霞喰って生きてると死ぬぜ!

西園寺兼続

人は花

 今から創作論の話をします。すごく短いので全部読んで我が身を顧みて恥じてください!


 まずは手短に自分語り。私は数年前、某界隈で二次創作をしておりました。細々と、本当に細々とサークル活動をしており、友人やネットコミュニティ、同人即売会などを通じて楽しいキモオタク・ライフを送っていました。

 二次創作をしていたのですが、私の創作の原動力は承認欲求でした。正直言って、原作の上辺のあたり、浅瀬でチャパチャパしていただけです。原作にあまり愛着はなく、ちやほやされてる自分が好きなタイプのオタクでした。


 で、界隈自体は巨大なもので偉大な名作やら名の売れた二次創作者やらと同じコミュニティで光と影に分かれるわけです。私は上がった土俵でとりあえず食い下がってみようと思い、頑張りましたがダメでした。負けました。片やTwitterのフォロワー数万、同人誌の頒布数は1000冊とかそんなん。私はフォロワー300人くらい、頑張って出した同人誌は15冊くらい売れましたが残り数十冊は全部捨てました。あと人間性でも負けました。

 私は色々と趣味が多く、偉大な方々と差別化を狙って絵を描いたりなんやらしましたがすべてにおいて負けていました。そしてそれに気づいた瞬間、病んで界隈に居られなくなり、SNSのアカウントを消し友人知人関係を断ち切り鬱になってニートになりました。


 でも創作自体は好きだったので、ニート期間中も小説は書きまくりました。結局世に出せる程の形になったものは殆どありませんでしたが、少なくとも文字数のぶんだけ技術は身に着きました。

 されど、もう承認欲求をこじらせて凡百の病みツイッタラー(死語)になるのは嫌だったので、一人で孤独に打ち込んでいました。


「仙人のように、かすみ喰って生きよう」


 そう思いました。ただ修行をしよう、純粋に創作を楽しもうと。仙人と言いましたが写経のように完結しない文字列をひたすら打鍵する日々でした。計ったらビジネスキーボード検定S級レベルです。自分、Sランクです。何の役に立つんだ?


 しかし……霞って、なんでしょうね。


 成果物を見てみましょう。私がニート期間中に打ち込んだ文字列は数十万字にのぼりましたが、長編はおろか短編すら殆ど出来上がらなかったのです。何か空腹で吐いたうっすいゲロみたいじゃありませんか。私は何も吸収していなかったようです。

 妄想の中にしかない偉大な大作を目指しても、永遠に完結しません。原動力が欠けたまま、ずっと空転していただけでした。


 ここでようやくわかったのですが、「霞喰って生きる」とは理想ではなく皮肉です。本当に今更、己の浅薄さに幻滅しました。

 結局、承認欲求そのものを自分で承認してやらないことには始まらない。


 二度とこじらせないと心に誓いつつ、そっとカクヨムとTwitter(思想強め)に新しいアカウントを立ち上げ、ペンネームも「いかにも中年のおっさんが使ってそうな堅苦しいやつ」にしました。あと語彙もおっさん作家っぽくしました。トラブルを避けるため、そして戒めのため。


  ランキングやフォロー作家さんの小説、はてまたSNSでも自分より数字を多く稼いでいる作品が吐いて捨てるほどあって、嫉妬の嵐です。私の方が面白い話を書けるのになんでこんな流行りに迎合しただけのテンプレが……と思わない日はありません。嫉妬です。お前の負けです。私は絶えず敗北し続ける底辺ワナビです。

 案の定といいますか、究極的にコミュニティは人間の精神にとってよくないものなんです。人類は本質的に内向的なコミュ障です。寄り合わないと不利だから馴れ合っているだけじゃないですか。


 それでも過去の自分よりちょっとだけ、自分を冷静に見られるようになりました。仙人の心持ちが多少はいい方に作用していたみたいです。霞というしょうもないものを追い求めた結果、霞よりは少しマシな雨粒のひとつひとつがどれだけ尊いものだったのかを再確認することができました。

 毎日、自作のレビューと感想とブクマといいねとPVを監視していると、少しずつ……本当に少しずつ増えているんです。想定より数字が伸びなくてがっかりすることは多々あれど、数字がたった1ずつでも伸びた事実はたまらなく嬉しい。


 荒れ地を耕すように数十万字の駄文を打ち込んだ結果、気にも留めなかった小雨のひとしずくのありがたみを知りました。それでようやく芽が出ました。まぁ、大成する見込みは薄いのですが、ようやく地上の空気をちゃんと吸えたのでこれからでしょう。無数の根が腐り、芽吹いた一握りも雨が足りずに枯れ、たとえ咲いても美しく愛でられるのはごくわずか。


 禁欲にかぶれた果てに、人が花であったことを知るとはなんという皮肉でしょう。またしても皮肉に突き当たってしまったのですが、今度はへっちゃらでした。滅するほどの幻想が特にないことに気付いた今、そんなことよりレビュー感想ブクマいいねPVです。慎ましく、しかしもっとも尊い糧があれば、人は生きていけます。


 結論。

 霞喰って生きてると死ぬぜ!

 でも、雨粒喰ってかろうじて生きることは出来るぜ!

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