第十六話 EP7 裏ボス、現実を突きつける

まあ、平和なもんだ。

村に来てから数日、ゆったりとした毎日を過ごしている。さすが辺境だな。

田舎は食材がいい。新鮮で生きのいいものが取れるからな。


「あいつら。あれで気づいてないと思ってんのかな?」


木陰から強烈な視線を感じる。

村長の息子だ。アラクネと共に俺を監視してる。

いや、相場逆だろ。俺が観察するのが相場だろ。まあ、手間が省けるからいいけどね。

……かれこれ3日、流石に行動するべきだと思う。

 街に出るか。

俺は行動するべきだと思う。このままいっても時間だけが過ぎる。


「クロ。いくぞ……行かないか」


日向ぼっこしながら寝るクロはおいておこう。



「いい街だな」


 多少、歩くだけでもにぎわっていることがわかる。こういう村は閉鎖的でよそ者は嫌われているんだけど、そんなことないみたいだ。影が薄くて気づいてないだけかも知れないけどね。

 開けた場所に来た。子供の遊び場のようだ。俺は、切り株に腰掛ける。こんな自然豊かな場所、前世では全くこなかったな。やっぱ陰キャ……いやインドア派なんだな。


「兄ちゃん。何してるの?」


子供ガキが話しかけてきた。


「お前……見えるのか?」

「え?」

「いや。何でもない」

「あっち」


子供ガキが指さした所には……


「げ! あいつらまだ見ているのか」

「兄ちゃん。そんちょうのしりあいなの?」

「ああ。まあな……あいつ村長なの?」


浮かんできた素朴な疑問を向ける。


「そう呼べっていってた」


さいですか。……この少年に聞いてみようかな?


「……なあ。村長(仮)の横にいる、蜘蛛のおねいちゃんをどう思う?」

「別に?」

「は?」

「だって、あんまりはなさないし。自分のことを「危ないよ」って言うんだよ? 不思議」


そうか。子供にあんま好かれていないのか。自分から壁を作っているようだな。


「ねえねえ。兄ちゃん。なんかやってよ」

「……なんもないぞ?」

「冒険者でしょ? 冒険の話きかせてよ!」

「だからそんな大した冒険譚なんて……」

「おーい! みんな! 冒険者さんがなんかやってくれるって!」

「あーおい。ちょまてよ」


次々とガキが集まってきた。うわ〜。これ絶対なんかやらないと駄目な奴だ。

仕方ない。

インベントリにあるものを確認する。

冒険譚? 無理。

料理? うーん却下。

魔物の素材? あんま面白くないな。

こういうのは前世であったものをやると喜ぶんじゃね?

できることか……

そういえば、子供のころマジックが好きだったな。種があると知っていても、つい見ちゃうんだよな。

少し心得もあるし、やってみるか。……せっかくだし、おいしいおやつも出してやろう。


「ここに木の枝がある。もちろんただの木の枝だ。持ってみてもいいぞ。おらないでね」


子供は不思議がりながら木の枝を調べ、一通り見ると返ってきた。


「これを……投げます!」


天高く舞い上がった。木の枝は重力に逆らえず落ちてくる。俺は指を打ち鳴らすと……


「あら不思議。木の枝がお菓子に早変わり。籠いっぱい召し上がれ……あー奪い合うな。分けて食え」


やったことは簡単だ。一瞬で木の枝を粉みじんにした。魔剣術スゲーな。剣を持って集中しただけで時が止まって見えた。まあ粉みじんにして演出にした後は、インベントリから飴(自作)を出せば終わりだ。


「兄ちゃん、スゲー」

「サーカスみたい!」

「お菓子おいしい」


喜んでもらえて良かった。

この世界にサーカスってもんはあるんだな。


《マジックを会得しました。これにより職業トリックスターが解放されました。スキル スターキッドを上書きし、転職しますか?》


トリックスター! カッケーの来たな。もちろんなるぜ。スターキッドなんて意味の分からないスキルとおさらばだ。


《トリックスターに転職しました。これにより「スペア」等を会得しました》


ほう。トリックスターって剣士と盗賊とマジシャンの混合職なんだな。

初めて知った。まあ知る由もなかったんだがな。


「兄ちゃん! 他のも見せてよ!」

「はいはい」


俺は、マジックショーを続けた。



 夕暮れ。空の端は夜闇が塗りつぶされている。なんてことない。普通の夕暮れ。


「冒険者」


目の前にいる少年は、覚悟を決めた目でこちらを睨んでいる。


「怖い顔をするもんだな」

「冒険者。頼む」


頭を下げる。誇り高い態度だが、精一杯の誠意なのだろう。


「彼女を殺さないでくれ……」

「……突然だな」


まあ、何を言うかは予想できていた。

「冒険者は認めない」か「殺さないでくれ」の二つだ。


「それは俺の《感情》が決めることじゃない。俺の《本能》が決めることだ。それは彼女の考え次第だ」

「え? 私?」


そうだ。お前の考えによって、俺はお前を殺すかが決まる。


「私は殺されて当然です」

「おい? なんで?」

「でも、殺すなら私の夢も覚えといてください。みんなと一緒に過ごしたかった」


彼女は満面の笑みでそう告げた。

自然体な笑顔。


「そうか」


ならばこれ以上、言うこともないな。



『おかえり。腹が減ったぞ』

「流石に腹減るか」


 昼から置きっぱなしだもんな。飯時は腹が減るもんだ。昼、食ってないなら尚更だ。

俺はパパっと料理をする。野菜を刻み、備え付けのだし汁と共に炒め、出してやる。

簡単うま野菜炒め。簡単だがうまい。こういうのでいいんだ。

なんか前世と比べてこんなシンプル料理がうまく感じる。食材がいいのかな?


