第三話 EP2 裏ボス運命の出会い
朝日が窓から、まゆばい光が差し込んできた。
光のやさしさを感じ目を開ける。
どうやらもう朝のようだ。
……よし、二度寝しよう。……あれ?
今日は何の日だっけ?
確か……。
「入……学式? ……入学式!」
やべ。忘れるところだった。
このユリアルは苗字にフォンがついてるから一応貴族であり、朝は準備がある。
日本にいたころの常識で行くと、主人公入学イベのように白い目で見られる。
目立ちたいことは目立ちたいやけど、白い目で見られるのは御免だ。
……俺、おしゃれなんてしたことないな。コツがわからん。まあやれるだけやろう。この体の貴族の経験をフル動員してやる。
制服というより軍服みたいな制服を着て銀の腕輪を左手に装備。
どうやらこれは魔道具で破毒(小)の効果があるらしい。
まあボス耐性があるから毒は無効だし、その他状態異常も完備だ。
毒とかの心配は皆無だな。
盛られるかどうかは知らんけど。
つけてないと狙われるし、いらぬ心配をすることになる……あくまで抑止力らしい。いかにボス耐性といえど腹を下すだろうし。(まあ毒を飲んだことないけど)
さて準備もできたし、食堂に行くか。
ゲームでは入学式からスタートだったし入学式前に食堂にいけるとは思わなかった。
メニューから適当に頼み、周囲を見渡す。
多くの生徒が雑談を楽しんでいるようだ。
「ここ座ろうぜ」
そういって近づいてきたのは、だれだ?
ガキ大将の……だれだっけ?
まあいいや「鑑定」!
《アレク・フォン・エンヴァ LV13 150/150 KP0》
どうやら人を鑑定する場合、自分を鑑定する時とは違う表示のようだ。
レベルとHPとKP?のみしか表示されない。
KPが何なのかはわからん。
しかしここは俺の席だぞ。普通貴族同士でも挨拶はするだろう?
……おっと呼び出しの魔道具が鳴った。
「うわっ」
? ガキ大将と取り巻きが驚いて席を立った。
………まさか、いままで見えてなかったり?
そんなまさか。なあ? まあいいや。取りに行こう。
「よろしくお願いします」
「わっ!ビックリしたよ。兄ちゃん影が薄いねぇ」
ほへ?
おい、まさか本当に影が薄い……?
いやそんなこと……。まじだな。
やばいじゃん。これはやばすぎる。
まさか学校生活誰にも話しかけられず終わる可能性が浮上してきてしまいました。
動揺しながら食事を取る。
うまいであろう食事も味が分からなかった。
喉に食事が通らないとは、まさにこのことだろう。
午前九時に入学式が始まった。
しかし、その間も焦りが消えることはなかった。
さっきの事件をうけ、計画が大分頓挫したからだ。
大したことないと昨日は思ったけど、違った。
めっちゃ修羅の道じゃん。
まあ、こちらから話しかければ気づいてくれるだけまだましだ。
落ち着け。
前世だったら話しかけても気づいてもらえないことがザラにあったし。ふう。ふうぅぅぅぅ。
素数を数えて落ち着こう。
2,3,5,7,・・・,3301,3307。
よし落ち着いた。
ていうか今は入学式だ。素数をかぞえてる場合じゃない。
見つめなおせ。
今俺は何をすべきか。
そう情報収集。まあ入学式で分かることはたかが知れてる。
さっさとクラスメイトを確認し対策を立てたい。
……三時間くらい立ったのにまだ校長の話終わらん。長すぎだろ。
「……長話はここらで終わりにしましょう。生徒各自教室に行きなさい」
やっと終わったか。どの世界でも校長ってもんは話が長すぎる。
自分でも認めてるし。
さて教室に行こう。お待ちかねのクラスメイトの確認だ。
そして今回こそ目立って、人生バラ色ルートを歩んでやる。
*
この世界のメインストーリーで重要な役割を持つ、学園。
そこには五つのクラスが存在している。
緑蛇。赤鷲。黄獅子。青竜。そしてユリアスが所属する黒狼。
ゲームではクラスは別に隠しボスに違いがあるだけの要素であり、
メインストーリーに大して違いはない。
クラスメイトはメインキャラだけ話しかけていればクリアできるし。
しかしこれはゲームと似ていても現実。
クラスの付き合いをおろそかにしても大して問題ない訳ではない。
かといってバンバン何回も話しかけるのはできない(恥ずかしい訳ではないぞ。断じて)
要するに何をするにも本気でやって行かないと駄目なんだ。
俺は目立つためにも前世みたいな失敗をしない……
と、いってもなぁ。
考えてみれば前世ほとんど人と話したことがない人間が急に陽キャになることは無理なのだ。
いやでも、変わらなければ……うーむ。
「こんにちは! ん?おーい。聞いてます?」
ん?
