第4話 ゲームヒロイン

 ゴリ長の話が終わりメニューを開くと、プレイヤーである僕のステータスが表示された。


名前:エリスロ


所持金:30000ギガ


島レベル:1



 バーチャルモンスターでは基本的にプレイヤーは戦闘力を持たない。

 軽く飛び跳ねたりしてみたが、身体能力は現実世界の僕を基準にしているようだ。他のVRゲームのように超人的な動きはできず、あくまで現実世界と同じ感覚。


 数値では表示されていないがプレイヤーにもしっかりとHPやライフポイントのようなものは設定されているので、敵の攻撃で致命傷を負えばゲームオーバーとなる。


 なので、プレイヤーは基本自分のパートナーに守って貰う必要がある。そんな僕を守ってくれるパートナーのステータスも確認しておこう。



名前:テフテフ/ワーム 性別:♀ 種族:インセクト族


レベル1


HP:30

MP:15

攻撃:10

防御:12

敏捷:8

賢さ:10


スキル

【ネバネバイト】



「ワーム。敏捷ステータスが成長しづらく、かといって突出したステータスもない……と」


 メニューを開くと自分のパートナーであるテフテフのステータスが確認できた。

 レベル1なのを加味しても全体的に低めの数値だ。

 スキルのネバネバイトも、糸攻撃で相手の敏捷ステータスを下げるというもの。


 どうやらこのモンスターは自前での攻撃手段を持たないらしい。

 これでどうやって戦えばいいのか。


「まぁバチモンシリーズじゃよくあることだけどね。やたら難易度の高い初期パートナーモンスターなんて」

「きゅぴ?」

「なんでもないよ。どうにかして戦う方法を見つけていこう」

「きゅっぴ!」


 テフテフはやる気のようだ。定位置に決めたのか、僕の頭上にしがみつきながら威勢良く鳴いている。


「きゅぴぴ?」

「うん? 何をしているかって? ちょっと島の中を探索中」


 ゴリ長の話によると、バチモンオンラインのプレイヤーは一人につき一つ、島を与えられる。

 結構大きな島のようだが、森の木々に阻まれて奥に行くことはできない。現在はゴリ長のお屋敷とその周辺ぐらいしか解放されていないようだ。

 ちょっと広めの公園くらいの広さだろうか。


 現状はショボイが、この島がプレイヤーのホームとなる。


 おそらく島レベルを上げることで発展し、バチモン育成に有利な環境をつくることができるのだろう。

 問題はどうやって島レベルを上げるかだ。


 その答えも、ゴリ長が教えてくれた。


 プレイヤーはホームである島と大陸をワープゲートによって自由に行き来できる。大陸にはさまざまなバチモンが存在し、条件を満たすことでそのバチモンを島に呼ぶことができる。


