元天使日記
紫雪
1.羽
天使の羽がとれた。そう、感じた。
数日ぶりの秋晴れで、日差しが部屋に差し込んでいる。
ジリジリと鳴る目覚まし時計を止め、布団の中で伸びをした私は肩甲骨あたりに痛みを感じ、反射的にそう思った。お母さんの声が階段に響いて2階のこちらまで聞こえてくる。スマートフォンで時間を確認し、のそのそ起き上がる。
高校の校舎と中学校の校舎が混ざったような建物内で中学時代の友達に再会し、何かから逃げるために校舎内を駆け回る。今日の夢はそんな話だった。
階段を降りて、朝の支度をする。まだ寝ぼけた脳で先程の違和感について考えていた。
何で「天使の羽」だなんて思ったのだろうか。痛い奴、自覚はある。肩が、とかじゃなくて、精神的に。魔法使いや超能力者だって、いないと気づくのが遅かった。実在するかもしれない、なれるかもしれない、心の隅で、期待しているような気がする。そんなメルヘンな思考は表に出していないおかげで、友達はちゃんといる。それでも、社会的に痛い自分が周りにバレないとしても、「天使の羽」はさすがに痛すぎだ。寝起きなのに、はっきりと、「取れた」なんて感じた。ひとりで勝手に恥ずかしくなる。
多分、昨日は久しぶりに運動したから、どうせそんな理由だ。ただの筋肉痛であることは頭では分かっているんだけど。どうも違うようだ。
そもそも、 前から自分は天使の羽を持っている と認識していたわけではない。 持っていたという前提があって初めて取れた感覚を持つのに 私の場合 順番が狂っている。 ありえないし 馬鹿げているが仮に私が天使だったとしよう。 羽にばっか 着目していたが 輪はどこにある。 羽と同じくらい シンボルである 天使の 輪。 占領している洗面台の鏡に映る自分と目を合わせる。 もちろん 写ってるわけがない 少し目線を 上げて気づいた。 殺した髪は窓からの光に反射してつやつやとしている。 あーね 輪っかは溶けて髪にくっついてい るのか。 我ながら いい例えではないか 。 そう思うと同時にどこまでも痛いやつの自分に嫌気がさした。
もちろん私は天使でも何でもない ただの高校生。 天使の輪も頭上に浮いてなければ取れた 羽もベッドの上に転がっていない 今までもこれからも。 物理的にはそうなんだけど 精神的には 筋肉痛が羽の取れた痛みとなって 知覚している。
本当におかしな話だ。 それでもせめて外に出るまでは 痛いやつでいさせて。 月曜日の朝なんて出不精の私にとってはうまく自分を切り替えるために大量のエネルギーを使うのだ。 制服に身を包み シンプルなメイクを施した 私はリュックを持っていつもより少し遅く家を出発した。 駅に向かい いつものように 友達と待ち合わせ る。中学時代が一緒の友達は、高校は違うものの、今でも交流している。挨拶を交わし、電車を待った。
背負った鞄は、羽の件など無かったように、いつも通り、背中との隙間を埋めた。
元天使日記 紫雪 @shiyuki908
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