白息吐息

小狸

短編

 吐息が白い。


 それだけで、寒さを感じた。


 12月も中旬になった。


 今年の夏はいつまでも暑さが残ったからか、寒暖差が特に激しいように思う。職場でも、体調を崩している人が続出していた(私含めて)。そして皆口を揃えて、「今年は秋が無かったよね」「秋服の出番が無かったよね」と言っていた。


 確かにその通りだと思った。


 季節の変わり目は体調を崩しやすい。


 栄養のある物を食べ、手足を温めて生活するように努めた。


 新型コロナウイルスの蔓延から数年、電車やバスの中でも、マスクをしない人が散見されるようになってきた。


 その代わりにインフルエンザで、上司の子のクラスが学級閉鎖になったりしている。


 ほとほと人間は学習しない生き物だなあ、と思う。


 まあ、私もその人間の一人なのだが。


 一応インフルの予防接種は打ったので、重症化はしない――だろうと思う。


 それでも罹る時には罹るから、困ったものである。


 冬は、寂しい季節である。


 寒いし、何かが実る訳でもなく、人が積極的に外に行くわけでもない、春への準備期間と言われればそれまでなのだろうが、外出する人の数も減る。この歳になると、身体が徐々に強張ってきて、言うことを聞かなくなってくる。


 それに雪も降る。


 今年はまだ首都圏では降る気配はない。年明け、くらいだろうか、降るとしたら。私の頃はセンター試験(今は共通テストなのだったか)の日に初雪だったから、良く覚えている。勿論悪い意味で、だ。


 昔は雪というだけで楽しかったし嬉しかった。


 外で雪合戦をしたり、雪だるまを作ったり。

 

 しかし今は、車がスリップしないかとか、途中で路面凍結していて転倒しないかとか、替えの靴下を用意しなければとか、子どもたちは無事に下校できるのかとか、そんなことばかり考えている。


 心配だらけである。


 大人になるというのも、考えものである。


 ただ、まあ。


 背が高くなって、新しく見えてきたものもある。


 全てを否定せず、肯定もせず、順番にじっくり、受け入れていこうと思う。


 もう一度、息を吐いた。

 

 白く澄んでいた。




(「白息はくいき吐息といき」――了)

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白息吐息 小狸 @segen_gen

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