 島に来たバチモンは、それぞれが仕事を始める。例えば店を開いたり、何かを作ったり、トレーニングの相手になってくれたり。

 もちろん、島に呼ぶ難易度が高いバチモンほど、より凄い発展を島にもたらす。島レベルも大きく上昇しそうだ。


 つまり大陸に行ってバチモンを島にスカウト→島レベルが上がり発展→それによって自分のパートナーを強化→大陸でさらに凄いバチモンをスカウト


 これを繰り返し、自分の島とパートナーを強くすることがこのゲームの目標となる。

 普通に楽しそう……なのだが、懸念材料がひとつある。


「問題は、大陸はマルチプレイってことなんだよな」


 この島が自分だけのものであるのに対し、大陸には普通に他のプレイヤーも存在する。

 昔のバチモンはランクマッチくらいしかオンライン機能はなかったが、VRMMOとなったことでこういった仕様になったのだろう。


 島にバチモンを呼ぶ……方法によっては熾烈な争奪戦が繰り広げられていそうで怖いな。

 一人しか仲間にできないユニークバチモンとかいたら超荒れそう……。


「なんかギスギスしてそうで嫌だな」

「きゅぴ?」

「あ、不安にさせちゃった? いやぁ他のプレイヤーがいるとなると緊張しちゃってね」

「きゅぴきゅぴ!」

「何? 自分が頑張って僕を守ってくれるって? ありがとう~優しい子だなお前」

「きゅぴぴ」


 わしわしと撫でてやると、テフテフは嬉しそうに身をくねらせた。


「本当にリアルだな。まるで生きているみたい」

「生きているよ」


 その時、ふと背後から気配がした。


「エリスロさんは大陸に行くの?」

「ええ、まぁ」


 振り返ると、小学生くらいの女の子が立っていた。どうやらNPCのようである。

 黒い髪と恐ろしく整った顔。

 学生服と神官服を足して二で割ったような服装から、神聖な雰囲気を感じる。


「ええと、君は?」

「私はヒカリ。貴方と同じ人間だよ」

「人間か……ということは」


 これまたバチモンおなじみのヒロイン兼助手キャラといったところか。

 俺がログアウトしている間のテフテフの面倒をこの子が見てくれるのだろう。


 しかし凄い造形だな。流石に30代の僕は小学生の見た目をしたキャラにときめかないが、小学生男子たちがこのゲームをプレイしたら一気に恋に落ちてしまいそうだ。

 そのくらい、可愛らしいビジュアルをしている。


「私もゴリ長と一緒にエリスロさんの冒険を手助けするね。よろしく」

「うん。よろしく」

「きゅぴ!」


 その時、頭上のテフテフのお腹が「ぐぅ~」と鳴った。


「きゅぴ~」


 恥ずかしそうにするテフテフを見て、俺とヒカリちゃんは笑った。


「エリスロさんはこれから大陸に行くの?」

「うん。一通りトレーニングをしたら行ってみようと思ってる」

「そうなんだ。じゃああっちにトレーニング場があるから使ってみて。それと……」


 ヒカリちゃんはプレイヤーである僕と同じようにメニュー画面を表示させる。そして数回画面をタッチすると、お皿とゆでたまごが現れた。


「ニワトリモドキが今朝生んだの。食べてみて。産みたてだから美味しいよ」

「へぇ。産みたて卵をゆでたまごにしたのか~」

「うんん。ゆでたまごを生んだんだよ?」


 え、直接ゆでたまごを生んだの? ま、まぁバチモンワールドだしそういうこともあるだろう……。


「じゃあありがたく頂くよ。ほら、テフテフも」

「きゅっぴ! きゅぴぴぴ」

「俺もっと……んっ! 凄い美味しい!」


 やわらかくそれでいて弾力のある白身をかみ砕くと、その直後、黄身がほどけるように舌の上で蕩けだし、濃厚なコクとほのかな甘みが広がる。シンプルな味わいながらその美味さに驚いた。


「ゆでたまごは自分でも作るけど……これほど美味しいのは食べたことがないな」

「きゅぴぴ~」


 どうやらテフテフも同じらしく、キュートな虫フェイスが蕩けていた。


 VRであじの再現ができると聞いていたけど、ここまでとは。これはいろんな食べ物を食べてみたくなってきたぞ……!


『テフテフ/ワームのレベルが2に上がりました』


 その時、目の前にシステムからのメッセージが表示された。


「もうレベルアップ!? 戦ってもいないのに!?」


 戦闘で勝利しなければ経験値は入らないはずだ。なら、今のゆでたまごにレベルアップ効果があった?


「違うよエリスロさん。一緒に笑ったり、泣いたり。美味しいものを食べたり。綺麗な景色を見て感動したり。エリスロさんと一緒にすることすべてがこの子の経験値になるの」

「そうなのか。まるで人間みたいだな……」


 AIなのに。


「ふふ。『AI』はね。漢字で書くと『愛』なんだよ?」

「はは、なんだよそれ」


 正直言葉の意味はよくわからなかった。でも、このゲームのスタンスはわかったような気がする。

 俺はヒカリちゃんにゆでたまごのお礼を言うと、テフテフと共にトレーニング場へと向かった。

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バーチャルモンスターオンライン ~無職になったので育成ゲームをまったりプレイ~ 瀧岡くるじ @KurujiTakioka

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