ああ、話しかけられてるのか……。
話しかけられてるのぉ!
「あ・・・はい」
コイツはいったい……! なんと主人公さんじゃありませんか。
女型で名前は……。
《セリル LV3 80/80 KP3》
セリル。主人公の初期ネーム。
因みに男はセリスだ。
主人公の名前や性別によっても変わる隠しボスがいるので何回かは使った女型だが、余り性に合わなかった。
どちらも最終ステータスは同じ。
しかし、男は近接系のステータスが上がりやすい代わりに魔法系ステータスは近接程上がらない。
一方、女は魔法は上がりやすいが近接はとても上がりにくいという男尊女卑的な風潮がある。
しかし装備は女型のほうが優秀である。
近接主義者の俺は大いに中盤の火力不足に悩まされてしまった。
しっかし、なぜ俺に話しかけられたんだ?
影が薄い人は存在すら認識出来ないのが常識のはず(まったく嫌な常識だが)。
主人公だから気づいたのか?
もしかして影が薄いってのは与太話だった?
いや、認めるのはひじょーーうに癪だが、おそらく与太話じゃあない。
まず主人公に常識を求めるほうが終わっている。
テンプレ的にもな。
学園転生系の女主人公のテンプレは、主人公だから、人に無差別に愛してもらえると思ってると思ってる、頭の軽い奴が基本属性だ。
ちなみに俺が女主人公を使わない理由、それは見た目が気にいらないからが50%ほどある。
明らかに陽キャ。
明らかに男垂らし。ストーリー的にも。
ムチ無知を演じてる、ギャル系だ。
そういや話かけられてるんだっけ。適当に返しとくか。
「ええと。何か用ですか?」
「え?あ。いえ。ただ話しかけただけです」
「そうですか」
「ああ。えーと。お名前は?」
笑顔と共に向けられる。愛らしい声。俺じゃなきゃ落ちてるね。まあテンプレがあるから早々信用してはならないことを知っている。
「私の名前はユリアス。ユリアス・フォン・オルバン。オルバン家の次男です。セリルさんですよね」
「ああはい。そうです。セリルです。どこで私の名前を?」
「いえ。すこし。あなた有名ですから」
「そう。ですか」
有名な意味。平民、それも大店の子供ではない貧家からの異例の入学という特殊な立場を分かってるようだ。まあ俺はすこし違う意味の、有名だけどね。
「あまり。私みたいなのと話をしないほうがいいですよ。あなたが楽しく生きるには固い後ろ盾を得なきゃ。では」
あいつと仲良くなってると思われると序盤は他人から白い目で見られる。まあ、主人公が誰かと付き合う中盤あたりだと主人公は人気者になってるためその目を向けられることは少なくなるかもだが、俺みたいな影薄は中盤じゃ遅いのだ。序盤頃には目立つ友達の右腕程度にはならなきゃ駄目だ。まあ影薄がその目を向けられるかどうかと言われれば・・・(不本意だが)向けられない、視線すら来ないだろう。とにかく決着は短く付けなければな。
暇だから席に静かに座り頬杖をつく。眠い。眠すぎる。他の奴らはまだ席に着いていない。まあ、これは派閥を作る大切な時間だから、学校も大目に見て、多く時間を作ってるのだろう。じゃあ俺も派閥に入ろうかなと考えるがやめる。下手にやってもガキ大将の取り巻きみたいな役につくことになるだろう。
「お前。すこしよろしいかしら、ですわ」
また女。
さてはモテ期かな?
