第3話 小さな島
「よくぞわが召喚に応じてくれた、選ばれしテイマーよ」
木造の古い屋敷の前で目が覚める。
そして、この屋敷の主人と思われる存在が声を掛けてきた。
「お主、名はなんと言うんじゃ?」
「ども。エリスロです」
目の前の存在は「ふむふむ」と唸っている。体長40センチほどの小さなゴリラのぬいぐるみのような存在は、間違いなくバーチャルモンスターだ。
そのリアルさに感激する間もなく、話は進んでいく。
「ワシの名前はゴリ
「よろしく」
軽く握手すると、ふわふわの手に思わず顔がほころんだ。
不思議そうな顔をしつつ、ゴリ長は長々とこの世界でいま起こっていることを話し始めた。どうやらナビゲーションキャラらしい。
ゴリ長の話を要約すると、かつて平和だったバチモンワールド。そこに現れた邪悪な存在が一度世界を崩壊させた。
進化したバーチャル新世界として再生したバチモンワールドだったが、大陸と無数の島に分離してしまった。
プレイヤー……テイマーには一人につき一つの島を与えられる。この島を発展させ、世界崩壊の謎を解き明かすことがテイマーに与えられた試練なのだ。
「島の発展か……」
ざっと島を見渡す。
ゴリ長のお屋敷の周囲には何もなく、遠くには深い森が広がっている。広そうな島だが、確かに何もなさそうな島だった。
「わかった。けど島の発展とはいっても、何をすればいい?」
「そう焦るんじゃないぞい。まずはお主のパートナーとなるバチモンを呼び出さねば」
そう言うと、ゴリ長はどこからともなくタマゴを取り出した。そしてそれを俺に手渡してきた。
「お、重っ」
バスケットボールほどもある大きさのタマゴはずっしりと重かった。まさに、命の重さと言っていいかもしれない。
「そのタマゴを抱えたまま、いくつかワシの質問に答えるんじゃ。そうすることで、お主の性質に一番合った相性抜群のパートナーバチモンが生まれてくるぞい」
「あると思ってたシリーズ定番の展開! 了解」
この辺は昔のゲームと変わらないな。
俺が小学生の頃からあった、言わばゲームのお約束のような展開だ。「朝派? 夜派?」とか「朝食はご飯派? パン派?」などの可愛い質問を思い出す。
この質問の答えによって、最初に貰えるバチモンの種類が決まるのだ。
初パートナーの性能によってゲームの難易度は大きく跳ね上がる。だからこそ、この質問で狙ったバチモンを呼び出すのは重要だ。僕は全ての質問とどの答えでどのバチモンが貰えるのかを把握していた。でも今回は初プレイ且つ久々のプレイだし、真面目に答えて僕に一番合ったバチモンを選んでもらおう。
「では最初の質問じゃい。
「え……?」
いきなりガチの質問じゃん……。
「えっと、無職です」
「務所? 務所勤めということかのう?」
おい音声入力!
その聞き間違いは洒落にならないって。
「いや、無職。働いてないです」
「なるほど。では次の質問じゃ。年収はどのくらいじゃ? あ、学生はゼロでもいいぞい」
「えっと……学生じゃないけどゼロです」
い、今の僕、無職だからね。
「休日は何をしておるんじゃ?」
「ゲーム……ですかね」
とはいえ、今は毎日休日だけどね。
「ほほう。ちなみに家族構成は?」
「合コンかな!?」
なんか昔より質問が生々しくなってない? 気のせい?
これ配信とかやってる人が大変だな! と思いつつ、すべての質問を終える。
すると、抱き抱えていたタマゴがドクドクと脈打ち、虹色に輝く。
どうやら、僕のパートナーが生まれるらしい。
「きゅぴ!」
タマゴを突き破って生まれてきたのは、緑色をしたイモムシのモンスター。
「無事生まれたぞ! このワームこそが、お主のパートナーじゃ」
「おお……知ってるモンスター来たな」
緑色の40cmほどの大きなイモムシ。名をワーム。
僕が遊んでいた初代版から登場するバチモンで、主に蛾や害虫系のモンスターに進化する。所謂雑魚キャラで、ワームの状態では碌な攻撃技を覚えないはず。
まさかそんな雑魚キャラが初期パートナーとして手持ちに入るなんて……。
「ワーム……ワームかぁ」
正直微妙……。見た目もそうだが攻略難易度が爆上がりしてないかこれ?
「きゅぴ?」
「うぐっ……」
とはいえ。VRでリアルになったお陰か、ドット時代よりも愛嬌がある。肌触りもモフモフとはいかないが、ぷにぷにしていて気持ちいい。
これはこれで……。
「可愛いからいいか!」
「きゅっぴ!」
「もうすっかり仲良しのようじゃな。そうじゃ。お主のバチモンに名前を付けてあげるといいぞい」
「名前か……」
名前……名前か。ちょっと苦手なんだよな……。
「よしじゃあ、テフテフで」
確か芋虫のことを昔の日本では「てふてふ」と呼んでいた……はず。ちょっとおしゃれじゃない?
「きゅぴ!」
「よろしくな相棒!」
ワームことテフテフ。当面はコイツを相棒に冒険することになる。さて、このVRの世界でどんな冒険が待ち受けているのか、楽しみだ。
***
※芋虫のことをてふてふと呼んでいたのくだりは完全に主人公の勘違いです。
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