第12話「昭和の予感」
夜更け、私は3通目の手紙を手に取っていた。封筒には「昭和五年 西園寺製菓行」と記されている。
「西園寺製菓行...」
その名前を口にした瞬間、玄関から物音がした。
「すみません、こんな遅くに」
来たのは春樹と匠。二人とも何か言いたげな表情をしている。
「僕たち、思い出したんだ」春樹が切り出した。「夢じゃなかった。全部、本当の記憶」
「私たち、会ってたよね」匠も続ける。「違う時代で」
告白に、私の目に涙が溢れる。「うん...会ってた」
「でも」春樹が静かに言う。「あの時の約束は、まだ果たせてない」
「写真の光も、まだ誰かを待ってる」匠が写真を見つめる。
その時、西園寺からメッセージが届いた。
『和菓子の図案集に、面白いものを見つけた。明日、店で会えないかな?』
添付された写真には、古い和菓子の図案。そこにはまるで物語のように、明治時代の新聞社、大正時代の写真館、そして昭和の和菓子屋が描かれていた。
「これって...」
手紙が、かつてない強い光を放ち始める。
「美咲」春樹が私の手を取る。
「気をつけて」匠ももう片方の手を。
「ありがとう」
私は二人に微笑みかけた。今なら分かる。明治で出会った春彦の真摯さは春樹の中に、大正で出会った一真の繊細さは匠の中に、確かに生きている。
でも—。
まだ見ぬ誰かが、私を待っている。
手紙を開くと、セピア色の世界が広がり始めた。昭和の街並みが、徐々に形を成していく。
そこは、朝もやの立ち込める商店街。
古い和菓子屋の前で、エプロン姿の青年が箒を持って立っていた。
「いらっしゃい」
西園寺光にそっくりな、優しい笑顔。
「和菓子職人の西園寺銀次です。君を、待っていたよ」
その言葉と共に、第1クールの物語は、新たな時代へと歩みを進めようとしていた。
『君と出会った時代の約束』 ~タイムスリップ、イケメン、そして運命の恋文~ ソコニ @mi33x
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