『それで? 覚悟が決まったようだが?』

「ああ。彼女の願いを叶えてやる」

『そうか』

「俺は夢を愛するんだ。手伝ってくれるな?」

『無論だ』


明日出発だな。用意はしとくか。

夜が更けるまで、俺は準備を整え休息をとった。



 火。真っ赤な火。叫び声。泣き声。阿鼻叫喚。それが俺が表せる全ての言葉だ。


「ほう。来たのか。この惨状の首謀者さん?」


向かってくる二人組。この惨状の首謀者とどうでもいい男。


「なんで? こんなことしたの?」

「この惨状を生み出した首謀者に言われたくないね」

「なんで! 私だけならよかった。なんでみんな死んじゃったの?」

「何をいう? お前が殺したんだ」

「じゃあ......! その足元は何?」


俺は彼女の方を向く。それに追従するように、ぐちょりと足元の死体が音を立てる。

血に塗れた粘ついた生々しい音は、吐き気がするほど気持ち悪かった。

俺がこの村の住民を皆殺しにした。それは一目瞭然だ。


「お前がこの町に、住みたいと願ったから俺はこうした」

「なんでなんだよ! なんで……笑顔で夢を語った彼女を見捨てられたんだよ」

「俺がそうした。そうしないとやばいと思ったからだ」

「なんでだよ! おかしいだろ。壊れている……」


なんとでも言え。俺はそう考えたからそうした。


「そういう策謀だから。知能ある魔物は危険だ。自分を守るために人の良心に漬け込む。まったく吐き気がする」

「じゃあ、なんでみんな殺ろす必要があった! 本末転倒じゃないか」

「人間に仇なす、魔物の犠牲者だ」


村の人々は魔物に殺され、全員焼け死んだ。それが全ての結末だ。


「……許さない! 下がってて」

「ほう? 人間を襲うのか」

「お前は人間じゃない!」


魔物……アラクネは高速で移動し、攻撃を仕掛けてきた。

俺は余裕でそれを躱す。しかし……


「私の毒で死ね!」


蜘蛛の糸で巻かれ、身動きが取れなくなったところに、毒牙。

さすが。アラクネは伊達じゃない。


「相手が俺じゃなきゃ勝ってたね。」


ボス耐性があるので、毒は無効です。残念。


「お願い! 死んでぇ」


決死の特攻。まあ……


「二手遅い」


彼女の体は真っ二つになって泣き別れた。

攻撃をはじく攻撃。体勢を崩す攻撃。切り捨てる攻撃。

圧倒的な負けだ。死ね。


「大丈夫か!」


……この傷で大丈夫だったら引くね。


「だ……いじょうぶ……じゃないみたい」

「なんで……」

「いまとっても軽い気分。体も軽くて、飛んじゃいそう」

「ああ……ああ!」

「ねえ。逃げよ? 仇討ちとかやめて……遠くへ」


切られたことがわからないのか、それとも逃避してるだけなのか。


「あれ? とっても眠い……そっか。寝る前に君と一緒に居れてよかった」

「眠っちゃだめだ。今眠ったら……」

「こちらも幸せに寝られると困るな」


村長の息子を蹴り飛ばし、アラクネの上肢を踏みつける。

感動の別れなんて待っていられるか。


「安心しろ。冥府の旅路は共に歩むだろう」

「お前ぇ!」

「いや、人間と魔物の行き先は、違うか」


村長の息子は、泣きながらこちらを睨みつけ、向かってきた。


「ほう? 向かってくるのか。逃げずに向かってくるのか。そのアラクネがまるで夜逃げに誘うような必死こいた態度で、逃げることを誘ったというのに!」

「死ね……」


なんとまあ、いい顔だな。


「しかしお前は勘違いしている」

「!」

「お前など眼中にない」


柄に手をかけ、振り抜く。


「終わりだ」


村長の息子は簡単に息絶えた。俺がたった一つの技を使っただけで。いとも簡単に。

……驚愕で開かれた目。その目と目が合った。下を向くと血だまりに顔が映る。

燃え盛る火炎によって自分の顔が照らされる。


「ひどい顔だな」


《levelが3になりました。これにより悪魔化がLV2になりました

           これにより大罪が強化されました》


ああ、残虐だな。それしか言葉が出ない。

薄っぺらい言葉の塊しか吐くことができない。

大罪ってのも理解できる。


「町に戻るか」

『乗るか?』

「いやいい。歩いて帰る」

『そうか』


俺は自分の残虐に酔っていたい。

雨が降っているな。自分の良心に。

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