第13怪 その手があったか
「ちょっ、いきなり何ですか! 図書室に行って何をするって言うんです!?」
放課後になった途端、年真先輩によって、さらうように連れ去られた。
「恐話だ! 心杜から恐話を訊くんだよ!」
「恐話を訊くって……。訊いてどうするんですか?」
何が何やら分からず、頭が疑問符でいっぱいになる。
「もしかしたらお前の心の傷を癒せるかもしれない」
「それってどういう――」
駆け足で来た為、図書室まではあっという間だった。おかげで息が上がっている。
年真先輩はというと、息切れの一つも起こしていない。この人の体力は本当にどうなっているんだろう。少なくとも女の子の体力じゃない。
そうこう考えていると、無意識で図書室に入っていたらしく、目の前には既に心杜がいた。心杜は相も変わらず仏頂面で愛想のかけらもない。
「またキミたちか……。今度は何の用だ?」
「ハアハアハア! ゲホゲホッ!」
「浅斗、息が荒いぞ。オレにその気はないからな」
言い返したいところだけど酸素が足らない。悔しい思いでスルーした。
「心杜、わたしからの一生のお願いだ。お前の力を貸してくれ」
「突然改まって何だって言うんだ。歌音、キミはもっと不遜な奴じゃないか。拾い食いでもして頭をやられたか?」
自分で言ってツボにハマったらしく、心杜は腹を抱えて笑う。
「……茶化さないで真面目に聞いてくれ」
真剣な面持ちの年真先輩を見て、事情を察したのか、心杜は笑うのを止めた。
「何があった? 詳しく話してくれ」
「大名の妹が多彩な小人に惨殺された。わたしたちは救出に失敗したんだ」
年真先輩が悔しさの為か、大きく体を震わせる。
「……茶化して悪かったな。浅斗、キミにも済まないと言っておく。歌音の態度から、もっと察するべきだった……」
謝辞を述べると、心杜は俯いた。
「顔を上げてくれよ。キミまでそんなに落ち込むことはないさ」
ぼくは儚げな笑みを見せる。
「本当に済まなかった……。歌音の友人はオレの友人でもあるからな。その友人の不幸に気付いてやれないとは、オレは友人失格だ」
心杜の意外な口ぶりに吃驚した。
「キミはぼくを友人と思ってくれていたのか!?」
「そうじゃないのか……?」
「……ぼくの方こそ済まない」
心杜のことは知人としか思っていなかった。これからはちゃんと友人として接しよう。
「心杜は俗に言うツンデレだからな。こいつの言う事は、良い意味で、いちいち真に受けない方がいいぞ」
腕を組みながら、年真先輩がけらけらと笑った。
「話が脱線したが、心杜の力を借りたい」
話は最初に戻る。年真先輩が心杜に頭を下げた。
「オレの力を借りたいということはまたあれか?」
「さすがわたしとの付き合いも長いだけあって分かってるじゃないか。いひっ!」
心杜は呆れ顔でクスリと笑った。
「恐話『
「なるほど。その手があったか」
年真先輩と心杜は微かに笑い合う。何のことかよく分からない。聞いたことがない恐話だ。
「あの、虚実模型って何ですか?」
疑問符を抱き、年真先輩に尋ねる。
「虚実模型についてはオレから話そう」
ぼくは黙って頷いた。
「恐話『虚実模型』とは、交霊出来る妖怪だよ。死んだ者を蘇らすと言っても過言じゃない。浅斗はまた妹と会う事が出来るんだ」
「――えっ! それは本当か!?」
心杜が微笑を浮かべて頷く。
「ただあくまで交霊させるのであって、キミの妹が完全に蘇る訳じゃない。とにかくこれから虚実模型についてのことを話す」
「ああ! よろしく頼むよ!」
心杜に何度も頭を下げる。
「まず、虚実模型に妹の霊魂を交霊させるには、妹の写真が必要だ。持ってるかい?」
「それならいつも財布に入れてある!」
「……重度のシスコンだな。まぁいい。そのおかげで話が早いからな」
シスコンと言われ、慌てふためく。そんなぼくを見て、年真先輩が笑った。
「その写真を虚実模型に貼り付けて、享年の数だけ抱き締めるんだ。そうすると、死んだ者の霊魂が宿り、その者の姿へと変化する。ちなみにここでいう享年の数とは、時間のことであって、分単位だからな。よく覚えておけよ」
「分かった! それで虚実模型はどこにいるんだ?」
「四階の生物研究室だ。そこにある人体模型が妖怪虚実模型だよ」
心杜に礼を言って、図書室から出ようとすると、引き戸に手を掛けたところで、呼び止められた。
「いいか? 虚実模型は妖怪ということを忘れるなよ。そして、虚実模型は恐話ということもな。何度も言うが、キミの妹はあくまで蘇るんじゃないんだ。最後に破ってはいけない決まりごとを話す」
「決まり事って?」
「虚実模型は恐話の一つなんだ、決まり事があるに決まってるだろ」
心杜に先を促す。
「交霊させた者に対して、曖昧な態度を取ってはいけない。曖昧な態度を取ると、その者の自我が崩壊してしまい、狂ってしまう。交霊って言うのは、元々不安定な状態なんだ。恐らく、殺意衝動に駆られる。その上、しばらくした後、霊魂が脱離してしまう。そして、二度とその者の霊魂が宿り、変化することはなくなる。キミが少しでも妹と長く一緒にいたいなら必ず守れよ」
「ありがとう! 肝に銘じておくよ!」
ぼくは大急ぎで図書室から退室した。
――笑花とまた会える!
交霊だろうと何であろうと構わない。
あいつと会えるなら何だってする。
それが兄としての役目だ――。
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ボクの大スキな妖怪センパイ 木子 すもも @kigosumomo
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