次は誰だ……
って、こいつは……
イリス・フォン・ノアール。
所謂、悪役令嬢だ。
《なおこのゲームは乙女ゲーでは無くフィールドアクションRPGです》。
こういう悪役枠は主人公と性別と学級が一緒であるからな。
性別女ルートではお世話になった。
こいつは一般的に嫌われるような立場の人間なのだが、俺はこいつを一番まともだと思ってる。
そりゃそうだ。
親が祖母だけの身元不明の……所謂下民が王族、それも王位継承権がある男と仲良くなり付き合うなど普通にありえない。
月と鼈、天地鳴動であり国家転覆の危機かもしれない。
なのに、すこし問題を解決し愛想よく振舞っていただけの主人公を認める周囲の貴族。
どうかしてるとプレイ中思った。
攻略するのは王子だけではなく王侯貴族もたーんといるが、それでも同じことだ。
つまりこいつ……いやイリスがこの世界で一番まともな感性と常識を持っているのである。
主人公に絡む理由は、王子やら王侯貴族やら攻略対象と言われている人達と結ばれたいと思ってるわけじゃなく、ただ主人公を見下してくるだけであるだけで身の程を弁えてるし。
案の定、シナリオ的な問題で確定断罪されるがそれはイリスを慕う取り巻きが、勝手に主人公を殺そうとした責任で断罪されるだけだし。
それにかわいい(は?と自分で思う)。黒髪の片方縦ロールもう片方はロングという、不思議な髪型は雰囲気と容姿と不思議と似合ってるし。
性格は……まあ尊大だが部下の罪を自分が責任をとる。
貴族の鏡というやつだ。
そしてもう一つ、とても重要なこと……それは。
俺と同じ”裏ボス”であるということ。
彼女が一番最初に発見された女版のみの裏ボスである。
男版裏ボスはなぜか存在しない。
まあ、それが俺、「ユリアス」だったかもしれないが知る由もない。
彼女と戦う条件は、学級全員の仲良し度マックス。
そしてダンジョンで落ちる、「宵闇の毒食」を市場に売ることだ。
毒属性ダメージを与えるアイテムだが、もう一つの「闇属性」が邪魔で毒が効く厄介な相手はほとんど闇属性に耐性を持っている。
そのためクリア後あたりは売るしか使い道がないため簡単に発見された。
考察勢によると、王の名のもとに断罪された後、邪魔なイリスを消すため、何者かの策略で主人公が流した「宵闇の毒食」を盛られる。
しかし、「宵闇の毒食」のフレーバテキストにある、
《食べたものはそれが最後の夕食になるが闇に適する者への晩餐にもなる》
に書いてある通り、闇に適合し、覚醒。しかしまともな思考が出来なくなり、主人公を国を脅かす天敵としてしか見ることができなくなり戦うことになった。
といわれている。
悲劇だよな。
こんな人生を主人公のせいで送るなんてな。
一時期、可愛いからこいつが男ルートにいたら攻略したいなんて思ってたけど、そうしないほうがいいと思う。
「なんです? その人を憐れむ様な眼は? ですわ。あとお前、少々おかしいですわよ」
おっと顔に出てたかな?
「すみません。イリスさん。・・・。おかしいとは何でしょう?」
「敬語は気持ち悪いから無しにしてもらえます? ですわ」
呼び捨てを許すとは……。
まあ校則の身分の差は学校内なら関係ない的なやつがあるから守ってるんだろう。
校長の話が長すぎるんだよ。
「では、お言葉に甘え・・・。何の用だ?それにおかしいってなんだ?」
「少々甘えすぎじゃないかですわ。敬語はいりませんけど、敬意は持ちなさい。ですわ」
む。はっちゃけ過ぎたかな。
「まあ。それは置いといて、お前おかしいんじゃないですわ」
「何が?」
否定はしない。
イリスをジロジロみてるのは事実だし、ここの常識には疎いというか身体に馴染んでないというか。
「本当に・・・。はあ。その落ち着きようですわ」
「そんな落ち着いてるか?」
素数の効果でたかな?
「入学式の時には焦りは見えましたけど、それでも落ち着きすぎですわ。入学初日は普通、もっと楽しそうに人に話しかけて行くものでしょう。ですわ」
「……本当にこの場の全員が楽しそうに話しかけているのか?」
イリス含めて。
「それは……まあ、人によりけりですわ」
「それもそうか」
「それに・・・。」
なんだ。顔を近づけて。
「あの女。あの笑顔を向けられて露骨に鼻を伸ばさない奴は今まで始めてみたですわ」
「そうか? 後、イリス……お前そんなあいつと長い付き合いじゃないだろ」
「今日見た感じの話ですわ。……お前、あの女嫌いでしょう? ですわ」
さすが。的を得ている。
「そうだな。好きか嫌いかと言われると嫌いだ」
「ふふふ。そうですか、ですわ。お前とは良いお友達になれそうですわ」
そうですか。そうですヨ。まあ良かったと思う。彼女は一番目立つ裏ボスだったから、裏ボス仲間として仲良くして損はない。脛をかじるとはこのことかもな。
「そうだな。まあこちらこそ。よろしく」
「さて、そろそろ時間ですわ。私の実力を示すため、今日のお迎え実技テストは全力で取り組む事といたしますですわ」
「お迎え実技テスト?」
「あら?お前知らなかったのですわ?教官が目で見て生徒の実力をみる。または生徒の力関係を決める重要な行事ですわよ?」
何? 初耳ですけど。
……って実技試験!テンプレだと目立つチャンスじゃあないか。
うおおおお。こりゃやるしかない。俺のステータスがうなるぜぇぇ!
「お前……まあ、やる気が出たことが何よりですわ。お互い頑張りましょう。ですわ」
「ああ!」
俺は期待しながらテストに望むのであった。
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