殺せる。

イリスはそんなとこに引かれたのか。あの呼び方だから完全にそうだろう。


「ちっ。見くびってたみたいだ」


となりでアレクが頭を掻く。


「そうだね。彼は底知れないね。この国にあんな奴がいるなんて、驚きだ。……評価を改める必要がありそうだ」

「そうだな。奴は強い。俺以上に……」


彼はセリルに好印象をもっていなさそうだし、殺すならセリルが一番最初に殺すだろう。

いざというときは守らなければならない。


「強くならなければね」


王子達は彼らの知らぬところで、正しい推測をし、決意した。

ただ一人を除いて。

「ふぃー肩凝った。イリス〜ああいうとき無視するのがいいと思うぞ。……イリス? 」

「お前。いやユリア。私と友達になりませんか? 」

「え? いままで何だったの? 」

「取り巻きですわ」

「ソウナンダ……。まあ、俺は喜んでなるぞ」

「よろしいのです? 私は気味が悪いと……」


イリスは足を止め、うつむく。言いたいことは分かる。


「黒髪黒目のことだろ。はあ」

「なんですか! その目は……私は真剣に……」

「そんなこと気にするんならそんな友達になりたいとかいうな。言わなきゃ自然に友達だぜ。それに、俺は黒髪黒目……後ついでに闇魔法。そんなこと気にしない。イリスはイリスだ。第一それが魅力だろ」

「魅力……? 」

「そうだ。イリスは黒髪美少女だ。セリルとは天地がひっくり返っても比べ物にならない。太陽と寄生虫だ」

「太陽と寄生虫って。それに黒髪美少女! 遂に頭おかしくなりやがりましたですわ」


口調。戻ったな。


「それでいいんだ。それが俺の信頼するイリスだぜ。KP」

「だからそれは好感……。まあいいですわ。というわけで今日から友達……いや右腕ですわ」

「おい友達と右腕どっちが上なんだ? 」

「自分で考えてください? ですわ」


また騒がしくなったがそれでこそいいんだろう。


俺は心底絶望した。

黒髪なだけでこんな子がここまで気にしなくてはならないのか。

魔王どんだけのことをしたんだよ。

そういや、メインストーリーボスは魔王の後継者だが、赤髪だぞ。

だったらエンヴァの方が気味悪いだろ。不思議だな。

……KP100で友達か……。

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